仕事中毒症候群 | ナノ


▼ 仕事中毒者の密通 Act.3



見上げても頂上が見えない。
先人は何故このような構造にしようと思ったのだろうか。だが結果として天然の要塞となり民を、王を守るものになっているのだろうから、突飛な発想も天才の発想に生まれ変われるのだ。

「なあジェイド」
「…それは言わないほうがよろしい類のものではありませんか?ここでは、ね」

いやまさか。
今シェリダンで開発中であると噂の飛行譜石を用いた音機関で攻められたらどうなるんだろうななんてまさか聞こうとなんてしていない。
でもたしかに今ここで聞いておくのはやめておくべきだろう。さすがの私でもわかるぞ、ちょっと好奇心が湧いただけなんだ。

とにかく船を降りよう。
用事があるのはこの要塞の頂きなのだ。海抜0止まりじゃ話にならない。
港に降り立てば、一行を待ち構える巨漢の老人…ゴールドバーグという男と、セシルという凛とした女性だった。
ジェイドの存在はやはり驚かれるようで、皮肉に皮肉の応酬だった。やめろ、子供がいるんだぞ。
そもそもジェイドはもう死体集めなんてしていないのだから、この噂も時効になってもいい頃だと思うところはある。これは日頃の行いに賭ける他あるまい。
あわや諍いに発展するかといったところで、ゴールドバーグ団長殿が止めに入った。ルークを自宅へと戻すらしい。城への案内はセシル少将が引きうけてくれるようだ。
これは私も行くべきなのだろうか?できれば街を見て回りたい。バチカルはさすがの私も初めてなんだ。

「待ってくれ!俺はイオンから叔父上への取り次ぎを頼まれたんだ。俺が城へ連れて行く!」

突然に、ルークが意見を上げた。
ゴールドバーグは納得して引き下がったが、どうしたのだろう。いきなり。

「ありがとう、心強いです」
「ルーク、見直したわ!」

皆口々にルークを褒めている。わたしもわたしも。

「ファイトだぞ、ルーク!」

責任感を感じて、不安も感じているだろうに。
ルークの顔はまるでおつかいを初めて任されて意気揚々と家を出発していきそうな子供のように希望と期待に満ちていた。

流石に年齢を低くしすぎたか。めんご。



とにかく自信に満ち満ちなルークはずんずんとバチカルを進んでいくが、見るものすべてが初めてな彼の目はいたるところの誘惑に奪われていって、だんだんと歩が緩んでいった。
さっきの前言撤回は撤回しよう。
お使いの最中に他に気を取られる子供同然だった。
笑いをこらえるのに必至になってしまったおかげで、ジェイドにひと睨みされた私は、さっと取り繕わねばならない苦労を重ねた。なんでだ!

そんなルークにオカン…もといガイは目ざとく気がついた。流石だガイ。
各々が何の何倍だとか、縦長だとか感想を言う中で、私も気を利かせて少しゆっくり歩いても困らないだろうと声をかけようとした時、聞き覚えのある声がして、一気に目が覚めたような感覚になった。

「…なるほど、そいつはあたしらの得意分野だ」
「報酬ははずんでもらうゲスよ」

もうちょっと隠れてできないかな〜〜〜!
そんな気持ちでいっぱいだった。冷や汗が出るのを隣のおじさんにバレないようにするのは一苦労だとわからないのだろうか。
いや、責任を求める先なんて無いのだ。彼らに文句をいうわけにもいかない。そして売り渡すわけにもいかない、というのが心苦しいところか。

そう内心焦っているところに助け舟を図らずも出してくれたのはルークだった。
スリでもしようとしてんのかと声をかけられ、彼らの密会は終わりを告げる。
そしてこちらにも気がついたようで、

「へえ!そちらのお坊ちゃまがイオン様かい?」

ここで彼らのすることが解ってしまった。
目的はイオンか。
全く今度は何をするのかと、ため息を付いた。
それはちょうどタイミングよくアニスが立ちはだかった頃だったので、きっとそれに対するため息だと思われるだろう。

だが漆黒の翼の二人は喧嘩を買うでもなしにさっさととんずらした。
ルークたちも先に進もうということで、プリプリしているルークとアニスを先頭に一行は頂上を目指した。

私はというと、後ろ手のハンドサインで、後で落ち合う旨を伝えていた。
もちろん、おじさんには見えないだろう最後尾で。



「私は外で待ってるよ。特に役職を持っているわけでもないのに、目をつけられたら大変だからね」
「こねーのかよ!?」
「あのなあルーク、私は一介の軍医で、別に親書を持ってるわけでもないんだ。本来なら…そうだな。無事であろうタルタロスの中で待機…とかだっただろうよ」
「じゃあシキは外で待ってるの?」
「ああ、宿でも取るよ。それで観光でもしてるさ。だから、ルークとはここでお別れかな?」

ガイが女性に絡まれたりとか、そんな事件もありつつバチカル城の前に到着して、私は進言した。いやまあ人と会う約束があるってのもあるんだけどさ。

「そう…なのか?」

いきなりの別れにしょげるルーク。
確かに、このままの空気だったらまだ一緒に居られると思うところだろう。私だって側に居たい。主にヴァンの監視のために。

「…ま、いいでしょう。街で問題を起こさないようにお願いしますよ」
「やだなあ!ジェイドさんってばここは他国ですよ、さすがにこんなとこじゃなにもしませんよお」

あっはっはとサムイ会話を続ける中、ルークはしょげたままだった。
仕方ないなあ。

「ルーク、別にここで今生の別れってわけじゃないさ。ルークはもう強いんだし、いざとなったら塀を乗り越えるなり何なりして会いにおいでさ。へこたれんなって」
「乗り越えてって…できるわけねーじゃんそんなこと」
「大切なのはやりたいって思うこと、それは可能だって思うことさ。成人したら軟禁も解かれるんだろ?それからやりたい放題すりゃいいさ」

肩をたたいて励ましたら、少しだけ気が晴れたようだ。
勢いに任せて、他の面子にも別れを告げた。
そこまで長い間でもなかったため、他の面子はルークよりも遥かにあっさりと挨拶を終えて、私は昇降機を降りていった。


さて。


まずは宣告通り宿を取ろう。
そのあとだ。
向かう先は、バチカル廃工場だ。








←prev / next→

[ ←back ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -