愛を教えて、


さすがに縁側では、という意見は一致し、喜助は彼女を横抱きにして寝室へ上がる。
休む前だった為か、既に敷かれていた布団へと、着崩れた浴衣はそのままに彼女をそっと下ろして、覆い被さる。

「ん、ふぁ・・・んっ、ぁん」

先程よりも深く口付けを交わす。
重なる唇の合間から彼女の吐息が漏れて、より一層煽られる。ーーもっとだ。もっと、欲しい。


下唇を食んで、唇を開かせるとその合間から舌を滑り込ませる。
柔らかい舌が奥へ逃げるようにするので、絡ませて味わうと、彼女はびくりと体を反応させて鼻にかかる甘い声を漏らした。
もっと味わいたかったが、風華に胸を叩かれて喜助は唇を離した。
どちらのものとも分からない唾液が、つぅ、と一筋の糸を作って切れた。

「苦しかった?」

「もう、浦原さん、息ぐらい、させて」

ぜえ、はあ、と肩で息をする風華に「ごめんね」と笑う。
どうにも風華のことになると自身は余裕がなくなるらしい。
それはそうとして。


「ところで風華サン」

「はぁっ、はぁっ、・・・なんですか」

「名前、呼んでくれないんスか?」

「はい?」

「だから、“喜助さん”って」

「あ、」

「アナタのその声、腰にクるんスよ」

にやりと笑った喜助に、風華はさっと目元を赤く染める。そういう顔も劣情を煽るだけだと知らないのだろうか。

「もう!」

「だってホントのことなんスもん」

胸を叩いて抗議する風華をからからと笑って見てから、ぎゅっと抱き締めて。
耳元で呼び掛けると、彼女は小さく甘い吐息を溢す。

「お願い、風華」

「・・・ぁ」

狡い人、と視線で咎められたことには気付かない振りをして喜助は耳朶を食む。

「ん、喜助、さん」

「まだ」

「喜助さん」

「・・もっと」

「喜助さん」

「・・・うん」

「喜助さん」


最後に小さく「好き」と甘えるような声で言われてしまい、喜助は苦笑した。


「風華サン、あんまり可愛いコトされると、加減できなくなっちゃいますよ?」

「全くもう。とてもさっきまで無理矢理事に及ぼうとしてた人の発言とは思えませんね」

「それは、本当にすいませんでした。どうもアナタのことになると、ボクは余裕がなくなるらしい」

「そうですね、花に妬いちゃうくらいですもんね」

そういって風華が笑うと、喜助はバツの悪そうな顔で視線を反らす。
一人の女性にこんなに入れ込むことがなかったから、距離感が分からずにいた。もう少しあからさまに攻めておけば良かったのだろうか。


「風華サンこそ、さっきまでの可愛らしさドコにやったんスか」

「あれは、その」

風華が視線を逸らす。
普段強気な女性が、弱った様子を見せる。
そういうところも、男からすれば、そそるだけだということを彼女は知らないのだろうか。


「風華サンのそういう強がりなトコも好きっスよ」

「もう、浦原さんはすぐそういう、ひゃっ」

「名前で呼んで下さいって」

「ふぁ、ん」

意識していないと呼び方が戻るのは当然といえば当然のこと。そして普段の彼女を考えれば、余裕が出てくればこうなるのも仕方ない。
だが、それを甘んじて眺めているだけでは面白くない。
喜助は徐に胸の突起を指で弾いてみた。
すると、全く予期していなかった風華から上擦った甘い声があがる。
気をよくした喜助は何度か弾いた後に、吸い付いてみた。

「ひゃ、んん!」


目元を紅く染めて風華が猫のような声で鳴いた。


「気持ちイイ?」

「あっ、ぁん、や、」

「どう、風華サン?」

「ぁあ、だめ、やだ」

「胸、嫌なんスか」


赤い顔で首を振る風華を見下ろしてから、「仕方ないっスねぇ」と喜助は風華の脚をがばりと開く。


「あ、やだ!待って!」


風華は驚いて脚を閉じようとするが、当然閉じられる筈もなく。
もじもじと動く度に微かに湿った音がした。
先程から時間もあまり経っていないため、そこはまだ充分に潤っていた。
喜助はそのまま顔をそこに近付けて、ふっと息を吐きかけた。


