GHOST FLAME | ナノ

カガリは所謂、不良だ。
正直な所、そう思われていることは知っているし、自身もまさか自分が良いやつである、つまるところ不良なんかではない!などとおこがましいことも思っていない。

つまり不良だ。
不良なのだ。
成績は良くても、模擬戦で一位をとっても、本当は努力家で人当たりは良いとしても、悪く見られてるという事実はもう覆しようがないのだった。
だからと言って、

「カガリ・カミツキ。お前の不可解な行動が目立つということで職員会議で決定が出た。よって、一週間の『奉仕活動』を命じる。…やりすぎたな」

まさかこんなことになるなんて!
いや確実にコレ俺悪く無いじゃん!何が決定打だったんだよ!?
後半部分だけを教官に問いただせば、

「まず数々の奇行!魔導院内での勝手な戦闘行為!教官たちへの態度!あと先日の試験でわざと点数を低く計算して無記入欄作って提出したな?そこもバレてるぞ!」

ゲェーッ意外と俺悪い?いやでも別に最後はかまわないだろ!?

「積極性が良くないとだめだそうだ」

なんだよそれー!

「とにかく一週間だ。一週間奉仕活動してこい。リフレとか、軍部とか、クリスタリウムとか!ほらコレつけて!」

コレ、と渡されたのは安全ピンと『只今奉仕活動中』と書かれた腕章だった。
ダサい…。

「ダサくてもつけろよ」

顔に出てるぞ、とだけ残して、教官は立ち去ってしまった。
その顔には哀れみと、でもまあ仕方ないよね!という諦めの表情。
これから一週間、奉仕活動を優先して行わなければならなくなった。
じゃあ何か?放課後に外出許可を取って外に狩りに出かけるのも禁止なのか?そんなの耐えられない、腕がなまってしまう。
サァーっと血の気が失せる感覚がして、カガリは腕章を取り落としそうになる。
こんなときにあの幽霊はどこへ行ってしまったのか!
カガリは泣きそうになりながらも、まずは軍令部へと向かった。



「失礼しまーす」
「来ましたね、カミツキ」

出迎えたのは、なんと院生局局長だった。
思わず声が漏れそうになるが、まさか候補生のトップとも言える人を前に粗相ができるほど、カガリはお粗末な人間性を持ち合わせていなかった。
だが顔には出ていたようだ。

「まず、そこまで厳しい罰ではありません。この奉仕活動というのは、そうですね、迷惑を掛けたお詫びと考えなさい。あなたの起こした行動は、謎の行動以外は筋が通ったものもあった。ですからなるべくそれに見合ったものを、と通達は入っています」

つまりほとんどの決定打はあの幽霊のせいじゃねーか。
カガリはがっくりと頭を落とした。

「ですからそう気を落とさずに。軽い手伝いをいくつか頼まれるだけです。今日は武装研へ向かいなさい。依頼が待っています。終わったらまた、軍令部へといらっしゃい。報告を済ませたら今日の活動は終わりです」
「…了解です」



武装第六研究所、通称武装研。
候補生の要望に合わせ、どんな武器、どんな防具も仕立て上げてみせる夢のような場所。もちろんお代はいただかれるが、そのために候補生も任務に対するやる気を見せる。
任務では候補生でも報酬がもらえる。実物であるときもあるが、その殆どは金銭だ。
そうやって候補生を任務へと駆り出させる…なんとも上手くできたサイクルではある。

「じゃあ、頼んだよ。忙しいからって、取りに来ないのは本当に良くない。せっかくの武器が泣いちゃうよ!」
「…ォイーッス」

その駆り出された任務で多忙になり、取りにこれないのもよくあるケースだ。
異様に重たい武器から小さな軽いナイフまで。
カガリはその荷物を持ち、ゲンナリしながら配達に出た。
届け先は4つ。行き先はバラバラだが、さてどこから行こうか。



「まずは重いものからだな…」

そう考えて向かったのは候補生寮。
届け物のパイルバンカーはカガリの背を優に越すのではないかという大きさ。ガラガラと車台を転がして、カガリはその部屋の前にたどり着く。
ノックをして、軽く声をかけるのだ。

「ちわーっす。お届け物でーす」
「…ム」

部屋から出てきたのはとても大きな男で、大人と言ってもいい風貌を持っていた。

「…えと、リィドサンで、あってる?武器を届けに来たんだけど。サイン貰える?」
「…そうだ。感謝する」
「そりゃどうも」

玄武人よりは小さいな、ハーフか?
その視線が感じられたのだろうか、リィドは顔の皺を深めた。

「あっ…悪い。不躾だったな」
「いや、気にするな。実際お前の思っていることは半分以上当たっていると思えばいい」
「まじか。じゃあハーフで大人?」
「あっている」
「へーだから武器も大きいんだな」

