仕事中毒症候群 | ナノ


▼ 仕事中毒者の密通 Act.5

「私まで?いいものなのか、一兵卒ですらないのに」

結局、城の一室に止まった翌朝。
朝食の時間にジェイドが切り出してきたのは今日行われる謁見の話だった。
曰くシキにも参加するようにのこと。
朝からそんな仕事の話か!と拒絶するようなこともなく(仕事の話なら大歓迎だ!)、ただ疑問点をぶつけるだけで滞りなく進んだ。

「では一時間後に」
「ああ、わかった。すぐ支度をしよう」

荷物を全て片付けて旅支度も済ませておくように、と言われて、昨日のうちに今後の方針は全て決まってしまっていることがわかった。どうやらこの謁見でもう出発までしてしまうようだ。

「(何を急いでいるんだ?)」

もちろん、ジェイドのことではない。
この国が、だ。



「おお、待っていたぞ、ルーク」

謁見の間に最後に訪れたのはやはりルークで、おそらくついさっきまで寝ていたのだろうか、髪がいつも通りに跳ねていた。
今日はガイが来るより前に屋敷を飛び出してきたのだろう、ならば誰も止められはしまい。

「昨夜、緊急会議が招集され、マルクト帝国と和平条約を締結することで合意しました」

ルークがいるためか、比較的簡潔に進められていく謁見で、次の目的が明かされていく。
内容は聞き知ったもので、シキ自身も度々懸念していたアクゼリュス瘴気問題だった。
近年問題視されている、アクゼリュスという鉱山都市での度重なる地震、それに伴い吹き出される瘴気、苦しむ民。
だがマルクトの国土にかかわらず、マルクト側からの道は先述の瘴気によって通れなくなっている。
シキたち研究員や、医師たちも手を尽くすものの、瘴気に蝕まれずにアクゼリュスへとたどり着く方法がない。
少量の摂取だけでも命取りになってしまう瘴気に、長らく蝕まれている人々の救助に、まだ一つも手をかけられてすらいないのだ。
和平条約が結ばれれば、かつてはキムラスカの領土でもあったアクゼリュスにはそちら側からの道で進むことができるだろう。
せめて、アクゼリュスの瘴気をどうにかする前に、住民たちの避難、誘導、保護くらいはしなくてはなるまい。
そこにルークがどう干渉するのか…まあここまでくれば彼の役目など絞り込めたも同然だが。
まだ自分の役目が何なのか、今回の登城の意味を図れずにいるルークは急かすように文句を垂れる。

「陛下はありがたくもお前をキムラスカ・ランバルディア王国の親善大使として任命されたのだ!」
「俺を!?…でも、もう戦ったりするのは…」

少し俯いたルークは、恐らく先での道中のこと、イオンをかばったときのことを思い出しているのだろうか、手が震えていた。
思い出すだけでもあんなに震えているのに。
お偉いさんは酷なことを言うもんだ。
シキは静かに見やる。助けなど、今は出せる面ではないからだ。

「ナタリアから、ヴァンのことは聞いた」
「!」

このことは、シキも知っていなかった。
ヴァン・グランツ謡将はやはりというかなんというか…流石に捕まっていた。ていうか知っていたのなら朝に教えろよ、という恨み節を効かせ隣に立つ男を睨む。涼しい顔をして、おそらくなんてこともないのが腹立たしい。
ティアの件もあれば、恐らくガイ辺りからでもジェイド辺りからでもタルタロス強奪やマルクト兵殺害などの六神将の暴走に関して、「何もお咎めなし」などとは和平条約の手前、言うことはできないだろう。
やはり尊敬する師のことは心配なのだろう、話の引き合いに出され、渋々ながらルークはその親善大使という役を引き受けた。

「しかし、よく決心してくれた!実はな、この役目はお前でなければならない意味があるのだ」
「…え?」
「この譜石をごらん」

預言。
この話は、おそらく被験者のものだろう。
だがレプリカである以上、その話はルークに当てはまらない。預言は外れるだろう。被験者である人間が行わなければ、意味のない話ではないのだろうか。
ヴァンは、そのことも知っていて、ルークに何かをさせるつもりなのか?

「ND2018、ローレライの力を継ぐ者、人々を引き連れ鉱山の街へと向かう、そこで…。この先は、欠けています…」
「結構。つまりルーク、お前は選ばれた若者なのだよ」

違う、『選ばれた』はずなのは、被験者の…。

「…シキ、顔が怖いですよ。今にも抜きそうなくらい、ね」
「アッ…、悪い…」

とにかく、預言になんていい思い出はない。
役に立たない。使い方を間違えているとしか、考えたことはない。あの日から、信用なんて…。
ああもう、今は他のことを考えなければ。過去より、よりよい未来を、自分の手で掴むために。

ルークの沈黙を堅い決意とでも受け取ったのか、ファブレ公爵はルークをもてはやす。英雄になるときであると。どうやってなるつもりなのか、気になるところではある。

「英雄ねえ…」
「何か?カーティス大佐」
「いえ。それでは同行者は私と、この軍医もいれば役に立つでしょう。他に、誰になりましょう?」

教団からの同行者はティアとヴァンになるらしい。そしてルークの世話係としてガイも来ることになった。
なんだか自然に自分の同行も決まったが、今回は都合がいい。行かせてもらう他あるまい。
ルークはまだ思い悩んでいるようだ。同行者に関して、頓着を見せる気配がない。
王座では、なにやら時期王妃だろうか。揉めているようだが、彼にはその景色すら見えていないようだった。

「伯父上、俺、師匠に会ってきてもいいですか?」
「好きにしなさい。他の同行者は城の前に待たせておこう」

そう簡単に待たないんだよ、これが。
私は移動を促される中、ジェイドに合図を送り一行から離れた。





「ルーク、ほうら」
「あん?うわっ、なんだよこれ!」
「お守りさあ、持っておきな」

地下に向かう彼を追ってきたかのように、シキは後ろから声をかけて、キラキラしたブローチを放り投げる。
危なげではあるものの、ルークはしっかりとそれをキャッチした。
それを確認してから、シキは足早にそこから離れていく…。
ように見せかけ、人気のない所に身を隠した。純真な彼は恐らく皆のところに行ったのだと考えるだろう。

「さっ、ちゃっちゃと話してもらおうかねえ」

片耳につけたイヤリング。
それだけの代物では、もちろん無い。
ざざ、としたノイズとともに、そのイヤリングは会話のあらましをかくかたりき。
出るわ出るわの懐柔の言葉のオンパレードは呆れのため息をつく暇もない。
知識のないものをたぶらかすのが上手い上手い。

『キムラスカの飼い犬として一生バチカルに縛り付けられる』
『お前がルグニカ平野に戦争をもたらす』
『戦争に利用される前に助けてやりたい』
『アクゼリュスから住民を動かさずに瘴気をなくせばいい』
『超振動で』『瘴気を中和』『ダアトに亡命』『私も力を貸す』
『この計画のことは、直前まで誰にも言ってはならないぞ』

ルークのほしいものを、ちらり、ちらりとまるで近くにあるように見せつけながら、なんと誘導の上手いこと。これは、私も大きく手を打たねばなるまい。

『私がお前をさらった』『七年前に』

あの、コーラル城の研究施設にだろう。
だんだんと話が繋がって読めてきた。だが、やつは、ヴァンが何をするつもりであるのか、まだそこが、つかめなかった。

『今度はしくじったりしない』『私にはお前が必要なのだ』

甘い言葉で誘惑する姿は、目に見えずとも、シキには本物の悪魔のように見えていた。
ルークはさながら、魂を握られたとも知らない、善良な信者であったことだろう。




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