愛を教えて、


息をしようと顔を背けると首筋を舌でなぶられた。突然のことに「ぁっ、ん」と甘い声が漏れ「風華サンたら、可愛い」と耳元で低く囁かれる。その声にぞくりとして、体の奥が疼き、目を強く瞑ってしまう。
いつの間にか両腕を頭の上で一つに纏められていたようで、空いた手で浴衣の合わせを開かれて、また目を見開いた。
白い胸元がひやりとした外気に触れ、月光に晒される。

「やっ!?浦原さん!何を!?」

「アナタに会ってから可笑しくなったみたいなんスよ、ボク」

喜助は自嘲して、その白い柔肌を揉みしだく。彼の掌でさえ覆いきれない程、質量のあるふくよかな胸の感触を楽しむようにやわやわと何度も揉む。

「ずっと、こうして、アナタに触れたかった」

酒のせいか少し汗ばんだ肌は彼の掌に吸い付くようで、それでいて滑らかな感触で喜助を愉しませる。

「こんなに一人の女性が欲しいと思ったのは初めてで・・・なのに、アナタはいつまで経ってもボクだけを見てはくれない」

「んっ、浦原、さん、こんなの、だめ!」

「だめ?こんなに気持ち良さそうなのに?」

沈みこむ指の合間で少しずつ主張を始めた桜色の突起が目についた。喜助はすかさずきゅっと立ち上がった蕾を摘まむ。

「あぁっ!」

「イイ声、もっと聞かせて?」

「ひゃ、んんっ」

ぺろりと耳を嘗められて風華はびくりとする。
その合間にも胸をなぶる手は止まらずに、時に強弱をつけて彼女の快感を高めようと愛撫し続けている。

「ね、風華サン、感じてる?」

「はぁんっ!」

指先で勃った乳首を軽く弾かれる。
彼女とて少ないが、こういった経験がない訳ではないのに、与えられる愛撫に翻弄される。

「他の男のことなんて考えないで、ボクだけを見て下さい」

この人は、一体何を勘違いしているのだろうか。
快感の波に抗ってみようとしても、新たな波が押し寄せてきて口を挟むことも出来ない。
はしたなくも欲に染まった声ばかりが上がる。

「風華サン、可愛い。もっとだ、もっと啼いて」

「あ、やぁ、ちが、う!浦原、さん、やめっ」

ちゅと乳首を吸われ、そのまま舌先で押し潰される。濡れた音が響く。

「風華、風華」と譫言のように名を呼ばれる。
いけない。このままでは。
間違っているのに、彼を止めなければいけないのに。
それなのに、快感に溺れつつある体は最早自身の意思など関係なく、甘い声を響かせるばかりでまともな言葉が紡げない。

「だめ、んぁっ、喜助、さん!」

「酷い人だ。こんなときに名前で呼ぶなんて。」

「ちが、うの!聞いて!」

「嫌だ、聞きたくない」

アナタの口から違う男の名前なんて、そういって喜助はまた彼女の唇を塞ぐ。
風華の胸を愛撫していた指先は次第に降りていき、浴衣の裾から滑り込む。

「ん!?んん!」

抵抗する風華を嘲笑うように、彼の指先は脚の付け根をなぞり出す。じわじわと中心に近付いてくる指先に、まだ触れられてもいないのに風華の体は熱をあげて蜜を溢れさせている。
片手はいまだに風華の胸を掴んだままで、ふいにきゅっと二本の指で摘ままれて、彼女は背を反らせた。

「だめ!そこ、あぁ!」

その隙をついて指先が茂みの奥に滑り込んだ。
ぐちゅりと濡れた音が響いて、喜助は薄く笑う。

「よく濡れてますよ、風華サン」

「んん!やめ、てぇ、あぁ!」

ぐちゃぐちゃと濡れた音をさせながら、入り口を擦るように行き来する彼の指先を止めようと、風華は腕を伸ばすが快感に力が入らない。

「風華サン...もっと、ボクだけを感じて下さい」

「あぁん!」


穏やかな口調とは裏腹に、喜助にはいつもの穏やかさも、聡明さもない。
こんなに余裕のない彼は見たことがない。

分かっている。
彼をここまで追い詰めてしまったのは、誰あろう風華だ。

甘えることが怖かった。
大切な人を作るのが怖かった。
愛してしまうのが怖かった。
愛されてしまうのが怖かった。
こんな風に想われたかった。
彼に愛されたいと願った。

けれど、彼から想われるはずがないと、逃げ出した。
優しく見つめられる度に。
甘さを含んだ声で呼ばれる度に。
気のせいだ、と気持ちに蓋をして。
そうして、ずっと逃げ続けてきた。

こんな風に触れて欲しかった訳ではない。
こんな風に一方的な愛情が欲しかった訳ではない。

それでも、彼に求められていることに歓喜にうち震えている。
なのに、お互いにすれ違ったままだなんて。
想いは涙になって、風華の目尻から伝っていく。

「はっ、あ!ごめん、なさ、い、赦し、て」

「泣かないで、風華」

はらはらと溢れ落ちる涙を喜助は舌で舐めとって、それから、また辛そうに眉を寄せたまま、でも、と続ける。

「アナタのお願いでも、もう止まれない」

そうしてぐちゃりと濡れた音をさせて、指先が濡れた蜜壺に捩じ込まれた。

「あぁああ!」

そのまま激しく抜き差しされて思考が快感に拐われる。ぐちゅぐちゅと掻き回されて泡立つ音が響く。
その音がさらに羞恥と快感を煽って彼女を翻弄する。

「どう、風華サン、気持ちいい?」

一本だった指はすぐに二本、三本と増やされて、中でばらばらに蠢いている。
かり、っと奥を擦られて、更に腰が浮く。

もう何も考えずにこのまま身を委ねてしまいたかった。でも彼の誤解を解かなければならない。
このままでは彼の為にもならない。

「違う、の、はぁ!んん、やぁ!あの、ぁあ!鉢植え、はっあ!」

「だから、今は聞きたくないんスよ、」

「やぁ、ん!紅姫っ、なの、んん!」

「・・・・・・・は?」

「はぁ、ぁん、」


その名は彼の動きを止めるのに功を成したようだった。
喜助は茫然としまま、拘束していた腕を離して上体を起こした。

ずるり、と抜けた指先に、風華は身震いをして甘い息を吐き出した。
喜助は瞬きも忘れてしまったかのように、庭先の花に視線をやってから、また風華に視線を戻した。
 

「...風華サン、今、なんて?」


上がる息を整えつつ、未だ快楽の海に溺れたまま風華はまたその名を伝える。


「はぁ、だからっ、紅姫、です」

「それ、って」

「浦原さん、ご存じなかったんですね、あの花」


風華は暴かれた浴衣の前を軽く直しながら、ゆっくりと体を起こして溜め息をついた。彼が自身の刀の別名を、その存在を知らないとは思わなかった。

そうして、未だ風華を見下ろしたまま固まっている喜助の頬に掌を添えて、触れるだけの唇を交わす。

「私の大切な人は、浦原喜助さん...貴方です」

「風華、サン」

喜助は彼女の名を口にしたきり、それでもしばらく動きを止めていたが、突如、はっとして彼女から離れた。

「すみませんでした!」

そうして頭を下げた喜助を見て、風華は数回目を瞬かせてから、くすりと笑った。

「顔あげて下さい、浦原さん」

「そういう訳には」

「気にしてませんから」

「ですが」

「それに、嫌じゃなかったから」 

「風華サン・・・」

恐る恐る顔をあげた喜助に、風華は恥ずかしそうにしながらも、はにかんでみせた。

こんな形になってしまったが、それでも、彼に触れられただけで、あんなにも体が熱くなっていたのだ。
本気で嫌ならああも翻弄されるはずがない。


「風華サン、こんなボクでも、まだ大切な人だと言ってくれますか?」

「今さらこんなことで嫌いになったりしませんよ。というより、浦原さんこそ、私でいいんですか」

「アナタで、じゃない。アナタがいい」

はっきりと言い切った喜助の言葉に風華は顔を赤くして。

「・・・嬉しい」

花が綻ぶような笑顔で呟いた風華に、喜助は慈しむように唇をそっと重ねた。
そうしてすぐに唇を離すと、彼はまた先程のように眉尻を下げて「今夜は帰ります」と告げて背を向ける。
しかし風華は「待って、」とそれを阻んだ。

「続き、してくださらないんですか」

「それは、」

「辛いのは男性だけじゃないんですよ?」

「・・・・・」

「浦原さんってば」

「・・・」

もう、と風華は溜め息を一つついて。
それからもう一度呼び掛ける。

「ねぇ、喜助さん」


もう逃げないから。
だから、お願い。
愛を教えて、下さい。


「・・・ホント、アナタには敵いそうもないな」



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