っと、こうしていられない。まだ奉仕活動は終わっていないのだ。その旨を伝えて、カガリは次の仕事に取り掛かる。

「今度模擬戦でもしようぜー」

吹き飛ばされる、未来が見えた。



珍しい所まで来てしまった。
11組の寮は少し形が違う。他は一人一人の個室だが、ここは寝る場所だけ個室で、その他は大部屋にギュッと詰め込まれた形で、その大部屋を中心に寝室がいっぱいくっついている形なのだ。だからノックして声をかけるのは、この大部屋ということに…

「おいっ!」
「の、わっ!?」

ノック一回目の出鼻すらくじかれた!一体誰だ!
振り向いてみれば小さな子どもが不機嫌顔でそこにいた。
制服のサイズも合っていないのに、持っているカバンも不釣り合いだ。
そしてそのカバンの中には大量の爆弾が詰め込まれていた。
そして大きく名前が書いてある。届け主の名前が。

「あー…っと、…サイン貰える?」
「お前!泥棒だな!僕の武器、それ!どうする気だったんだ!盗って、隠すのか!?僕をいじめるんだな!そうなんだろ!」

面倒くさいのにあたってしまった。
だがこのコマのような武器の持ち主が彼女であるということは間違いないだろう。

「違う違うって。見ろよコレ。書いてあるだろ『奉仕活動中』って。俺は今イイコトしてんの。お手伝い中なの。サイン貰える?」
「ぅうう、嘘じゃないな?」

そんな嘘ついてどーすんだよ、とおどけて見せて、しばらく警戒した様子を見せられはしたが、落ち着いたようだった。サインは貰えた。

「え…っと、ムツキ…サンであってる?はいこれ、何?コマ?」
「スピナーだ!コレに爆弾載せて走らせるんだよ!」

この…?大きなコマが…?爆弾載せて…?はし…

「んだそれ超イカしてるじゃねえか!つか自走すんのかコレ!?すげえな!」
「な、なんだよいきなり!あ、あげないぞ!」
「そんなことより走るとこ見せてくれよ、今度!ダメか?」

興奮しながら、ムツキに詰め寄れば、スピナーで顔を隠してしまった。ダメということか。

「い、いいぞ」

ぽそりとつぶやかれた声は、しっかりとカガリに届いた。どうやら、心をひらいてもらえたようだった。

「っと、いけね。まだ仕事中だわ。今度!また連絡するわ!」

じゃあな、という意味を込めて、頭をぽんと叩く。
なにするんだ、と抗議の声が上る前に、カガリは退散した。



といっても、疲れるものは疲れた。
重たいもの上位2つを運び終えて、台車がなくなったのは良いがいかんせん疲労がたまる。
一度リフレで休憩を取ろうかと考え、カガリは魔法陣に行き先を告げるのだった。



「あれ、イザナ?」

あの藍色はイザナ。覚えているぞ、兄弟ともに壊滅的ネーミングセンスの兄イザナの色だ。隣に女も連れている。彼女持ちだったのかよ。
そう思ったが違うようだ。
よく見ると、髪の長さが違った。それ以前にまず、そいつは候補生の制服を着ていた。

「?兄さんを知っているのか」
「…あーっ、わかる。お前のこと。『ポコポコ』のマキナだろ」
「なんだよそれ!」
「マキナ、そんな名前つけようとしたの?」
「ちょ、チョコボの話だなんて言ってないのに!」

ああ、そしてこのシア似の女も知っている。耳にタコができるくらいには聞いた存在だ。

「俺はカガリ。カガリ・カミツキ」
「聞いたことある!魔導院一の不良の!?」
「お前ら本当に兄弟だよ」

その返答は前にも聞いたことがあった。だからこそ確信できた。ネーミングセンスはどっこいどっこいだよお前ら!

「イザナの知り合いだったんだね。私はレム。レム・『トキミヤ』」
「…ああ、知ってる」

笑った顔はまさしく、シアとおんなじだった。
肉質的なシアと同じ笑顔を、初めて見たものだから。

「…いいきょうだいだな」

言葉を漏らしたけど、彼女には伝わらないのだろう。



マキナとレムの二人と話をしていたら、いつの間にか30分は過ぎてしまったものだから、飲んでいたものを急いで飲み干して、立ち上がろうとしたとき、コツン、と足元に何かが当たった。それはテーブルの影に隠れて今まで見えていなかった、硬質的な本だった。

「なんだこれ」

持ち上げるととても重いものだとわかった。片手で持つには辛くなるほどの分厚さを持っている。

「落とし物かな」
「まあ大体そうだよな」

こんな所に落ちているんだから、落とし物に違いはない。
鍵までついている特注品だ。魔力も感じられる。届けたほうが良いだろうか。
だが、どこへ?
表を見ても裏を見ても持ち主のヒントになるようなものはない。
届けるなら、魔法局か、それとも候補生課か…?そう迷っていると、

