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事件は終わった。
『よくあること』らしく、軍人らしき人たちは慣れたことのように事後処理をして、撤収していく。

ルーファウスは無事『保護』されて、そのまま帰ったらしい。
挨拶もなしか!
千夏の中でルーファウスの株がガクッと下がった。マイナスまで振られた。もうデートはしない。というか、できない。

「千夏…。ようやく見つけられた…。ずっと会いたかったんだ」
「私もだよ。セフィロス、それでね、その、言いたいんだけど」

下ろしてくれないかな。
千夏は顔を真赤にしながらセフィロスに申告する。
セフィロスは先程から、千夏の存在を確かめるように、抱き上げたまま、頬に触れたり、髪をなでたりする。片腕で自らを持ち上げていることに驚きもした。
でもね、セフィロス。考えて。考えてみて。TPOというものを。

「恥ずかしいから…。人前なの…、ここ…」

そう。軍人は撤収しきっていないし、民間人も遠巻きにではあるが見ることができる。それに、セフィロスの同僚と思しき人の視線が痛い。
加えて、先日購入した雑誌の情報から彼が超がいっぱい付くほどの有名人だと、千夏は知っている。トップスター。セレブ。ハリウッド俳優もかくや。
そんな人に大切そうに抱き上げられ、優しそうに触れられ、愛おしそうに声をかけられる。

千夏は日本人だ。
奥ゆかしいのが売りだ。
TPOをわきまえ、空気を読むのが生きがいな人種だ。

こういった場においては群衆に紛れるのが一番であるが、いかんせんここは開けた場であった。
否が応でも、目立ってしまう。
こんなに愛情を振りかざされると、流石の千夏でも耐えられなかった。

もう茹でダコ必至な千夏をみて、セフィロスはなんとなく察しはした。
察しはした…が。

「俺はもっと千夏に触れていたいな?」

うっすらと意地悪な笑みを浮かべ、更に高く千夏を…。
というところで、待ったが入った。物理で。
ゴツ、という音でセフィロスの頭に拳という活を入れたのは先程から凄まじい視線を投げかけて…来ていない方の同僚さんだ。
呆れた表情で腰に手を当てている。

「撤 収!!」
「アンジール。ジェネシスと先に帰っていろ。俺は千夏と…」
「勤務時間!」
「あってないようなものに何を必死になる」
「セフィロス、お仕事はお仕事でしょ」
「…わかった」

セフィロスはようやっと千夏を下ろしてくれた。
地に足をつけてようやく、千夏は自らの脚がまだ震えていることに気がついた。倒れないようにと、セフィロスの腕を掴むと、彼は眉をひそめて千夏を支えた。

「やはり、俺が抱えたほうが…」
「いいよ、大丈夫。落ち着くまで時間がかかるだけだと思うから」
「お嬢さんもだ」
「え?」

時間が経つまで、近くで座っていこうと思っていたが、セフィロスの同僚…、アンジールと呼ばれていた男は、セフィロスと同じくらい長身の男だ。千夏と目線を合わせるようにかがむと、千夏の額に手を触れた。

「った!」
「アンジール!」
「アンタも怪我をしているんだから、大人しくしたほうがいい。なんなら神羅の抱え付けで診てもらうことができる。頭を怪我してるんだから、もっと慎重に動いたほうがいい」
「そうだった?言われてみれば、確かに痛いかも…」

意識し始めるとじくじくと痛みが感じられるし、触れてみればじわりと血が滲んでいた。そういえばさっき、打ち付けたんだったっけ。手のひらにも血が(乾いているけど)ついていて、パリパリとこびり付いていた。

「千夏、傷をまず塞ぐから、じっとしていろ」
「塞ぐって、…ああ!」

セフィロスは近くのベンチに座り込んだ千夏に手をかざして意識を集中させた。
じっとしているだけなのも難なもので、気恥ずかしくなった千夏は目を閉じてじっと待った。

「…ケアル」
「わ」

温かい感覚に少しだけ驚いた。そしてジクジクと鳴るような痛みが薄れていき、消えた。
ぺた、と指を当てると、乾いた血が取れるだけで、ぬめる感触は消えていた。

「一応、検査してもらったほうがいい。頭は何があるかたまったもんじゃないし…。それに、な」
「はい」
「この英雄様が使い物にならなくなるから、しっかり診てもらえ」
「…そうですよね。…ねーぇ、セフィロス。ちゃんと診てもらうから、そんな悲しい顔しないの」

今にも泣きそうな顔で心配しているセフィロスに手を差し出せば、意図を理解し頭をかがめる。よしよし。なでてあげようね。

「そうだ、ねえセフィロス」
「なんだ?」
「耳貸して」

フッと笑って、セフィロスは髪をのけてもう一度かがんだ。
両手を使って、外に漏れないようにできる限り小さい声で、千夏は囁いた。




「(すごいね、本当に魔法があるなんて!)」



なんて真似をするように伝えれば、セフィロスは今度こそ吹き出した。
小さい頃の彼と、再開して自己紹介し合った折に興奮気味の千夏の言葉だ。
クツクツと音を立てて、大声を出さないようにとこらえている姿が面白くて、千夏も少しだけ笑いがこみ上げた。

「そう言われたら、俺は千夏に『2つ目の質問』をしなくちゃいけなくなるぞ。」
「もう知ってるでしょ」
「ならその次はどうする?」
「なぁんだ、しっかり覚えてるんだ」
「もちろん」






アイスを、食べに行こう。






セフィロスが素早く千夏を捕まえて、もう一度高く、高く抱き上げた。







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