四十八手
*押し車*

「喜助さん、これ、この後、どうするの?」

体が崩れ落ちないように、両腕を突っ張ったまま、風華は首だけを後ろに向ける。自身の両足を抱えあげて背後に立った彼は、繋がった部分を軽く揺する。

「やっ、」

「ぁ、っ、・・・いいね、よく締まってるよ」

薄い唇の端を吊り上げる彼の言葉に、視線を外して前方を向いてしまう。
今彼女の身体を支えているものは、両足を抱えている喜助の腕と、それから、目一杯突っ張っている彼女自身の腕のみだ。

「ん、もう、いいですか」

「ダメに決まってるデショ?まだ『押し車』になってないじゃない」

支え続ける腕も疲れだした風華が問うと、何を言い出すのかと言わんばかりに彼は眉を潜める。
一体何がしたいのか、と批難したいが、それよりも気になる単語が耳に残って、風華は再度首を捻る。

「押し車、ですか?」

「そう。風華サンなら、昔使ったことがあるんじゃないですか?」

落ち目であったとは言っても貴族は貴族。
少なからず、何人かの使用人を雇っていて、更に大事な一人娘だったともなれば、幼少期は当然ながら遊び道具に困ることはなかった。
押し進める度に、かたかたと音をたてて車輪が回り、それに合わせて三つ並んだ木製の雛が上下していた玩具だ。
また随分と懐かしいものの名前が出てきたものだ。

「・・・ほんの小さい頃に、少しだけ」

「そう。じゃあ、大人の押し車は初めて?」

「大人の押し車?どういう・・・やっ、ん!」

ぐりぐりと奥深くまで抉り、肉壁を押し広げるようにかき回しつつ、喜助が身体を前に押してくる。
つられて、彼女の腕も前に出て、シーツの上を数手進める。

「ほら、押し車みたいでしょ?」

背後に立つ喜助に前進されては、同じ場所を維持できよう筈もない。
喜助が腰を引いて浅く入り口を擦り、内部を擦りあげて孔の中を何度も行き来し、密着させた腰をさらに押し付けるように足を前に出す。
それに合わせて風華が頭を垂れて浅く呼吸を繰り返し、肉棒に強く食らい付いて、尚固くなるそれに奥まで抉られて行き場のない快感から逃れるように手を前に出す。

「・・・もう、余計、なっ・・・こと、ん、ばっか・・・、ァン!する・・・や、ぁ、だか、らぁ!」

「余計か、どうかはっ、・・・くっ、あとで、訊くよ、」

「ひっ、や!ぁん、あ、はぁ、」

「っく、・・・もっと、強くして、いい?」

喜助が半身を出し入れする度に、体全体が前後に揺すられる。腰を確りと掴まれていて、ずんずんと強く突き入れられる。半端に開いた風華の唇の端から涎が伝ってゆく。
突っ張ったままの腕に徐々に力が入らなくなり、上体が下がる。このままでは布団に崩れ落ちるのも時間の問題だった。

「もう、腕に、力が入らない?」

まだまだ余裕そうな彼の声を、忌々しげに耳にする。
小言の一つも言ってやりたいが、口から出るのは艶めいたよがり声ばかり。


ーーー『押し車』

歯車が噛み合って動くそれは、幼い子どもの愛らしい玩具であったはずなのに。
次からは余計なことばかり、思い出すことになるのだろう。

他ならぬ、最愛の人のせいで。




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