「ぁっ!」

「風華サン、ココ、よく濡れてますね」

「やぁ!や!はぁん、そんなとこ!だめぇ、」


汗と、それから熟れた女の匂いをさせる秘部に舌を伸ばして、ぐちゅぐちゅと激しい水音を響かせて行き来させる。

「いや、そこ!や、あぁん!はぁああっ」

舌で嬲りながら、勃ち上がった肉芽を摘まんでやると風華は一層高い声で啼いた。

「あっ、あっ、やぁあ!んっ!」

「イキそう?」

「あ、だめ!んんっ!」

「ほら、風華、イって」


舌を出し入れしながら、指で肉芽を弾く。

「あぁああっ!!」

びくりびくりと体を痙攣させて、彼女は達したようだった。
短く息を吐きながら、絶頂の余韻か、まだ爪先を丸めている。

「風華サン、可愛い」

「喜助さん、お願い、もう・・・」

目に涙を浮かべて風華が請う。
濡れた瞳に誘われて、思わず生唾を呑み込んだ。


「ボクも、もう限界っス」

下履を弛めて熱く脈打つそれを取り出して、ぬるりと彼女の入り口をする。

「入れるよ、風華」

「はっ、ぁあ!!や!」

狭く熱い彼女の中は入れるだけで吐き出してしまいそうだった。だが、これ以上みっともない真似はしたくない、と遣り過ごす。

「くっ、ぁ、風華サン、締めすぎ、」

それから、無理矢理奥まで捩じ込んでから、律動する。

「やぁ!激し、い!きすけさ、まって、」

「無理、だ、こんな!中、スゴい!」


彼女の中は、まるで誂えたかのように、自身に合っていて。
あまりの気持ちよさにすべて持っていかれてしまいそうだった。
彼女の啼き声も相まって、ひたすら中を貪る。
肌のぶつかる乾いた音が、弾けるように、彼が腰を穿つ度に何度も響く。

「だめ!やっ、そこ!ぅああん!」

「ココ?ココが、イイ、んス、ね?」

何度も抉り、風華が乱れる箇所を探し当てた。
更にそこを突いてやると、彼女は生理的な涙を流し続けた。
それにも煽られて、腰を止めることができない。


「だめ、だめ!やだ!喜助さん、もう、」

「ボクも、もう、無理、」

「喜助、さんっ、だめ、」

「ぁ、風華、ぅあ、はぁ、愛してる、よ」


自然に紡がれた言葉を聞いて、先程から焦点があだていなかった女は、はっとしたような視線を向けてから、また笑って見せた。

大丈夫だよ。というように。
人を愛することが怖くないのだろうか。
拒否されてしまうとは思わないのだろうか。


「あっ、あっ、や、くる!だめ!やぁああん!」

「く、っ!ぅあ、」

欲望は留まることを知らず、白濁が飛び散った。
ずるりと引き抜いて余った白濁を外に出す。
掌で受け止めきれずに、彼女の忙しなく上下する腹に撒き散らされたそれを、見下ろして喜助は自身の腕で額の汗を拭う。

「風華サン、大丈夫っスか?」

「はい、」

掠れた声ではあるが、ちゃんと返事をした風華に安堵してから周りを見渡す。と風華が力の抜けた腕で部屋の奥を指し示す。

「手拭いでよければ、あちらに」

それを手繰り寄せると、喜助は掌と、それから彼女の腹を拭う。そうして風華に上掛けをかけてやってから喜助もその中に滑り込んで、抱き寄せる。

「・・・浦原さん、狭くないですか」

「こうしてくっついて寝たら平気ですよ。それより名前」

「普段は浦原さんでいいじゃないですか」

「どうして」

「だって、腰にクるんでしょう?」

「それがいいんスよ」

「ダメです。毎回こんなんじゃ、私の身がもちません」

「えー。こんなのまだまだっスよ」

「ダメです。それより浦原さん、明日は」

「大丈夫、非番っス」

だから朝までこのままで、とこめかみに唇を押しあててやると、風華はぐりぐりと額を胸に押し付けてきた。むずがるような、甘えるような仕草に充足感を覚えて、抱き寄せる腕に力を込めて、ひっそりと押し寄せてくる睡魔に身を委ねた。



余談だが。
風華はこのとき失念していた。
明日の朝に、ひよ里から暇潰しに本を借りる約束をしていたのを。
結果、戸を叩いてもなかなか出てこない風華を心配した友人が、寝室で、脱ぎ散らかされた衣服と布団にくるまる二人を見て、絶句したのちに辺り一体に聞こえるほど最大級の絶叫をあげてくれたお陰で、僅か一日で二人の関係が護挺隊に知れ渡ることになったのは、また別の話である。


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