GHOST FLAME | ナノ

最後の記憶といったら、血まみれの皆、泣きじゃくるあなた。
私の手がなんでか動かなくって、あなたの涙を拭えないことが悲しくて私も涙が出ちゃったの。
でもこんなこともあなたはあと少しで忘れちゃうんだと気がついたらもっと涙が出てきて止まらなくなった。
忘れてほしくない。
忘れられたくない。
あなたはどうなるの、あのこたちはどうなるの。
あそこに倒れている人たちも私達の仲間だったの?敵だったの?もうわからない。
そのことがとても恐ろしくて、涙がどんどん溢れ出る。

「あなたは、たくさんのひとに、あいされてた。わたしたちのことはわすれちゃうかもしれない。でも、じぶんがあいされていたこと、それだけ、は、おぼえて…いて…」

死後の世界では忘れることなんて無いのかな。上にあるのかな、下にあるのかな。わからないけど、多分もう、あなたに言葉を届ける力すら、もう、ない。





《…あれ?》
一面真っ白な雪景色、一メートル先すら見えない猛吹雪。
びゃっこ?
たしかに私が死んだのは白虎だけど…そういえば私は死んだんじゃなかったっけ。
もしかしたらここが皆と話してた『死んだあとに来る世界』なのかもしれない。…皆って?クラサメくんは覚えてる。それにミワちゃん。他は…エミナちゃん、カヅサくん…。
他には誰も頭に浮かばなかった。そうか、皆死んでしまったのか。もう顔も声も思い出せないかつての仲間に、しばし黙祷。
さて、ここはどこだろう、私はシア、シア・トキミヤ。
朱雀領ルブルム、魔導院ペリシティリウムアギト候補生1組に所属しており朱雀四天王の皆とは友人であった…その皆ももうひとりしか思い出せないが…。
自己確認は完了し、次はここがどこだろうと周りを見渡すも、先ほどと変わらず凄まじい猛吹雪で周りが見えたものではない。どうしたものか。

《足取られちゃいそう、靴が取れたら寒いかしら…》

そこで、はっとする。
やだ私ったら、コートも着ていないじゃない。
いや、ちがう、そうじゃなくて。
寒くないのだ。こんなに短いスカートで、制服の下だってそこまで着込んでいないのに…。
試しにしゃがみこんで雪をすくってみようとしたところで気づいた。
おかしいな、地面に足がついてない。
流石にこの状況でなら脚が冷たくないのも当然〜とかも思わない。
そしてもう一つ。

《やだ…透けてる?》

気づくのが圧倒的に遅い気もするが仕方ない。まさか自分が透けていて、宙に少しだけ浮いてるなんて、この一面の銀世界の中で気づけるほど処理能力は高くはなかった。

《これって…》

私、死んでる?
いや、死んだことに確信はある。それ以外のこと。
もっと適切な言葉が出てこない。それくらい混乱してるって、自分でもわかる。
そう、これはよく本にある…。

《幽霊ってこと?》

幽霊。
子供の前でよく語られるその姿は、宙に浮く、身体が透けている、青白い、血まみれ…等々色々なものがある。自分はそのうちの二つも該当があるではないか!

《どうしよう…》

足を踏み出せば移動はできる。だが空は飛べないようで…こんな場所で一人、どうしようもない。方位磁石もない。いやあってもここがどこかわからないなら意味は殆ど無い。

《…進むだけ、進まなきゃ。ここで突っ立ってても…》

成仏すらできなさそうね。
浮いた足は、彼女を前へと進ませた。



歩いても歩いても銀世界。
白虎軍が他の土地に拘る理由が何となくわかってきた気がする。彼らもこの景色に飽きたのだろう、そうにちがいない。
歩いているといっても足あとも残らない。自分がどこを歩いていたかもわからない。
その場で目が回ってしまえばどこがどこかもわからないだろう。そんなことしなくても今もどこがどこだかわからないが。

《このまま誰かに会えなかったら、私は狂っちゃうのかな》

吹雪の中、無音のまま。
ざくざくと雪を踏む音もしない。ここにはチョコボもいないのだろうか?いや、この猛吹雪だ。チョコボだってまともに走れやしないだろう。
シアの場合、その風も雪も身体をすり抜けていくから進めているのだ。普通の人ならこの中を進めるなんてことはないだろう。
息は出ないがため息をして、シアは進む。

ァア…アァァ…

遠くから聞こえた怨念のような、人の叫び声。
その声にビクリとして、シアも悲鳴を上げる。

《いやっ…!お化け…?》

いやそれは私か。
ともかく一筋の光が見えてきたようなものなのだ。たとえお化けが待っていようとも、そこに向かわなくてはいけない。
ちょうどいいじゃないか、疲れない身体。短距離走でもするように、シアは走った。

