GHOST FLAME | ナノ

カガリの意識は戻らない。
そしてカヅサは捕まらず、シアの怒りも収まらない。
まずは、一発入れてやらねば気がすまない。

「いや〜。本当にゴメンね!若い人の身体に興味があるんだけどさ、最近悪評が広まっちゃって誰も『協力』してくれなかったから!嬉しくて!」
「《許すものか!》」

カガリの得意な武器は今のところ2つ。シアが初めに教えた短剣の使い方。そして新しい武器は、

「《飛んでけっ!》」

手から放たれ飛んでいくのは、円形の大きな刃…チャクラムだ。
飛ぶ滑車は魔力を込めれば離れていてもその軌道を操作できる。それなりの魔力操作技術が必要だが、その点も申し分ない。
なにせ、シアが師事したのだから。

「へえ、なかなか珍しい武器使うんだねっ…と!危ない危ない!」

科装研勤めなのにあの身のこなしはなんなんだ。
チャクラムの使い方はカガリの方が上だ。やはりここは短剣を使った方が、いや。短剣は今装備していない…。ならば出の速い魔法を至近距離から叩き込む。その方が確実だ。
捕まえるなら焦がすより凍らせるより痺れさせる。サンダー系列のSHG。決まりだ。
この思考に3秒とかからない。

「カガリ・カミツキ!止まれ!」

周りの音など耳に入らなかった。完全にシアの感情で動くカガリの身体は魔力の無理な上昇に悲鳴を上げ始めていた。
一種のトランス状態にも等しい。
走りながら手を掲げて魔力の集中を促す。どう見ても上級魔法。周りへの被害が出ないこともないだろうに、カガリが、いや、シアが止まる気配はない。
闘技場まで追い詰められたカズサも流石に逃げ場がない。

「《終わりよ!塵になれ!》」
「やめろ!」
「これちょっとやばいな…。」
「《サンダガショッ…!》」
「ブリザドRF2!」

シアよりも先に詠唱は済んでいたクラサメの魔法がカガリに直撃した。たとえ衰え始めているとはいえ、教官の立場にある彼の魔法は強化もされている為か、カガリの身体は吹っ飛ばされた。
静寂が降り、ようやっと事件は収束したことがわかり、生徒達にも安堵が伝わる。
クラサメはカガリの様子を確認した。気を失っている。クラサメはため息をつく。

「いや〜ありがとうクラサメ君!今回ばかりは参ったよ!反省反省。」
「…。」
「どうしたのクラサメ君…。あっ、まさか彼の代わりに実験につきあっぐぶ!」

掌底で黙らせたカヅサには見向きもせず、クラサメはカガリを拾って闘技場を後にした。




とっぷりと夜が更けた頃、カガリが目を覚ました。
泣き声がしたから。
うっすらと目を開けば見知った天井で、壁にはカガリの制服がかかっていた。恐らく自室だろうか。いつの間に自分は帰ってきたのだろうか?最後何をしていたっけ?
辺りを見回してカガリはギョッとした。

「目が覚めたか。」
「え?え?ええ…?」
「混乱しているな。昼間の記憶はあるか?」
「え?昼間?俺またなんかしたの?何?」
「覚えているところまででいい。」

なぜかクラサメがいた。
カガリの机にたっぷりと書類を置いて、忙しなくペンを動かしている。テストの採点でもしているのだろうか。
こちらに向き直って、優しいのか厳しいのかわからない口調でクラサメはカガリを問い詰めた。
だが起きたばかりだし、何よりその隣に気が散ってしょうがない存在がいた。
シアだ。泣きじゃくっている。両手で流れもしない涙を拭って、延々と泣き続けている。

《ぇえ〜ん…ぅうえ…うっ…うぅ…ング…ふ、ふぇえ〜〜〜!》

まさしく、びえ〜んと泣いている。なんだこれ。なんだこの幽霊。カガリはサッパリ状況が読めなかった。いつも状況の説明をする係が、今は泣きじゃくっていたから。

「え…俺…昼間奉仕活動してて…で…、終わった後に…カヅサって人に、荷物を運ぶの手伝って…欲しいって…言われ…て、どうしたんだ…?」
《ぶえぇ〜〜〜〜!》
「そこまでは覚えているか…。簡潔にいえば、薬品のせいかお前の性質のせいかはわからんが、お前は暴走状態にあった。周りの状況が目に入らない、耳に入らない…。そういう性質もちだったのか?」
「いやぁ…どうすかね、初めてっすよこんなん…。」
「だろうな。任務時にそのような状態になったとは聞き及んでいない。だが、今後ならんとも言いきれんし、そんなお前に背中を預けることもできん。」
「…っスね。」
《びぃい〜〜〜〜〜ん》
「だがそれが戦闘の弊害になるのは使いこなせていない時だけだ。そこで、お前には新しい教官を紹介する。師事を請え。使いこなせるようにして見せろ。感情を使いこなすのは重要だ。特に、お前のクラスではそうだろう。」
「…わかりました。」
「こればかりはサボるなよ。」
「…はいっス。」
《んぶぁ〜〜〜〜〜!》

なんとなく予感はしていた。きっとクラス内でも監視は受けていたし(まあこれと関係なく、クラス内では監視『し合っている』のだが。)、今回で決定事項になっただけだ。
やることが増えたことにカガリは項垂れる。その原因たる幽霊は今もびぃびぃ泣き続けているが。

「加えて、3日間お前に謹慎が命じられている。」
「はっ!?マジかよ!」
「課題と食事は届けられる。寮の自室以外へ…ここから出るのは禁止だ。まあ、大浴場くらいまでは出てもいい。だが監視がつく。」
「嘘じゃん!」
「その監視はこいつだ。」

監視員と称されたソレを見て、カガリは絶句した。
丸くて黄色い目。青い灯火のランタン。身体に不釣り合いなほど大きいバスタードソード。
クラサメが従者としてよく連れている、朱雀トンベリだ。クラサメ以外に懐かないと有名な。

「嘘じゃん…。」
「派手な行動は慎め。謹慎後も、抜き打ちでトンベリが見張りに来るぞ。」

最後は干からびた置き物のようになったカガリを尻目にクラサメは退室した。
目の前に残されているトンベリを見る。監視って、どこまで監視?独り言もダメ?冷や汗をかきながら、カガリはトンベリによろしくな、と言った。トンベリは理解したのか、カランとカンテラを掲げた。
そして、件の幽霊は未だ泣き続けている。ちょっと落ち着いたのか、すすり泣き程度に。でもすすり泣きが一番幽霊っぽいからやめてくれないかな。

「とりあえず、風呂入るか…。」

なんだか汗っぽいし。
トンベリを抱えて、カガリは大浴場へと向かった。


それまで共に在れるように




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