2015/12月
12月12日

朝一番にお店のシャッターを開けようとしたところで、懐かしい気配を察して振り返る。

「風華、」

「夜一さん、ご無沙汰してます。お変わりないですか?」

「うむ。お主も息災のようで何よりじゃ」

毎年年末に顔を出してくれるのだけれど、今年は少し早い来訪で驚いた。どうしたのかと尋ねてみると、弟さんがどうしても前夜祭からお祝いしたいんですって。

「ふふ、素敵な弟さんじゃないですか」

「面倒なだけじゃよ」

兄弟姉妹がいない私には少し羨ましい。
振り払うように手をひらひらとさせて夜一さんは苦い顔をしていたけれど、でも本気で嫌がっている訳ではないのが分かる。やっぱり大事な家族なんだろうな。

「今日は前祝いということで酒を持ってきてやったのじゃが・・・急で悪いが、お主の飯は喰えぬかのう?」

申し訳なさそうに夜一さんが眉尻を下げている。
けれど、こんな嬉しいご指名をされて私に断る理由なんてない。

「もちろん、喜んで。リクエストはありますか?」

「いや、お主の飯なら何でもよいぞ。ただし肴と白米は大量に頼む」

「ふふ、分かりました」

夜一さんと喜助さんが談笑している間に準備しなければ。
ご飯は一升、ううん、二升分は炊いておかなきゃ。
あとは魚屋さんで今日のお薦めをありったけ買わなければ。もし良いものがあれば、メインはクエ鍋にしよう。出汁も取れるし、〆の雑炊まで美味しくいただける。
夜一さんがいるときはつい魚をメインにしてしまうのは、もう一つの姿のせいかしら。
なんて、言ったら怒られちゃうかな。



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