壊れてそして | ナノ
■ 変わらない電話

「ジュード・ローかっこいいよぉ」
「テツ・ローはどうですかね」
「謝って」
「すみませんでした」
日曜の夜、黒尾宅。父は出張、母は仕事ということで、春瀬と黒尾はDVDを見ていた。某探偵&助手アクション洋画である。春瀬はクッションを抱きしめながら地べたで、黒尾はソファに寝そべりながら鑑賞していた。主人公が数名の敵を相手にし、次々と倒していく。よくこんな機敏に動けるものだと春瀬は感心しながらそれを見ていた。
「そういえば、」
春瀬が何かを言えば言葉を返していたものの基本的に映画を静かに見ていた黒尾が、思い出しように口を開いた。
「この前宮城に行ってきた」
「宮城?そりゃまたどうして」
「練習試合」
「へぇー」
仙台牛タン食べてみたいと言えば食い物のコメントかよと笑われる。
「そこにおもしれー変人コンビがいてよ。2人とも1年なんだけど」
「クロの髪型より面白い?」
「面白さのベクトルが違うかね〜。その二人、チビのウイングスパイカーと精密なトスあげる天才セッターで、そのチビちゃんが目ぇ閉じてスパイク打つわけ」
「………?」
「ってなるよね〜でもこれがまたほんとなんデス」
春瀬は首を黒尾の方に向け「???」という顔をする。その顔可愛いと口にはせず思いながら彼女の肩に足を乗せた。
「ちょっと、重い」
「何が何だかわかんないだろ?じゃあそれを実際見てこようぜ」
「といいますと」
「マネージャー」
「やだよー」
何度この会話をしたことだろうか、一年次の頃からこの問答は繰り返されていた。えーと彼女の肩から足をどかし、黒尾は身体を起こす。
「それにもう三年だし、今更だよ」
「いいだろ別に。山ちゃんとか他のセンセもハルが部活に入ることには大賛成だったぜ」
「なんでさ」
「スポーツマンシップな生活態度になるかもしれないだと」
「なんか遠回しに私の生活態度disられてない?」
いつの間にかテレビはエンドロールの画面に変わっていた。肝心なオチをちゃんと見ていないと春瀬は巻き戻そうとリモコンを手に取った。
「やっぱりサポートする奴がいるのといないのとでは違うと思うんだよな。黒尾さんはお前がそのポジにいてくれたら凄く嬉しいんですけれどね」
「ん〜大丈夫だよきっと」
「適当かよ」
その時、ブーッブーッと携帯のバイブ音がした。1度や2度で止まることはなく、しばらく続く様子からどうやらどちらかの携帯に電話がかかってきたようだ。すぐ手元にあった黒尾の携帯は何の反応もない。ということは、
「……………」
春瀬が自分の携帯を手に取って、その相手を確認した途端静かになる。顔は見えないがその表情はきっといいものではない、そう察した黒尾は立ち上がり、テレビを消音にする。彼女の髪を撫でながら、静かにリビングを出た。

ボソボソと聞こえていた話し声が消え、静かになったことを確認して、黒尾はマグカップを二つ取り出してコーヒーを注いだ。ついでに何かお菓子はないかと棚を漁ると小分けにされているドーナツの袋をを発見。しめたとそれを二つ口にくわえ、マグを持ってリビングへと向かう。
「ん」
コーヒーが入ったマグを机に置き、春瀬の頭上で口を開ける。口にくわえていた袋がバサバサと音を立てて彼女の頭を転がった。なんて幸せな雨だ〜お恵みだ〜と爆笑しながら春瀬は礼を述べた。そのまま黒尾はソファに腰かけ、地べたに座る彼女の頭に顎を乗せた。消音を解除し、チャンネルを変える。静寂から一変、地上波で繰り広げられるバラエティ番組。その芸能人の笑い声がリビングに広がる。
「わはは、ウケるこの人」
ドーナツの袋を開封しながら、春瀬は軽く笑う。
「警察、いつもの担当さんだったよ」
別に何でもないというように、サラリとそう言葉にする。予想通り故、黒尾も特に動揺はしない。
「芸人さんって大変だよねー」
その変わらない口調が、余計に。
「ハル、こっち向け」
乗せていた顎を頭から離し、黒尾はトントンと春瀬の肩を叩いた。抵抗する声をあげることもなく、彼女は大人しく振り向く。黒尾は彼女の頭の後ろを撫で、そしてゆっくりと胸に引き寄せた。
「………」
ダランと手を垂らしたまま、春瀬はその態勢の心地よさを感じる。聞こえないように小さくため息をついて、静かにポツポツと話し始めた。
「相変わらず見つからないってさ」
「おお」
「わざわざ連絡してこないでもいいですよ〜って言ってるんだけどね、律儀だよね」
「いい人じゃん」
「うん、いい人」
鼓動の音が、匂いが落ち着く、いつまで自分はこの胸に助けられるつもりなのだろうかと頭の隅で考える。
「もういいって思うのによくないっても思うんだよねー」
「そっか」
「…………もーーーー疲れた〜疲れたよてちゅろー!てちゅろー!」
「だっうっせ!急に叫ぶな暴れるな!」
ヘドバンをかましてくる彼女。ドスドスと頭が自分の胸に当たり地味に痛ぇよと非難の声をあげる。笑いながら、春瀬はソファに頭を乗せた。
「………………うっそ〜」
疲れてないよと言って。もう分からないしと呟いて。彼女は黒尾の手を優しく握った。


「あら、春瀬ちゃん寝ちゃったの?」
「なんかいつの間にか寝てた」
黒尾の母が仕事から帰ってくると、玄関では春瀬をおぶった息子の姿。靴紐を結んで、背中に乗る彼女が起きないようにとゆっくり立ち上がった。
「家まで送ってくるわ」
「はいはいー気をつけてね」
「あいよ。あと、今日電話きてた」
「………そう。何か進展が…あった感じじゃないわね」
「ああ」
ちょっくら行ってくるわとヒラヒラ手を振り、黒尾は家を出た。
しっかり食べてるのだろうかと心配になる程の軽い身体。学校にいる間も今日のように二人で遊んでいる時も表情はコロコロ変わる、だけど。
(初めて会った日から、こいつが泣いている姿を一度も見たことがない)
悲しみが欠如しているわけではない、きっとあの日からーー

明日からまた、いつも通りの口調で、何もなかったように笑って、変わらず過ごしていくのだろう。もし近い未来その日々が変化してしまうことがあれば、真っ先に自分を頼ってくれればいい、春瀬にとって自分は依存される存在になれたらいいと思いながら、俺って独占欲強めだわと黒尾は苦笑した。
[ prev / next ]
←戻る
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -