GHOST FLAME | ナノ

ある日、こんな噂を聞いたのがきっかけで、カガリはシアに問うたのだ。それを聞くのは今更かというほどに遅かった。
彼女の過去の話だった。

「なあ、このまえどっかのクラスのモーグリが言ってたけどよ、朱雀四天王の最後」
《…え、ええ》
「…気になるから、聞いてもいいか?その、詳しく」
《そう…よね。気になるよね》

ああ、こりゃ長くなるな、なんて気をそらして。罪悪感をひた隠して、カガリはシアの声に耳を傾けた。

《…あのね、最初は、私とミワちゃん…っていう同期の女の子と知り合ったことが始まりだったの》



「ミワちゃん、あの人とおんなじクラスだよね、あの…」
「んー?どの人?」

合同演習でたまたまペアを作ったことが始まりだった。彼女の大雑把な用で繊細な性格は私と以外に波長が合ったらしくて、以来よく食事やら演習やらで集まることが増えていた。
そんな中で、噂の彼と仲がいい?と聞いて、ドキッとしたのだ。真偽を知りたくて、私ははしたなくも下心満載で何度も心の準備をしたあと7回目のチャレンジでようやっと口を聞けたのだ。

「あの、く、ラサメくん…」
「クラサメ…?うん、そだよ、おんなじ3組(サード)!」

自慢気に微笑む彼女に対して、言いよどんでしまう。
最初はごまかしてばかりだった。お近づきになりたいという旨を遠回しに遠回しに伝えて、2、3回食事の席をともにすると、彼は名前を覚えてくれた。
彼にしては自信なさげに、「シア…だったよな?よく付き合えるよな、ミワとつるむの大変だろう?」なんて話しかけられたのがハジメテだった。
その時の血の巡りを今でも覚えている。
思い出してまた感じることはできないけれど。
血が激しく全身をめぐって、肌が赤く燃え上がる。
それを見られるのが恥ずかしくて、うつむきながらぼそぼそと返事をしたことを覚えていた。

「ちょっとー!シアになんてことを言うの!バカサメー!」
「うわ、やめろよ!だからガサツって言われるんだ!」
「なにをー!」

ただ純粋に羨ましかった。
彼と気兼ねなくじゃれ合えることが。
私にはとてもできなかった。
もとよりそのような性格ではなかったし、彼の前では恥が邪魔して心臓が跳ねる。
それから何度か会う機会があって、彼との親密さは増した。
私も候補生としての努力を怠ったわけではない。

もっと近く、もっと、もっと隣に。より近くへ、より、あなたの側へと。
ただ回復魔法が使えるだけではいけない。
強くなって、回復魔法だけじゃなくて前線で戦えるようにと。
私の努力と強い希望もあって、配属先が変更された。行き先は勿論、3組(クラス・サード)だった。

「やったねシア!これからは演習とか、任務とかより一緒に行けるじゃん!」
「うん、ありがとうミワちゃん!」

でも平穏、安息、充実した日々はまったくもって長く続くことはなかった。

私の歓迎も兼ねて、クラスでは演習という名目で肝試しをやることになった。
そこで起こったことといえば、惨殺。
その年の記録を読み返せば一目瞭然だ。ありえないほどにクラスの人数が減っている。
この事件のせいなのだ。
帰還者は6名、生存者は5名だった。
私は入って間もないクラスの人を完全には覚えきっておらず、また記憶も空虚になる部分が少なかった。
私と彼らとの距離が少し広まった。

喪失に暮れる私たちには任務が与えられて、私は流されるままその任務を遂行するというクラサメくんについていった。

「でもね、なんだろう。すごく嫌な予感がするの。ここ、空気が変よ。何かがおかしい…」

そんなことを言って、周辺捜索のために少し離れて行動している間に、あれよあれよと話は進み、クラサメくんたちは任務を完遂していた。朱雀四天王と名乗りを上げ、クラサメくんは相棒を手に入れていた。
私は別行動をしていたせいで初手がおくれ、民間人の先導をするほかなかった。
私と彼らの溝が広まった気がした。
そんな私も、おこぼれのように1組(クラス・ファースト)へと昇格した。

「でもシアのおかげで無事だった人もいるじゃない?そう気に病まないで!」

ミワちゃんはそう言うけれど、自分では自分の実力に納得がいかなくて、毎日夜遅くまで特訓を重ねた。付き合いを疎かにして、自然と1組内で仲の良い人はできなかった。いつもなら孤独を気にして一人二人と関係をもつのに、私は盲目になっていて想い人の近況すら遠ざかっていた。



「彼女ができたんだ」

彼のこれまで幸せそうな顔を見たことがなかった。
こんな時代に好きな人ができるなんて、とてもめでたいことなのに。
素直に喜べない自分は誰だろうかと思った。だから、私の理想となるために、彼には嘘の祝福を告げた。

そしてまた事件は起こった。
クラサメくんの親友?であるカヅサくんのご両親が皇国に攫われたのだという。
彼はまた走っていった。
そんな彼が好きだった。
でも彼が私に頼んだことは嫌なことだった。

アオイさんの護衛。
また置いてけぼり。
私はまた彼の隣に立てなかったのだと思うとひどく不満が湧いた。
だが彼の大切な人を任されるような存在になれたと思うと心が晴れた。
自分はなんと単純なんだと思った。



「貴女が、シア、さん?」
「はい、貴女がアオイさんですね。クラサメくんから話は聞いています。…貴女のことを、クラサメくんの代わりに守れることを、光栄に思います」
「…私も。クラサメから聞いてます。とても一生懸命で、頼れる人だと」

多分、彼女は察したのだろう。
私もまた、彼が好きなのだと。

「…任務のときの、クラサメはいつも?」
「…?ええ、いつも…いつも、彼は必死です。友のために…仲間のために、必死で。走る。走り抜けられる…そんな、人です」

迷いを持っても、決して歩みを止めない。いざとなれば、走る。
そんな背中を追ってきたのだ。そんな彼を、好きになったのだ。
ずっと前から、そうだったのだ。

「…よかったです」
「…は、」

あなたなら、きっと。あなたたちなら。
そう言いかけた彼女の言葉の先を、私はなんとなく理解できてしまったのが、ある意味で私のターニングポイントだった。



問題は未だ続いた。
護衛中、士官の裏切りがあった。私はそれに巻き込まれて、その士官にタカツグという隊長と一緒に連れ去られた。なんと無力なことか。
その人は私のぶんまで暴行を受けた。なんと、無力なことか。

そして私は間に合わなかった。
力も及ばなかった。
その隊長は亡くなってしまった。
また彼との距離ができた気がした。
彼はアオイさんと別れた。
私の中に波が立たなかった。

彼はどんどんと遠くへ行く。私はただ、腕を磨くだけだった。
彼を追って。



遠くへ行けと導かれ




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