「きゃああ」「たすけてくれえ」「くそっ、このこだけでも」「いてえ、いてえよお」

阿鼻叫喚とはまさにこのこと。
白虎の民であろう、集団がベヒーモスに襲われていた。白い地面は赤く染まって、ぽつぽつと死体が落ちている。向こうで煙を上げているのはアーマーだろうか。
さすがにベヒーモスには勝てないようだ。

《たすけなきゃ…》

たとえ自分の死因が敵国白虎にあろうとも、この民はそれに無関係だ。助ける理由には十分!
そう思ってベヒーモスに向かい走りだす…が、重要な事を忘れていた。

すかっ。

あれっ、おかしいな、ぶきがでてこないぞ?
いつもならば魔法で呼び出せば出てきていた武器が出ない。そもそも私の攻撃はベヒーモスに当たるのか?そう考えて勢いのままベヒーモスにグーで殴りかかるも…

すかっ。

あれっ、デェ・ジャ・ビュ?
その身体はすり抜けて、ベヒーモスは逃げまどう民を襲い続ける。

結果=幽霊は眼中にもとどまれない。

思わず膝を付きそうになる。まさか…身体が透けたら便利そうだよねなんて誰かと話をした覚えはあったけど!使いこなせなければ何の意味もない!
私はただこの虐殺を見続けるしか無いのか!

《もう!なんか。なんか、なんかでろっ!》

ぶんぶんと手を振り回して、なんとかなるとは思わないが…。
ぼん。
なんか、でた。
忘れていたとは言わないが、私の所属は元ではあるが朱雀領ルブルム、魔導院ペリシティリウムアギト候補生1組なのだ。回復魔法の使い手。だが攻撃魔法が苦手とは…

《言ってない!食らえ、ファイガっロケットランチャー!》

どん。
それは見事にベヒーモスに命中して、よろめかせることに成功した。
逃げ惑う人々は逃げることに精一杯で、こちらに気づいてはいない。そしてベヒーモスも、どこから来たのかわからない炎に戸惑っているようだ。
気づかれていないのならそれは、詠唱し放題だ。

《これでどう?アラウド!》

詠唱し放題とはいえ、住民のために時間はかけていられない。短時間で高威力のものを選んだ結果のアラウド。
七つの光が高速で敵に向かっていく。
そのうちに、次の魔法を整える。

《続けていくわよ、ホーリー!》

光が収束して、破裂する!
その光が収まったとき、ベヒーモスは倒れ、辺りには静寂が戻っていた。
いつのまにか吹雪も止み、視界も晴れている。
遠くには街影が見え、そこからアーマーが走ってきているのが見える。生き残った人たちももう大丈夫だろう。
だがこの大量の死体。忘れられてしまうのだろう、彼らも。
子供もいるではないか。
近寄って、せめて祈りくらいは…と考えたが。

《…息が、ある!この子!》

急いで治療しなければ。この寒空の下この出血量で、こんな子供。すぐに死んでしまう。
意識も消えかかっている。

《お願い、目を覚まして。生きる意欲をなくしちゃ駄目よ》

魔法で治療しても、その子供の意識は朦朧としたままで、頭のなかではもう自分は死んだと思い込んでいるのかもしれない。こんなに小さいのに。
父や母は子供を失ったことにも気づかないかも、いや、その父や母も今死んでしまったのかもしれないが。
だからといって諦める理由にはならないのだ。どうにかして、どうにかして生きてもらわねば…!

《うん、幽霊にできること、幽霊にできることといえば…!?》

ポルターガイスト、飛行、写真にひょっこり、憑依…憑依!?
こうなったらヤケクソだ!勢いで、シアはその子供の体内に入り込み、操ることを考えた。次に目を開くと…

灰色の空。だけどちょっと焦げた臭いがするし、背中に痛みがある。あととてつもない冷たさ。雪の感触。
成功だ!

「《きずはもうほとんどないわね、これなら、だいじょうぶ》」

この子は男の子のようだ。舌っ足らずではあるものの、しっかり低めの声。そして臀部に違和感。男の子が大丈夫なように、内側から分け与えるように、魔法をかける。この身体(霊体)は魔力も無尽蔵なようだ。
ザクザクと音のする方に顔を向けると、遠くにあったはずのアーマーが近くに止まっていた。

「キミ、大丈夫か!」

金髪の軍人がアーマーから降りてきて、シアが憑依している身体を起こす。この男の子はもう大丈夫だろう。
入った時と同じように、目をつぶって男の子の身体から出るように意識する。目を開ければ、視界が高い部分で、膝をついて男の子を抱き上げる軍人を見下ろす形になっていた。
もうこの体にもなれたようだ。
できることをまとめておこう。
シアは気分よく、その場から立ち去った。


祈りの唄が途絶えてる




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