GHOST FLAME | ナノ

恋愛脳の幽霊はあれからまたストーカー作業に勤しんでいるらしい。
もうなんだかストーカーでいい気がしてきたから、隠さずに言うことにした。
しかも今日なんて最悪だ。
その愛しの彼の演習にカガリはぶち当たってしまったのだ。
そしたらどうなるかはもう目に見えている。

《はぁあ〜〜〜!》
「…」

よもやいつもこんな感じで騒ぎ立てているのだろうか、誰にも聞こえないからとこんな大声で。いやその大声が聞こえるのも俺だけなんだけど!
ああうるさい。
こんな大声が頭に響いているのが俺だけっていうのがまた頭痛の種だ。
なんだよすかした顔して指示しやがって。
お前宛の声援が俺だけに届くっておかしいだろ、お前が受け取れよそれが定石だろ。
なんて愚痴を頭のなかで何度も繰り広げながら演習に取り組む俺のなんとまじめちゃんなことか。誰か褒めてくれよ俺のこと!
誰もそんな奴はいないだろうから、俺は原因たる教官を睨みつけることしかできないのだ。



…うわ目があった。

は?え?ちょ、何?こっち来たんだけど。



つかつかと歩み寄ってきた教官…まあつまるところのクラサメは、演習に疲れてきて膝に手をついていたカガリの腕を掴んで立ち上がらせる。
いきなりのことに目を白黒させていると、まるでボディーチェックをするように、カガリの全身を軽く叩いた。

「…ハ?」
「…どこも支障はないな?」
「いやないけど…は?え?なに?いきなり?え?」

なんともないと知るや、クラサメはハアと大げさにため息をついた。呆れるように、とももう言わないだろう。呆れている。

「お前は奇行が多すぎると職員会議で結論が出た。厳重注意されている。何かあるようならば、なるべく気にかけるようにと。今後、あまりそういった前兆とも取れるような行動は慎め」

ハハァ〜〜〜〜〜?なるほどつまり。

「俺のせいじゃねぇしッ」

カガリは恨めしそうな顔をしたシアを涙目で睨みつけてそう叫んだ。
いきなり大声を出したものだから、カガリはまた奇行でも起こしたかと睨まれる。
そうじゃないと言っても、信じてはもらえないだろう。





「もうやだ〜お前とはやっていられない。実家に帰ってくださいほんと。ありえないで〜す」
《ねぇ、もう!そんなこと言わないでってば、泣いちゃうでしょ》
「泣きたいのはこっちですけど?」

何が好きで死神とも呼ばれているあんな鬼隊長に全身くまなくペタペタされにゃあイカンのだ。「肉付きいいなお前」って感心された暁にはおもわず「は?ホモかよ」って口走って次の瞬間絶対零度(表投げ)だよ。この幽霊はそんな光景すら「良いなあ、恨めしい〜!」とハンカチをくいしばっていたのだ。(そんなものは持っていないが。)
絶交したいって言ってもいいだろうか。カガリはそんな気持ちでいっぱいだった。

《でも、あの技を受けたのはカガリが悪いわ》
「はいはい口がゆるいですよ俺は。9組にあるまじきゆるさですよ」
《聞く気ないでしょう!》

恋する幽霊はそう言ってぷりぷりと出て行ってしまった。まあ夜には機嫌を直して帰ってくるが。(何をしてきたか、なんていうのはもうお察しだ。)
自分も次の講義があるのだから、こんなところで油を売っているわけにもいかない。
ひとつ、あくびを噛み殺していたら、先ほど出て行ったはずのシアが焦った顔で戻ってきた。

「ほ?おい、どうし…」

たんだ、と続けようとしたところで、予想外中の予想外な人物に出会ってしまった。

「…かすかなるものよ、人の中に逃げ込むか」
「せ、セツナ…卿!?」

うそだろ、俺セツナ卿なんて初めて見たぜ。ていうかルシ自体初めてだ!
シアが焦り顔で戻ってきたことにも合点がいく…。
さすがの威圧感に、カガリもつばをごくりと飲み込んで、セツナ卿が口を開くのを待つしかなかった。できることと言ったら、とにかく不敬に当たるであろうことを頭のなかに羅列していくことぐらいか。

「幽かなるものよ、応えるがいい」
「オあっ!?せ、セツナ卿…?」
《(カガリ、失礼にならないように…!)》
「(いま失礼してるのはお前だよ)」

セツナ卿はまっすぐとカガリを見つめていた。
確実に、シアの存在に気がついている。かすかなるもの、というのは恐らくシアのことだろう。ふわりふわりとシアを追いかけてきて、今まさに、シアの逃げ込んだカガリの前に立っているのだから。

「せ、セツナ卿、どうかいたしましたか」

何か失礼でも、と聞いてもセツナ卿はただカガリを…カガリを通して何かを見ているような顔をしていた。
カガリは視線の合わない不気味さにいたたまれない気でいた。

「そなた」
「な、ンすか」
「そなたはなぜその魂を宿す?」

カガリは視線が合わないと恐怖しているが、シアは違うことに戦慄していた。
セツナ卿のガラス玉のような眼が、シアのもう存在しない肉体の一部、瞳に焦点があっている。
セツナ卿は、シアをはっきりと目に移していた。

