03






なかなかこのミッドガルという街がどんなものなのか理解できてきた千夏は、ついに街の探索へと駆り出した。
そこで、知り合いがやっていたらちょっと引くようなものを見つけてしまった。
…知り合いも何も、恋人であったが。

「…う、わ」

大きな看板、黒い背景、なびく銀糸、整った顔立ち。
そして何より目を引くのは、長過ぎやしないかという刀と、彼の着ている胸元の空いた黒コート。
一ヶ月ぶりでもわかるそれは…言わずもがな、恋人(?)のセフィロスであった。
神羅カンパニーとやらの宣伝のその看板に、でかでかと写り込んでいる。

「えっ、ていうかおじさまじゃない!」

一ヶ月、いや、こちらの世界で30年は経っているだろうと思っていた千夏は、驚くところが絶妙に違った。

「20代…前半…?若い…でも年上…」

それでも、恋人の大いなる変貌には脱帽だった。



「英雄さん…たしか、23。じゃなかった?」

家に帰りエアリスに話を聞けば、セフィロスは5歳年上だと言う。
末恐ろしいことだ。

「千夏、セフィロスに、惚れちゃった?」

エアリスは、少しからかい気味に千夏に聞いた。
千夏は首を軽く降り、その言葉を聞き怒るでもなく照れるでもなく、ただ微妙な顔をした。

「あんなモデル的な道に進ませてしまったことに後悔…、かな」

今度雑誌買おう…。そう言った千夏はヨロヨロと部屋から出て行ってしまった。
エアリスは、わけがわからないと言うように、首を傾げていた。



最近の趣味は、路上演奏だった。最初に路上ライブで生きろというのか?と言ったが、なんだかわりと稼げるのだ。意外。

笛を吹いて、目の前にカゴを置いておく。
心優しい人は、お金をいれてくれる。なんとちょろい世界だ。
そのお金は少しだけ、自分のお小遣いにした。そして残りをゲンズブール宅に入れた。そんなことしなくてもいいのに!とエアリスもエルミナさんも最初はお金を返してきたが、お願いだから受け取って欲しい、と懇願し、仕方がないわね、と最終的には受け取ってくれた。
そのあと、じゃあ、これからはじゃんじゃん稼いできてね!と言ったエアリスを見て、ああ、ちゃっかりしてるんだなあと感心させられたのはまだ言わないでおこう。



笛を吹いていて、最近少し気づくことがある。
なにやら、聞いてる者に対し効果が出る。
あるときは疲れを取り、あるときは怪我を癒す。あるときは…人を眠らせる。
魔物にも、それは効くようで、吹いていると魔除けになったりもする。
いつの間にか、千夏の横笛は魔笛に進化していたらしい。これが特典3か。

まったく恐ろしいことだった。
だが、面白かったので、千夏はいろいろなことを試した。
どのリズム、どの音程、どんな小節でどのような効果が出るのか?
なかなかに面白く、千夏は今では技の研究に没頭するようになっていた。
商売も繁盛して、ウハウハである。

魔笛を使いこなせるようになってから、近所の魔物退治も少し始めた。
少し魔笛が使えるからといって、よし、やってみようと簡単に命を散らすような千夏ではない。
もちろん、もう一つ理由があった。

身体が、軽いのだ。

気づいたのは、エアリスを愛車のチャリの後ろに乗せて二人乗りしようとしたときだった。
日本では道路交通法違反になるが、こちらにはもとより自転車も無いようなので、千夏は気にしないことにし、いざペダルをこいだとき、思っていたよりも軽かったのが始まりだった。
試しに、エアリスを横抱きにしてみたが、全然持ち上がらなかった。
後に残念かつ不思議だねと言ったとき、少し、怒られた。体重のことは言ってないのに…。
次に、スキップをしてみたり、蹴りを全身全霊でいれてみたりした。
スキップすればふわふわふわふわ跳ねる飛ぶ。何mかは飛んでいた。縦に。高いビルからビルへもすいすいと飛べた。
ヘッジホッグパイと言うモンスターに、えいと蹴りを入れたら面白いくらいに飛び、壁にめり込んで粒子となって消えていった。(後にエアリスに聞くと、ライフストリームというところに還ったらしい。天国みたいなところだろうか。)
足を使うことに関しては天才的な才能を手に入れた千夏は、こうして怪我を負うことなく魔物退治をすすめられるようになったのである。これが特典4、とでも言ったところか。

「よかった、全身ムキムキになったりしないで…」

と、千夏は1人呟いた。
その力は自分の意識とは無関係に常時発動されるが、変わったのは脚力だけということに、千夏は一安心した。ムキムキは流石に…ねえ?

そんなこんなで、千夏は今日もヘッジホッグパイを潰しにかかる。
いつか彼の見せてくれた、あこがれのマテリアとやらを購入するために。
そして英雄セフィロスのお仕置きのために。

「うん…、知らない魔物…?なんか、カラフル…」

それは、物を盗むヴァイスという魔物であり、スラムに住む者のなかでは有名な魔物である。
だが、千夏はこちらに来て未だ二週間程度。知らないのも無理はなかった。

「聴いてね」

だが千夏にかかれば、魔を滅するための旋律を少し吹けば、魔物は怯み、苦しみ、倒れ、輝きながら消えていく。
魔物が消えたそこには、それが持っていたものが残されていた。

「わ、物いっぱい!これは…誰のもの?」

生粋の日本人な千夏は、持ち主がわかるような物は返してあげようと、親切心でその落ちた盗品を漁る。
ナイフや剣の武器などや、手帳や鍵、プライベートな品もたくさんあった。その中で、キラリと光るものがあった。

「これ!マテリアだ…よね?わぁ…、天の思し召し?」

少し前に、彼が教えてくれたマテリアという存在。一つだけあったそのマテリアは、一点の汚れもない美しいものだった。
太陽光などはないが、天に掲げて中を覗き込んでみる。マテリア自身が発光しているらしく、きらきらと輝いて幻想的で…。
そのマテリアは、淡い緑色だった。

「…きれい」

これは使うとどうなるのだろう?
さてはてどういう風に使うのだろう?
どうすれば、"まほう"はでるのだろう?
すべてが謎、すべてが神秘的。
千夏はそのマテリアだけは、申し訳ないが頂戴することにした。
使い方は、エアリスに聞くことにしよう。



「なんだろう、ね?これ。」

とりあえず、帰ってすぐにエアリスに聞いてみた。
16歳の少女に聞きまくりのおんぶにだっこいうのは難だが、そこは仕方のないことだ。

「うーん、始めて見るなぁ。そうだ千夏、使ってみよっか」
「え?じゃあ…使い方教えて。私魔法なんて始めてだから…」

エアリス曰く、マテリアとは古代種、いわゆるセトラの知識が蓄積されており、それをこのマテリアを介して理解することで、魔法が使えるようになる…らしい。
つまり、魔法の古文書のような物なワケだが…。
そして魔法を使うには魔力…を消費するらしい。そのマテリアを介する方法が知りたいが、これはほぼ感でやるらしい。難儀な話だ。

「ふぅ…むむむ」

千夏は目を閉じて、マテリアに意識を集中させていた。
じんわりと汗がにじむ。
ほんのりとマテリアが温かくなり、目を閉じてても光を感じるようになったとき、千夏はその意識を解放させた。
魔法は、発動した。

「どう?なにかでた?」

目を開いて、エアリスの方を見ると、きょとんとしていた。
そう、まさしくこれは、驚いた顔。何か起こったことに違いはなかった。
早く感想を欲しいと思っていた矢先、千夏はあることにふと気がついた。
それは、エアリスの瞳だった。

こっち、見てない?

エアリスに声を掛けるもキョロキョロするばかり。
こっちが見えていないとばかりの反応だった。
千夏はエアリスに一声かけ、洗面所の鏡へと走った。
そこには、目の前にいる筈の自分ではなく、いつも通りの洗面所を写していた。鏡の前に立つ、千夏以外を。

流石の千夏も、悲鳴をあげた。

「えっ…エアリスーーーーーッ!!」

ばたばたばたと大きな音をたてながらまたエアリスのところまで走る。
見えない足音に、エアリスも少し慌てていた。

「千夏!いるの!?どこ?」
「エアリス!私はココ!」
「きゃっ!」

己の居場所を知らせるため、部屋にある物を持ち上げると、エアリスが小さく悲鳴をあげた。

「うそ…。千夏…?」

エアリスは、中に浮いている物からたどって、千夏の腕に恐る恐る触れてきた。

「私からは、私は見えてるのに…。エアリスからは見えないのね…」
「透明になれる、ってこと。だね」

自分自信を透明にすることが可能なマテリア。
はて、他人に施すことはできるのだろうか。
エアリスにそれを聞くと、私も透明になりたいとばかりに嬉しそうにレクチャーし始めた。
そして、もう一度魔法は発動された。
部屋には、誰もいなくなった。私からも見えないって、それ大変なのでは?

「千夏、どう?見えない?」
「うん、見えてない。これでエアリスも透明人間デビュー…っていうか今どこ?」

誰もいないが、くすくすとした笑い声は絶えなかった。
後に帰ってきたエルミナが、誰もいないのに声がすることに驚いて腰を抜かしてしまうのは、また別のお話。

そしてかのマテリアは、"インビジ"という名を授かった。

「何に使えるのかな?」
「千夏次第だよ、マテリアは、使わないとただの綺麗な石になっちゃうから。大事にしてあげて。それも星の一部なの」

千夏はそのマテリアをそっとポケットにしまい、いつか使えるだろうと思い、マテリアをはめこむことができるバングルをいつか買わなければと決意した。
バングルは『彼』が載っている本のついでに買うことになるだろう。



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