四十八手
*後櫓*

いくら喜助と言えど、白昼堂々、事に及ぶとは思ってもみなかった風華は、下腹部を貫かんばかりの熱を必死に遣り過ごしていた。

確かに自身は昼食の準備の為に、ここにきた。
適当な食材を見繕って、作業台にしているテーブルに並べた。そこまではいい。そういう場所だからだ。
それが、一体全体、何がどうして、今、こんな状況になっているのだろうか。ここは、そんな場所ではないはずだが、彼にかかれば何処だって密事の場所になりえてしまうのだろうか。

台所の流し台に、手をついた彼女は、そうして頭を捻るばかりだった。


「あァ、・・・ンっ!だめ・・・もう、無理、」

「何言ってるんスか、これからなのに」

肌と肌のぶつかる乾いた音が調理場に響く。
スカートを捲り、下着をずらして突き入れられている。
シンクに手をついているものの、体を支える力は抜けてゆくばかりで、喜助に掴まれた腰で支えているような体勢だ。

「ぁ、ああ、・・・やっ!・・・ん、だめ」

「気持ちいいんでしょ?・・・ほら、風華、」

喜助は彼女のエプロンの脇から腕を差し入れて、服の上からその柔肉をやわやわと揉みしだいてゆく。いつ誰が来ても可笑しくない状況を考慮してか脱がす気はないらしい。それなら、こんなことをしないでほしい、と思うが、それがまた風華自身の熱を上げていることは明白だった。

「教えて?」

「ゃっ!」

故に、口付けだけで簡単に高められてしまった体は、あっさりと彼の侵入を許し、今また、そっと耳朶を嘗められたことできゅうっと芯が疼いてしまった。
思わず目を瞑ると、背後から内部をじっくりと掻き回すような、緩慢な喜助の動きが鮮明に体の芯から脳にまで伝わってきて膝が震える。力が入らない。

「どう?」

「だめ、んんっ!」

しかし、目を開けると、磨きあげられ白銀に輝くシンクに滲んで映る影の存在に、ここが何処だったかを思い知らされる。シンクの端をつかむ右腕に力を込める。
はしたない声をあげる口許を、せめてもの抵抗とばかりにもう片方の手で覆う。

「ありゃ、風華サンたら何してるんスか?」

「んっ、は、・・・ふ、ぁんッ!!」

「そんなことされたら、余計苛めたくなるだけなのになァ」

くつくつと低く喉を鳴らす音がすぐ側で響いて、何かされたわけではないのに、それだけでぞくりと背筋が粟立つ。背後から抱き竦めている長身の彼からは、風華が口を押さえていることなどすぐに覗きこんでしまえるのだろう。

「櫓っていうのは、見張り台の意味もあるんだけどさ、これは確かにそうかもね」

「ん、ふ、んん、んンっ!!」

風華の横顔を盗み見るような体勢で、彼はまたちゅるちゅると音をさせながら耳を噛む。

「乳首もこんなにさせちゃって、そんなに触ってほしいんスか?」

服の上から尖った先端を探り当てられ、下からはいまだ容赦なく突き上げられて、もう限界だった。

「んっ、ぁ、・・・ん、もう、だめ、」

「仕方ないなァ。じゃあボクも、そろそろ、本気出すってことで、」

まだまだ余裕な喜助の声に多少の苛立ちを覚えつつも、これ以上耐えることも難しく、風華は口許を押さえたまま、必死に首を縦に振る。

ーーーー激しくしても、いいよね?

その恐怖を感じるほどの甘美な言葉は、風華の背後から、じわりとそれでいて性急に降りかかってきたのだった。




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