《(セツナ卿、私のことが見えてらっしゃるの…?)》
「ハァッ!?んなっ…ンンッ…」
「そうか。やはり見えているのだな」

まるで今のシアが言ったことを踏まえているかのような発言に、カガリですらその認識を覆せなくなる。
確信できた。
セツナ卿は、シアが見えている、と。

「なぜ」
「なぜ?なぜと言ったのかアンタは」
「(カガリ!)」
「いいじゃねえか、他に誰もいない」

まるで図られたかのように、そこはカガリとセツナ卿の二人だけ。
ガランとした廊下に、ただ見つめてくるセツナ卿に、自分を奮い立たせるようにカガリは相対した。

「なぜもクソもねえよ、この幽霊は命の恩人だ。俺は死にそうになった、人の記憶からすらもだ。そこを救われた。もう記憶の中ですら生きていないようなこいつにだ。だから今度は俺が手を貸す番だろう。残念なことに目的を達成するための肉体はもう無いこの幽霊のために、俺はこいつと居るんだよ」

言えば言うほど、カガリの顔はしかめっ面に、仏頂面に、不機嫌さが増していく。
その感情が伝わってきて、シアは逃げ場にしていた彼の体を抜け出した。
目が合う。
舌打ちをされた。

「何してんだ幽霊。俺の視界を遮るんじゃねえよ」
《何それ!ちょっと、セツナ卿も居るのよ、メンチ切らないで!》
「セツナ卿に切ってるんじゃないからいいんですぅ〜。幽霊が俺に指図しないでくださ〜い」
《言ったわね?いいわよ、また奇行に走ってあげる。今度こそ指導室行きにさせてあげるから》
「は?そうして困るのはお前ですけど?俺は別に?退学になっても?痛くも痒くもないですし?実家のハンターショップを継ぐだけですから!?」
《なんですって〜?》

誰も居ないのを良いことに、カガリとシアはぎゃいぎゃいと騒ぎ始めた。
日頃のお互いに気にしていたことから、別段気にしてはいなかった些細なことまで。うっぷんを晴らすように、子供のような言い合いを繰り広げた。

「いつもいつもそうなんだよ、幽霊になってからデリカシーを身体の方にオイてきたんじゃないか!?」
《お言葉を返すようだけど、デリカシーの無さで言ったらあなたの方が》
「危害では」

凛とした、静かな声で。

「ないようだ」

だがしかし儚げな声で。
セツナ卿は呟いた。
ただそれだけで、二人の諍いは幕を閉じた。
呆然とセツナ卿を見るも、彼女はもう役目を終えたと言わんばかりに、踵を返して去ってしまう。

《行ってしまわれたわ…》
「なんだあのアマ…」

危害ではないと。
つまり、あのルシはシアに危険を感じて出てきたということだろうか?その場合、共犯者に当てられてしまうのだろうか?カガリは身震いした。
ルシの歴史くらい知っている。
人知を超えた力、魔力、その代償。
それに目をつけられていたのだ。

《何に、危険を感じておられたのかしら…》
「最近の奇行とかにじゃねえの?」
《そんなことしなくても、幽霊くらい、そこらじゅうにいるわ》
「…いんの?」
《?ええ。でも、意識がはっきりしないものばかりよ。私、話のできる幽霊は見たことがな…い、から?》
「は?」
《そうよ、見たことがない!私と同じような、意思のはっきりした、行動を起こせる幽霊は!》
「…だから、幽霊が見えるルシは、お前という『初めての存在』を危惧した…?」

それだ!と二人は指を刺しあった。

《でもルシは何を危惧したの?国を守るため?ルシくらいの存在なら、私みたいなちっぽけな存在、簡単に処理できそうなのに!》
「…国を守る…ルシってのは国を守るのが役目なのか?」
《いえ、国を守るのではなくて、クリスタルを守ることが本来の役目だけど、結果的には…》
「…クリスタル、か?」
《幽霊はクリスタルに何か影響を及ぼせるの…?》
「影響って?どんな?まさか破壊するなんて力、お前にはないだろう?」
《クリスタル、クリスタルの力と言ったら…》

ぶつぶつ、なんて大きさではない。
誰かと会話をするときに使う大きさで話していて、しかも周りが見えていない。
時々思いついたように大声も出す。
気がついていなかった。
周りにはもう人がいることに。

「クリスタル…加護…幽霊…」
「カガリごめん!お前の奇行を止めたら成績に色つけるって言われたんだ!」
「は?」
《え?》

ごり。
授業にはもちろん間に合わなかった。気を失ったからだ。
次に目が覚めたのは医務室で、カガリはまた隊長にこってりと絞られた。
そしてもう一度叫んだ。

「いや俺のせいじゃねぇしッ」

はたかれた。
いいとこなしだ。
恥ずかしいことも言わされたし、同期に全力で殴られるし。
やっぱり絶交だ絶交!
だが夕飯時になり、やっぱりシアとともに行動してる自分には、どうしようもなく、呆れるしかなかった。





手を繋いでいようね




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -