2015/12月
12月21日
「鉄裁さん、ちょっと」
店と居間を繋ぐ廊下の柱から、手招き。
小声で呼んだけど、鉄裁さんはすぐに気付いてくれた。
「いかがされましたかな?」
「ふふ、ちょっと手伝ってほしくて」
広げたそれをくるりと鉄裁さんの首にかける。
三重に巻いても、まだ余るほど。これぐらいあれば足りるかしら。
「ふむ。これは暖かいですなぁ」
鉄裁さんが口許を綻ばせている。
首元がいつも寒そうだから、一枚でもちゃんと暖かいものに、と思って選んだ毛糸はしっかり役目を果たしてくれそうだ。
「そうですか?良かったわ」
「ええ。一針一針に込められた気持ちが伝わってくるようですな。贈られる相手が羨ましい限りですぞ」
「もう、鉄裁さんまで・・・」
誰に贈るのかなんて分かりきっているのに、そんな言い方をされると恥ずかしい。
そうだ。それなら鉄裁さんのも作ってあげようかしら。
そう聞いてみたけれど、鉄裁さんは「慎んでお断りいたします」と腰を折った。
「それで店長に首を絞められては敵いませんからな」
・・・・冗談、よね?
沁々と呟く鉄裁さんに、私は何も答えられなかった。
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