道外れの機械人形


ぱちり、ぱちり。
喜助は数回瞬いて薄い瞼を開く。

薄暗い部屋の中。
窓に叩き付ける雨音。
強く吹き、窓枠を揺さぶる風の音。

雨が降っているせいだろうか、より暗い室内で傍らの彼女を見る。

「・・・ん、」

薄く開いた唇から漏れた吐息に、安堵する。
この腕の中の温もりが、手の届かないところへ逝ってしまうところだった。
失う可能性を、いつも恐れている。
本当は、風華の義骸に発信器なりなんなり、常に所在が分かるようにしておきたかった。
けれど。そこまで彼女を束縛してしまうことも憚られた。
籠の鳥にしてしまえば、より外に焦がれてしまう可能性もある。
何より、籠に入れられたままの鳥が、その麗しい羽根を畳み、美しい声で鳴くことを止めたまま、朽ちてしまうなど、一体誰が望もうというのか。

だからこそ、簪を贈るに留めた。
彼女が始解すれば、その瞬間に居場所が分かるように、と。
もっと早くに、彼女にもそれを告げていれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。
けれど、抜刀することで、『いつでも喜助を呼びつけることが出来る』などという機能を彼女が喜ばないことも知っていた。

『喜助さん。私は、貴方の邪魔はしたくないの。だからお願い。貴方は貴方のことだけ考えていて』

きっとそう言って、柔らかく、しかし確かに拒絶するに決まっていた。
念には念を、と、喜助だけでなく状況により鉄裁、夜一、果ては真子やひよ里にまで報せが届く仕様になっていることなど。尚のこと、告げようがなかった。
だから敢えて告げずにいた。
だから敢えて『生き延びて』とだけ告げたのだ。
助けられると思っていた。絶対の自信があった。
失敗など起こり得ないように、
風華に危険が及ばないように、
ありとあらゆる手段と策を講じた。
けれど、結局はーーーーー。

喜助はふるりと頭を振って、また傍らの柔らかな温もりを抱き寄せる。
風に揺れる稲穂色の髪に鼻先を刷り寄せれば、甘い花の香がする。

「・・・風華」

すうすうと変わらず寝息を立てる彼女に申し訳ないと思いつつも、喜助は抗いようのない内から込み上げる衝動のままに、彼女の体を組み敷く。
雨のせいか、室内の空気はねっとりと重く。
それが、肌に纏わりついて、情事の際を思い起こさせたからかもしれない。
或いは、彼女の存在を確かめたかったのかもしれない。

いつもなら風華が起きるのを待つのだが、今はそれを待っていられる気分でもなく。仰向けにした彼女の白い双丘に手を伸ばす。
両脇から寄せるように掴む。
白い丘の間にくっきりと深い渓谷が現れる。
その谷間に入り口をなぞるように、舌を這わせる。
白磁の如き滑らかな肌から立ち薫る甘い匂いに誘われるままに鼻先を埋める。

「・・・んぅ、」

僅かに鼻にかかった声がしたものの、起きた訳ではないらしい。
だが、擽ったさを感じたようで、枕元にあった彼女の手が、喜助を追い払うように胸元を隠そうとする。

「じっとしてて?」

喜助は顔を上げると、その手首を掴みもう片方の手首とをまとめ上げる。

お楽しみはこれからだというのに、こんなところで抵抗されては敵わない。
喜助は細いリボンを取り出すと、緩く風華の手首を縛りつける。文机の脇にいつも用意してあるそれは、風華に見つかる度に持っていかれてしまう。
だが、隠し場所はいくつも用意してあり、そのすべてが彼女に見つかることは有り得ない。

喜助はまた双丘に顔を埋めた。
柔肌の上を舌が行き来して、ぺちゃぺちゃと唾液が擦り付けられる音が大きくなってくる。
丹念に嘗めたところで、顔をあげて、両脇から手を離す。
ふるんふるんと揺れて、薄明かりに唾液に濡れた肌が浮かび上がる。

「ねぇ、風華」

うっすらと主張を始めた胸の飾りを口に含み、吸い付きながら舌でこりこりと押し潰す。

「気持ちいい?」

組み敷いた彼女の腰がシーツの上で揺れ動いている。
眠っていようとも十分に快楽を覚えていることが分かり、喜助は満足げに目元を細める。

「もっとしてほしい?」

答えはない、と分かっていて声をかける。
切なげに眉根を寄せる表情が堪らない。懸命に堪えている様子に欲情する。

「こっちはどうなってますかね」

ーーーーーちゅくん。
指が飲み込まれてしまう程に濡れそぼっている。

「・・・っ、ぁ、」

「ドロドロじゃないっスか。本当、感じやすいんスから」

数回指を前後させただけで、愛液まみれになった指先を舐める。甘い蜜の味が舌に絡み付く。
もっとだ。もっと欲しい。
喜助はにたりと口の端を吊り上げて、風華の膝裏に手をかけた。

「いい加減起きないと、知りませんよ?」

出来れば起きなければいいと思いながら、口ではそんなことを紡ぐ。
こんな風に熱を高められた状態で起きることになれば、おそらく彼女から求めてくれるはずだ。
濡れに濡れて、溢れた蜜が割れ目を伝い、シーツにまで染みを作っている。

「勿体無い・・・ボクが全部舐めてあげるからね」

開かせた秘所に顔を寄せると、噎せ返したくなるほどの、濃厚な女の香りがした。
まずは優しく触れるだけ。舌先で、下から上に数回舐める。
ひくり、と内腿が震えて、吐息が舌足らずな言葉に変わる。

「・・・ん、ぁ、やだ、・・・だめっ、」

「ああ、残念。起きちゃったか」

もうあと五分ほどでこのまま追いやれそうだったのに、とひっそりと溜め息をつきながら上体を起こす。

「え、喜助さ、ん?・・・やだ!?何して・・・!?んっ、もう!これ外してください!」

「それは無理っスよ。もうボクのこれがこんなになってるんスから」

寝込みを襲われているという事態に気付いた風華が、腕を振って、手首の紐を外すように訴える。
だが、喜助は肩を竦めてそれを取り下げると、腹に付きそうな程に反り返り熱く猛ったそれを、彼女の腰に擦り付けた。

「ぁ、やっ、だめ、」

ちゅくちゅくと濡れた音をさせて性器を触れ合わせると、風華は眼を瞑り、ふるりと体を震わせた。

「欲しい?」

「やぁ、ンっ、」

背を反らせるものの、まだ完全に欲しがってはくれない。
やはり意識のない間に一度頂上まで連れていってやれなかったのが悔やまれる。
だが、既に喜助の屹立した肉棒は先走りの汁を垂らしている。

「もっと欲しがって、」

「・・・喜助さん?」

体を起こした喜助を訝しげに見上げてくる風華の唇に、自身のそれを重ねる。
へらりと目尻を下げた喜助は、風華の腹の上に股がり、猛った半身に手を添える。

「何、するの?」



20/21


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -