誰に作ろうか。

「元姫。厨房の表に、男子禁制と貼っていらして。」


王元姫は春華に言われたとおりに張り紙を貼った。

「良いですか、今日は師や昭が食べ物を探しに来ても中に入れては行けません。もちろん主人もです。まぁ、入ろうとすれば。」


カタン
入り口で何か獲物が引っかかった様子。
「わっ、なんだこれは!春華!降ろしてくれ!」

こういうことになるらしい。
恐るべし奥方。

「今日は二人でバレンタインの贈り物を作ります。」
「バレンタイン?なんですかそれは?」
「愛しいとの型に想いを形にして贈るの日のことです。西の方では
カカオという豆を液体状にして固めるの。教えてもらったので二人でやりましょう。」
「あ、はい。わかりました。」

要するに、子上殿に作ればいいのね。
元姫はそう思っていた。



しかしそれは本当の想いとはすれ違っている。


「んーもっと甘い方がおいしそうね。」
チョコレート作りに悪戦苦闘する女二人。
「春華様、もう砂糖がありません。」
「表にあるはずだから取ってきてくださる。」
「わかりました。」

厨房を出る元姫。
入り口ではなんだか揉めている。
というのも、春華の糸に吊された司馬懿がひたすら助けを求めていた。
「元姫か!ちょうど良かった。ほどいてくれないか。」
いったい何時間この体勢だったのだろう。
足に糸が絡まり、逆さまの状態。
頭に血が上っているでしょうに。

解こうと手を伸ばす元姫
が、

「父上、何をしておられるのですか?」
訪れたのは師だった。
「元姫、父上は何をしているのだ?」
「ししししし子元殿…。」

すっかり頭が真っ白になった元姫はその場から走り去ってしまった。
「おい!降ろしてくれと頼んでいるのに!元姫!」


未だに馴れない。
想う人と目を合わせるだけで熱くなる。

話しかけられても冷静に話しかけられない。
あなたの背中を見ているだけで精一杯なのです。


そう、だから自分があの人に贈り物をしようなんて考えられない。


闇雲に走る元姫。
曲がり角で人にぶつかる。
その人は跳ね返ることなく元姫を受け止めた。
厚い胸板。
相手は自分の婚約者だった。
「元姫、何してるんだ?」
「子上殿、ごめんなさい。前見ていなくて。」

この人の前だと非常に冷静。
兄弟でこの差は何なのだろうと自分でも驚く。
「どこに行くんだ?」
「砂糖を取りに。春華様に頼まれたの。」
「はは〜ん。バレンタインか。母上昨日から張り切っていたもんな。」
「そうなの。」
「元姫は俺にくれるんだろ?」
「そうね。マズくても全て食べてね。じゃぁ。」

走り去っていく元姫
その背中を見て昭はため息をついた。
「それでいいのかよ。ったく。ああいうところがめんどくせぇ。」


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