仕事中毒症候群 | ナノ


▼ 仕事中毒者の密通 Act.4


カンカンカンと足音を鳴らして来たことを知らせながら私は廃工場に侵入した。
入る際には少しだけ手間取ってしまった。詳しくは言えないけど、私の銃はアーミーナイフなのだとだけ言っておこう。

「待たせた」
「いんや、時間ぴったりさ」

どこからも影になるような場所で、ノワールたちはシキを迎えた。

「で?今度は何すんの?」
「導師様にちょっとついてきてもらうよ、もちろん傷つけたりゃしないさ」
「こりゃまた面倒なものを受けたね、誰に?」
「アッシュってボーヤさ」
「ふぅん…」
「手を引け、とは言わないだろ?」
「ああ、被害が出ない程度に…好きにやってくれ」

アッシュは何を考えている?
被験者であることがわかった手前、アッシュのやることなすことには目を光らせなくてはならない。

「随時、報告を頼む。気をつけていってくれ…ああ、シルフモドキなんかいいな、コレでもいいけど」
「シキのシルフモドキかい。あいつは優秀だからね」

先日ケセドニアで渡されたピアスをいじりながら、シキは思考を巡らす。できれば誰にもバレたくないものだ。特に、ジェイド。
報告も終わったところで、ノワールはケセドニアで頼んでおいたものを渡してきた。

「うわっ、本気出したな。いいのかな?これ一番新しいのだろ?」
「曲者ぞろいの中じゃあそれくらいしないと生きちゃ行けないさ、だろ?」
「ありがたく使わせてもらうとしようか」

それが入った紙袋を受け取って、少々の「頼み事」をする。今後のためだ。
シキは挨拶もそこそこにその場を離れた。時間ももういくらか経ってしまっているから。
宿を取ると言った手前、あれは確認しに宿屋へ訪れるだろう。
一応観光するとつぶやいてから離れたけれど、長すぎると怪しまれてしまうのも事実、早めに戻ることにしよう。

なにより、ここはそこまでいて気分の良い場所でもない!
シキは足早に…だが誰にも見つからぬよう、ひっそりとその場を抜け出した。



「おかえりー」
「…おかしいですね」

なにが。
流石にこの街を行ったり来たりするのは上下激しく、疲れたためベッドでゴロゴロとしながらジェイドの帰りを待っていただけだと言うのに、合流してすぐこのいわれようとは。
シキは眉をひそめて抗議した。

「あなたがおとなしく待っているとは…明日は雨…じゃ済まなさそうですね」
「ほほぉ、弾幕を振らせてほしいと見たぞ?」
「ご冗談を」
「フフフ、冗談に聞こえたのか」
「ハハハ、あなたはよくお戯れをなさいますからねぇ」
「フフフ」
「ハハハ」

寒くなってきた、この三文芝居はもうやめておこう。
にしても他国の使者たるジェイドくらいは王城とかそのへんに部屋を用意されているもんだと思っていたが…違ったのだろうか。
自費で泊まれと追い出したのだろうか…あの死霊使いを?勇気あるなあ今時の王家って。

「あなたの考えていることの殆どは珍しいことに外れていると言っておきましょう」
「眼と眼で会話ができる関係になった覚えはない」
「論点がずれていますよ?図星でしたね、シキ。そして今すぐ荷物を…そもそも広げてすらいませんね、移動しますよ」

もともとシキの荷物ときたら大きめのショルダーバッグ一つで、しかも広げるようなものも入っていない。
ジェイドは椅子に置いてあるその荷物を肩に掛けて、顎で立ち上がるようシキに促した。

「へえ、泊まる宛あったんだな。私もいいのか?」
「ええ、使者の方々、と仰っていましたからね。私達の人数以上に空き部屋はあるでしょう…。なんてったって王城ですからね」

使者として数えられているということで良いのだろうか。まあ元はあと数百人はいた予定だったのだから…。ああ、またむしゃくしゃすることを思い出してしまう。

「じゃー行くか。…ン」
「なんですこの手は」

ン、と鼻で声を出してジェイドに手を伸ばすシキは、眉をひそめて、ジェイドが肩にかける自身の荷物のベルトをつかむ。

「だから、私の荷物、返せ」
「いえいえ、お持ちしますよ、レディーファーストの一環で」
「いい!自分のものくらい自分で持つ、返せ!」
「あなたをエスコートする男性は形無しですねえ」
「かーえーせーあっこら待て、返せっもう、返してってば」

爽快に笑いながら、マタドールが如くジェイドはシキを連れて宿を出た。チェックアウトはもう、済ませたあとだった。

くそ、清々しいやつ。

一般の女性ならば、ここで「なんてスマートなの、素敵、抱いて!」なんて落とされるところだろうが…シキにはまったくもって効果はなし…むしろ逆効果といえるところだろう。
歯を食いしばって物質に取られたカバンを追いかけ続けている。



隠れてため息をつく人間は、まだアタックの必要アリと判断したようだった。




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