「あら!珍しいもの持ってるわね!」

ある意味目的の人物とも言える者がやってきた。

「カルラ!丁度いい、探してたんだお前を」
「あたしぃ?」

荷物の中から包みを出せば、合点がいったというようにカルラは指を鳴らした。そう、届け物のうちの一つは宛先がカルラだった。

「アンタだったんだ。奉仕活動させられてるやつが居るって!」
「うるせーよ。サインよこせおら」

さらりさらりとサインをするカルラには、ついでとばかりに本について聞き出した。
あの反応は、確実にこの本について知っているだろう。

「ま〜、いいわよ!代金はもらわないでおいたげる!クリスタリウムにそれの持ち主が居ると思うわ!」

マキナ、レム、カルラの三人に別れを告げて、カガリはクリスタリウムへと向かった。



「つってもな、クリスタリウムは広いし利用者も多いんだよ」

カルラは情報をケチった。その事実が残った。
クリスタリウムは誰も彼もが利用する。それは候補生でもあれば、朱雀軍の軍人、研究者、魔法局の者もいるだろう。
この中から、毎日一番利用者が多い放課後の時間に持ち主を探せというのか。
これはまた面倒なものを引き受けてしまったようだ。
宛もなくブラブラしていれば、目当ての人物と鉢合わせた。

「ナギ!」
「おっ…カガリ!『奉仕活動』はどうだよ?」

報告書を仕上げる資料作成のために訪れていたのだろう、ナギは机に数冊の本を持ってきて座っていた。

「お前に届けもん」
「ん?ああ!なるほどね。武装研の手伝いか?」

依頼が全てクリアとなった。
だから心残りであるこの本の持ち主探しに専念できるようになる。

「この本が?」
「ああ、守銭奴からの情報で」
「ああ、知ってるよ。さっきもその辺ウロウロしてた」

3組の髪の毛が長い奴。
ナギと別れて、情報によれば魔術に関する記述が多い棚のあたりに。
…いた。
確実にビンゴ。
そいつは探しものをするかのように、本の隙間という隙間まで見て、不安げな顔をしていた。

「アンタ。アンタだよ、そこの」
「…私に何か、…貴方、その本!」
「そうだよ、リフレにあったんだ。アンタのだろ?」

差し出せば奪うように持って行かれる。
慣れた手つきで鍵を開け、中身を確認しているところを見れば、本来の持ち主であることに違いはないらしい。

「あっ…ありがとうございます。お礼と言ってはなんですが、よければ…その…魔法についての話でもしながら…お茶でも…」

言いづらそうにしながら誘いにかけてくる。だがカガリにはやることがあった。

「アンタ名前は?」
「私ですか?3組のクオン。クオン・ヨバツです」
「悪いな、クオン。俺今『奉仕活動』中なんだよ。報告が終わったらでいいか?」
「いいのですか!ええ、ええいいですよ、待ちますとも!」



「ご苦労様です。明日もまた違う任務を割り振りますから、放課後になったら軍令部に寄るように」
「了解です」
「基本的に任務以外の手助けをするのもいいことです。貴方の行動はしっかりと届いていますよ。これからも励みなさい」
「ありがとうございます…」

つまりクオンの件も知られてるってことでいいのか?
少し気恥ずかしい部分を残しながら、カガリは軍令部を抜けてクリスタリウムへ急ぐ。クオンが待っているだろう。

「キミ、少し良いかい?」

そんなときにカガリに話しかけてきたのは、荷物を抱えて、いかにも研究者といった風貌をした男だった。前にも見た覚えがある。…そうだ、武装研にいた。

「なんすか?」
「少し手伝ってほしいことがあるんだ。すぐ終わるんだけど、キミ、『奉仕活動中』なんだろ?ダメかな」

そういう男が指差しているのは外し忘れていた腕章で。
うっかりしていた。
だが院生局局長の言葉を思い出すと、無下にはできない。

「すぐ終わるんだな?何すりゃいいんだよ。運ぶのか、ソレ」
「いや、違うんだ。ああ、『見てもらったほうが早い』んだ。こっちだよ」

そう言った男が指差すのはクリスタリウムの方向で。丁度いい。カガリはついでにクオンにあと少し待つよう伝えていこうと思った。
クリスタリウムへと向かいながら、軽く自己紹介をしておこう。

「なら急ごうぜ。えっと、アンタ、」
「カズサだよ。よろしく」
「カガリだ」

よろしく、と続けようとした。
だができなかった。

バヂィ。

痛々しい音がして、意識が、飛ぶ。

ドザ、ダダッ。

痛い。床か?それとも壁か?わからない。
わからないままに、カガリは混濁の中へと引きずり込まれる。

「安心してほしい。今は誰もいないし、見ていないのは確認済みなんだ」

そこそこに体格のいいカガリを、男は難なく受け止めた。
そして取り出した袋でカガリを覆えば、それを担いで、どこへとなく消えていった。




唯一の存在証明




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