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ああ、やばい。しにたくない。まだ、まだ、『彼に出会えていない』のに…!










「やああぁーーーーーーー!!」

高層階の方からその叫び声をまず拾ったのは、現場一階に居合わせたソルジャーたちだった。暇をしていたからと連れてこられたソルジャー1st3人組は、声のした方へと一斉に首を振る。
その目を持って見上げてみれば、上から落下物が飛来してくるのがわかる。
一つは大男。
もう一つはドレス姿の女だった。
なんだ?聞き覚えがある声だ。



重要人物である社長らしき人影がないことは見ればわかることだった。では、もしかしたらどちらかがアバランチか。両方アバランチかもしれない。その逆もしかりだ。
どちらも拾うか、とセフィロスはアンジールに目配せをする。こういうとき、ジェネシスは基本動かない。から、頼まない。

着地点を確認し、風魔法でも唱えようとした。
その時、最初に聞こえた声が、また叫んでいた。

「…めんなさい!ごめんなさい!また死ぬなんて流石にイヤかもーーーー!!」

また、しぬなんて。
刹那に、セフィロスは考えた。
まて、いや、動きながらでいい、考えろ。
この声。


どこで聞いた?


ガッ、と。凄まじい音を立てて、セフィロスは地を蹴った。
ビルの壁面を足場として、更に更にと高度を上げる。
近づけば近づくほど、その姿形に見覚えを感じ、増していく。

考えるまでもない。
自分が意思を持って覚えていようとする声なんて。









一つしかないじゃないか。









「助けてっ…!」



もちろんだと答えてやりたい。その不安げな声にもう大丈夫だ、と声をかけるのだ。
真っ逆さまに落ちてくるその身体を、セフィロスは自らの両腕に誘い込んだ。
その重みに、実感というものを得る。

落ちてきたそれは、痛みに怯える顔であったが、予想していたものよりも遥かに軽い衝撃に疑問を抱き、恐る恐ると目を開けた。
夜空のように黒い瞳。
何十年と想い、探し続けたものが、今手の中にあった。

「俺の知っている千夏は、もっと落ち着いた印象だったと思ったが、違ったか?」

こんなビルに遊びに来るような子ではない。
吹き抜けから落ちてくるようなこともない。
もっと、もっと、記憶の中では、彼女は大人びていたような気がした。
子供に優しく、困っていると知れば見ず知らずでも助け、手を差し伸べる。

そうだ。

『俺は彼女を知っている。』





「…そんなことない。きっと貴方がまだ、見たことがなかっただけよ…。」

その涙が恐怖からか、歓喜からかなどはわからなかった。どうでもよかった。
ただ、まだ震える腕を必死に伸ばして、頬に触れる。
存在を確かめるように優しくなでて、欲しかった笑みを浮かべた。


「貴方を見つけた。セフィロス。」
「待たせて悪かった…。千夏。」


もう離れないようにと、強く抱きしめた。







急に飛び出していったセフィロスに、アンジールは驚きを覚えていた。
任務帰りにいきなり呼び出されなんてしたら、彼の期限は氷点下もいいところ。絶対零度でもお茶がわかせる。
その彼が、顔色を変えて真っ先に人命救助に駆け出していった。
いつもなら頃合いを見て拾う、程度の動きしかしないのに。今回もそうするのだろうと、アンジールはもうひとり、落ちてくる人間の下で待ち構えていた。おっさんだった。魔法でおざなりに速度を緩和させてやり、最後はベチャ!と床に伸びている。自分でもその程度なのに、セフィロスときたら!
浮遊魔法を唱えて、ゆっくりと、気を使いながら降りてくる!



何かあったのだろうか?知り合いだった?まさか。



とりあえず、労ってやらねばと。
アンジールはセフィロスが着地するのを待った。



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