『最愛』

先導するリサに案内されて、というよりも半ば連れ回されるような形で、数時間後には大量の紙袋に埋もれていた。
「荷物持ち連れてきとったら良かったわ」とぼやくリサと、まだ体力が余っているらしい白とともに、風華の提案でようやく休憩がてら喫茶店に入ったところだった。


表通りから一本路地に入ったその珈琲店は、昼間だというのに人もまばらで静かだ。
荷物が多かったせいか、出入り口に一番近い壁側がソファ席になっている丸テーブルに案内された。

「ところで、風華」

「なに?」

珈琲を二つと、白のクリームソーダを注文するなり、リサに問われて返答に困る。

「この間買ったアレどうやった?」

「どう、って・・・」

「なになに?何の話ー?」

風華が言い淀んでいる隙に、白が身を乗り出してきた。
不味い、これでは二対一だ。

「下着や下着。この間な、男が喜びそうなエロい下着買わせたってん」

「そうなのー!?風華っち、大胆ー!」

数人の客がこちらに視線を寄越していた。
騒がしいと苦情を言われる前に、きゃあきゃあ騒ぎ始めた白の口に人差し指を立てて黙らせる。
昼日中に、ましてやこんな場所でする話題ではない。

「押し付けられたの!それに、まだ着てないし」

「はぁ?なんでやねん!絶対アンタに似合うと思って買わせたったのに」

何ヵ月前だろうか。そのときはリサとローズに付き添って買い出しに行ったのだが、ローズが男性陣の衣服やら何やらを買いに行っている隙に、別行動で下着店に追いやられて、あれやこれやとリサに押し付けられたのだ。

「だって、」

とても着る気になどなれない代物だった。
ただでさえ、現世の服は布が少ないと思っているのに、下着など論外だ。ましてリサが押し付けてくるのは下着としての機能もなさそうな物ばかりだ。

尚も言い淀んでいたところで、頼んでいた飲み物が運ばれてきて、一旦会話が途切れる。
苦味の強い珈琲だが、酸味は少なく飲みやすい。

「まあまあやな」

「そう?私は好きだけど」

「これも美味しいよ。食べる?」

「遠慮しとくわ」

白が上に乗ったアイスをスプーンで掬って差しだしてくれたが、遠慮した。
元々甘いもの自体がそこまで好きではない上に、この珈琲の後ではより甘く感じられそうだったから。
同じようにリサにも勧めていたが、彼女も「こんな寒い日にアイスなんかいらん」とばっさりと切り捨てていた。
二人ともに拒否された白は、ぶすっとした顔で「いいもーん。もう二人にはあげないから」とほうばっている。

「ねえねえ、どんなの買ったの?」

「こーゆーヤツや」

「きゃあー!セクシー!!」


白が一枚の紙切れを覗きこんで騒いでいる。
というか、持っているそれは、なんだ。

周囲の客の目も忘れて、思わず風華は叫んでいた。

「ちょっと、リサ!?なんで写真なんかあるの!?」

彼女が持っていたのは、押し付けられて試着させられたときの写真である。
鮮やかな赤に、オレンジの刺繍糸で、蝶と花弁をあしらってある揃いの下着だった。
デザイン自体は愛らしいのだが、全体がレースになっていて、上下ともに肌が透けて見えるものだった。
ちょうど、ブラのホックを後ろ手に止めているときに撮られたらしく、写真の中の風華は少し首を後ろに向けている。
ところで、この写真は盗撮ではないのだろうか。
というよりもいつ撮ったのだろう。
カメラを持っていた様子は無かったのに。

白から写真を奪い返すと、「えー、返してよー」とむくれていたがそれは無視して、写真を鞄にしまう。帰ったら即焼却処分だ。



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