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他に行く宛もない千夏は、ゲインズブール宅に住まわせていただくことになった。ありがたや。
千夏の携帯は何故か使えるらしく、今でもしっかりバリ3でしっかり機能していた。だが、アドレスが全て消えており、記憶力のそこまで良くない千夏はアドレスや番号をほとんど覚えておらず、ちょっと悲しんだ。
とりあえず、ゲインズブール宅の電話番号が、1番目にくることになった。
料金に関しては、星も違うので請求書も来ないだろう、ということにしておく。通信料やばそう。

「エアリス、手伝うよ」

最初は近くをほっつき歩こうと思ったが、治安が悪いと聞き回れ右。
今日は、エアリスの教会で育てているという花の世話を手伝うことにする。まずはこの付近の地図を頭に入れなくては。まだエアリスの影でビクビク歩くことしかできない、情けない千夏だった。

「ありがと千夏。そこの、スコップ。とって?」
「はい」

ひょいとスコップを手にとって、エアリスに渡した。
その後は、教会のボロいベンチに座り込んで、またぼけっとし始める。手伝っていないところに、突っ込む者は誰もいない。
そんなことよりも、考えたいことが千夏にはあった。
他人の家に世話になるくらいなのだから、お金を稼がなくてはいけない。
年も18なので、働くことに抵抗は無い。アルバイトもしたことはある、不思議なことにここの言語は日本語で、文字も平仮名、片仮名、漢字、英語の4つだったので、困ることは一つもない。ありがたいことだ。
近々、地図と簡単なお金のやり取りが覚えられたら職を探して借家に貢献しなくてはいけない。申し訳無さで飛び出したりなんてしたくはないから…。

「ね、千夏。お願い、笛、吹いて?」

唐突なお願いだった。
だが、嫌な気はしなかったので、千夏はそれを快く引き受ける。植物に音楽は良いとも聞く。
笛を持って来ておいた千夏は、ゆっくりとそれを吹きはじめた。
花がどういうふうに育つのかを考えながら。

「うん、お花たちも、喜んでるみたい!」

その後も、笛を吹いたり、土いじりをしたり。その繰り返しだ。
が、流石の千夏も疲れてしまった。
前にもこんなことしたなぁ、と考えつつ、外に出て軽く気分転換を行おうと、エアリスに声をかけてから教会の外に出た。
そこで、見知らぬ人物が立っていた。

「あら…どなた?」

その人物は、教会の扉の横で煙草をふかしていた。

「申し訳ないのだけれど…ここ、禁煙なの。やめていただける?」
「それは悪かったぞ、と…」

口調はやんわりとしていても、はっきりと、強く言えば聞いてもらえると思っていたら、案外絡まれもせずにその男は煙草の火を消した。

よかった、あっち系の仕事の人かと思ったけれど。いやあっち系の仕事の人か?

男は、千夏をじっと見つめていた。
千夏は、その行為が観察だとは気づずに普通に挨拶をしてしまう。

「…なにか?」
「…いや?見ない顔だなと思ったんだぞ、と」

なかなか個性的な口癖を持った人だなと千夏は思う。やっぱり個性が大事な世界なのかな。セフィロスも個性的といえば個性的よね、外見が。
恐らく、この近辺に住む人なのだろう。挨拶、いわゆる第一印象は肝心だ!

「近くに越して来ました、千夏といいます、よろしくお願いします、ね」

きまった…!
千夏は、自分の頑張り、そして猫かぶりに酔いしれる。

「千夏チャンね…。覚えとくぞ、と。じゃ、俺はこれで…」

もう帰ってしまうらしい。ちょっと元気が良すぎたろうか?失敗だ。
いや、別の場所に煙草を吹かしに行くのだろう。あからさまによそにいけという態度をとったのだし。

「はい、ではまた」

軽く会釈をして、千夏は教会の中に戻った。
教会の中では、エアリスがまだ土いじりをしていた。

「誰かと、話してた?」

少し顔をあげたエアリスが、面白そうに聞いてきた。

「近所の人だったみたい。挨拶したの」
「仲良く、できるといいね?」

教会の中には、クスクスと笑いながら花の世話をする少女たちがいるだけだった。



「…はい、こちらレノだぞ、と。ターゲット、特に異常ナシ、と。」

この赤髪の個性的な口癖を持った男は、神羅電気動力株式会社、総務部調査課、通称タークスに属する者である。
千夏が挨拶をした相手はご近所さんなどではなかった。

「そうだな…変わったことがあるとすれば、知らねー女が1人増えてたぞ、と。」

そして目をつけられているなどとは、知ったことではないだろう。



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