GHOST FLAME | ナノ

幽霊になって眠るという表現はおかしいのかもしれない。表にいようと思えば三日三晩出ていられるのだが、そうすると霊体が重く感じるようになる。
なので宿主の体で休むことを私は眠るといい、人と同じような時間に休んでいた。

《ふわぁああ…ん〜…あら?》

ふわっとぬけ出て、見えたのはたくさんの人。
みな灰色のマントを付け、希望に満ちた顔でピシッと綺麗に整列していた。

《あら?もう式始まっちゃったの?》
「(起きんの遅ーよ、おい。)」

宿主は周りとは違いどことなくかったるそうにしている。

《あらら…寝過ごしちゃったわねー…。誰のお話が終わったとこなの?》
「(なんか、丸くて偉そうなハゲその他?院長さんはまだだな。)」
《そう、聞き流してもいいけど、名前は間違えないようにね?その方はスズヒサ・ヒガト。軍令部長よ。》

軍令部長は確実にいらないことしか言わないだろう。
彼が言うには実際にいらんことを言っていたようだ。
シアはカリヤ院長のお話が聞ければよかったのだが、彼が目を付けられるのは嫌なので釘は刺しておくべく言う。

《軍令部長にはあまり近づいちゃダメよ?》
「(え、おう。)」

釘を刺しておけばとりあえずは気をつけるだろう。

《(さて、知り合いを探そうかな。)》

ふっと宿主の上空で漂い辺りを見回してみる。
みればステージの横に並ぶ武官には見覚えがあった。

《あそこにいるのは…タチナミくんとカスミさん、あ、エミナ。エミナも武官になったんだ。相変わらず美人だなぁ…。》

ちょっと上を見上げてみれば胡散臭そうな笑みを浮かべながら訓練生を物色する人物が上階から見える。

《あれは…カズサ?白衣だし、式には参加してないんだろうけど…上から覗きでもしてるのかしら?》

昔仲良くしてた頃よりさらに怪しさが増している気がした。

昔の仲間たちを見つけ気分の高揚する彼女はステージの影でひっそりと動く影を見つけた。
いつも連れている緑の従者を連れず、ただ静かに幕の裏から訓練生たちを見おろしていた。
彼のことだ、顔を見られるのが嫌で自ら裏方にまわり、持ち前の器用さでさっさと終わらしてしまったのだろう。

だが、シアにとってそんな彼の事情など関係なかった。彼女の視線は完璧にステージの影に釘付けになり、石のように固まってしまったのだ。

《…見つけた。》

ようやく絞り出せた声も興奮しているのだろうか、震えているのだ。
一目見ただけでわかる。なぜなら私の1番大切な人。髪の感触も、瞳の色も、鮮明に覚えている。

私が大好きだったその人は、変わらずそこにいる。

夕闇のような紫色の短い髪も好きだった。

深い池のような森色をした鋭い瞳も好きだった。

変わらずそこにある君の存在が好きだった。


彼は生きていた。重症を負い、仲間を失っても、いまこの時を生きていた。

「(シア。シア…?どうした?代わるか?)」

忙しなく喋っていた私が急に動かなくなり、心配になったのだろう。彼の声で我に返る。

《…ダメ。ダメよ。今貴方に代わったら私、蹲っちゃう。声をあげて泣いてしまう。だから、ダメなの…。》

おかしなことだ。涙を流すことは彼の体を借りなければできないはずなのに。
声が、震えている。
彼は私がいるのだろう辺りを時々見やりながらも式典中、一回も声を掛けないでくれたのだった。


迷子は何処に消えたのか



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