GHOST FLAME | ナノ



時々ひどく落ち込む時がある。
幽霊になってからは本当に情緒不安定で、そういう時はカガリに迷惑をかけないようにひっそりと彼の中からぬけ出すのだ。

それはたとえば、彼の、クラサメくんを見ている時とか。

「…これで終わりか」

とんとん、と書類を整えて、やっとこさ就寝する時間になったらしく、彼は寝間着に着替え始める。
きっと前までの私だったら小さく悲鳴を上げて顔を真っ赤に染め上げていただろう。照れ屋だったなあ、よくりんご頭などと呼ばれていた。
だが今私の宿主となっているのは男で、必然的にそういったものは見慣れてきてしまうわけで。
私は前ほど彼の体で悲鳴を上げるほど初心ではなくなっていた。いや、彼の身体がそれほどまででもなくなってきたというわけではない。今でも見惚れる。いや今はそれは置いといて。

とにかく、ひどく落ち着かない日があるのだ。おセンチになる日が。

静かに寝息を立て始めるクラサメくんの枕元に立つ。
いつもなら気配で目を開けるだろう彼はこんなにも近くにいる私に反応することもない。目に見えない、聞こえないどころか気配もないのだ。
気づいてもらえないことがここまで悲しく感じるとは思わなかった。
昼間はそんなこと感じないのに。
夜に彼の近くにいると、どうしてもこんな気持になってしまうのは何故だろう。

昔はこの瞼の裏にある瞳に私が写っていたのにな。
今じゃ透き通った私すら彼の瞳には映らないのだ。
そもそも私はどう見えるのだろうか。幽霊の相場と言ったら半透明な身体で足がなくって火の玉が浮いてて頭に御札…は蒼龍か。とにかくそんなイメージだ。今度カガリに聞いてみようか、あなたにはどう見えるの、って。
そしてどうにか、そんな半透明な姿でもいいから彼の瞳に映れないだろうか。
記憶がなくてもいいから、どうか私を見て欲しい。目を合わせて、微笑んで欲しい。

傲慢だろうか。
こんな死人が生きている人間にそんなことを望むのは。
許されないことなのだろうか。
もう一度彼の中で初めからでもいいから生きたいと願うのは。

クリスタルをこの時ばかりは恨み、憎んでしまう。
どうして記憶を消すの。
どうして私をこんなにしたの。

なんて。

クリスタルがわからない。
そもそも私がこんなになったのはクリスタルのせいかどうかもわからない。
聞いたってクリスタルは応えてくれないんだろう。
口がないし。

そんなことをモヤモヤと考えながら、私はクラサメくんの周りをふよふよ。
こんなことをしていたら私がもう一度彼の中で生きることには遠ざかるんじゃないだろうか?でもどうせ器がないと生きられない。私の魂を入れる器がないと。
他人の物を奪うなんてしたくはない。カガリだって私を居候させているにすぎないのだから。
いつか出て行かねばならない日が来るだろう。
その時はどうしよう?
別に宿るところがなければ消えてしまうわけでもないし、そもそも成仏するならさっさと成仏した方がいい存在なのだ。きっと。
この状況のほうがおかしいのに、私は未練がましくここにいる。
先のことを考えねばならない。幽霊なのにそんなことを考えなければならないとは…。

とにかく、近い将来、カガリにいい人でもできた時を想定して、その時は彼の元を去るべきだろう。お邪魔虫にしかならない。
その後は、成仏する方法を探すか、何年も生きる?覚悟を決めるか。どちらかか…。

《…100年、200年…そのくらい、生きなきゃならないのかしら》

そのときに、あなたはどうなっているのかしら。
寝息を立てる彼の頬を通り抜ける指で突く真似事をしながら、私はどうかこの悪夢のような状況がいつの日か救われるよう祈った。



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