仕事中毒症候群 | ナノ


▼ 仕事中毒者の推論 Act.1



セントビナーの正門は、シキとジェイドの予想通り神託の盾騎士団が見張りについていた。

「予想どおりだったな、そこのところどう思う死霊使い」
「妥当なことだと思いますよ、あなたの予想どおりですしね。さすがですよシキ」
「タルタロスから一番近い街だからな、休息に立ち寄ると相手も考えたんだろ」

入り口で検問する神託の盾兵は、街に立ち入る人々を細かく見定めている様子で、これでは隙があったものではない。

「空でも飛べりゃあいいんだけどな」
「外壁を登ることはできるぞ」
「何言ってんだよ?シキ」
「鍵つきロープ…」
「却下よ!」
「ですかねえ」

くだらない雑談をしていると、一台の馬車が門に差し掛かる。話を聞けばエンゲーブからのもので、あとにもう一台くると話している。それを聞いたみなの考える事は同じのようで、少しの審議のあと、行動に移った。
ついてこれないものが一名いたとは気づかずに。

「おい、どういうことだよ!俺をおいて話を進めるなっ!」
「馬車にお邪魔させてもらうってことさ、行こうぜルーク」

後続の馬車をルークが引き止めれば、乗っていたのはエンゲーブの代表の者であったらしい。シキは会ったこともなかったので知り合いだったのかと驚いたが、好都合であると変に騒ぎ立てるようなことはせず、大人しく匿われる姿勢に入る。
ここからはザル警備だ。まあまさかここに乗せてもらえているとは神託の盾兵も思わなかったのだろう。
一行はすんなりとセントビナー侵入に成功した。

「で、アニスはここにいるんだな」
「マルクト軍の基地で落ち合う約束です。…生きていればね」
「イヤなこと言うやつだな…じゃあ行くか」
「神託の盾に見つからないよう、派手な行動は謹んで」
「わかってるよ、俺だってそれくらい!」
「なんだ?尻に敷かれてるなルーク!ナタリア姫が妬くぞ!」

彼は相変わらず変な茶々を入れるのが好きなようで、自分がなにを弱みとしているかを忘れてそういうことをすると、時に女性は手段を選ばないものだと言うに。

「くだらないことを言うのはやめて!」

ティアがいきなり腕に抱きついたことで、病気かと思うくらい震えだすガイ。ティアが手を離せば背中から倒れこんだ。上がった片足がまだビクビクと痙攣していた。
導師イオンは純粋に治るかもしれないと言うが、さてはてここまで重傷な恐怖症がそうすぐに治るものだろうか。そこはガイ次第か。

「まず基地に向かいましょう、まだ神託の盾もうろついているようですし、あまり外にいると見つかりやすいでしょうし」
「私もここは賛成。トニーは無事かねえ」

そう行って基地に足を進めると、基地手前で少年が声をかけてきた。どうやら『死霊使い』という軍人に伝えて欲しいことがあるとか。
死霊使いに子供のファンでもいたかとシキは吹き出した。

「ぶっは」
「…ああ、知ってますねえ」

じろりとシキを一回見てから、その死霊使い本人は子供に視線を戻す。
悲しげな目をした少年は、それでいて自信あり気に話を進めた。

「オレのひい爺ちゃんが言ってた」

この時点で、シキは何を言わんか察した。『死霊使い』のことで聞くことなんて言ったら一つしかないことを。

「死霊使いは死んだ人を生き返らせる実験をしてるって」
「え…?」

少年の眼は悲しげ、死霊使い、生き返らせる実験。この少年の求めるものが何か、シキには既に見当がついていた。
ルークはそんなことを?とジェイドを半信半疑に見つめていた。少年は気にせず話を進める。

「死霊使いに会ったら頼んどいてよ。キムラスカの奴らに殺されたオレの父ちゃんを生き返らせてくれって」
「そうですね。…伝えますよ」
「頼んだぞ!男と男の約束だぞ」

少年は嬉しそうな顔をして走り去った。純粋さとは時に恐ろしい。自分が何を頼んだのかなんて、彼には見当もつかないのだろう。まず、ここにいる面子ですら理解しているのはたった二人だけだろう。シキも含め。

「まさか本人の目の前で言うとは恐れ入るね。男と男の〜というわりに女々しい内容だけど!」
「随分な噂だなあ、家族を生き返らせるなんて、俺が頼みたいくらいだ」
「誰か亡くしたの?」

一族郎党なんて、このご時世珍しくもない。シキ自身天涯孤独の身であるし、話せばガイもティアも家族を失っているらしい。
噂話であると決めつけてもらえたのに、物騒なことをつぶやいた男の言葉を聞き取れたのは、隣をキープしていたからだろう。後ろの導師には聞かれずにすんだようだ。
一行は話も早々に基地の中へ入っていった。

「マルクト帝国第三師団所属ジェイド・カーティス大佐です。グレン・マクガヴァン将軍にお取り次ぎ願えますか?」
「ご苦労様です。マクガヴァン将軍は…」

どうやら室内には先客がいるらしく、大きな言い争いの声がここまで届いている。中に誰がいるのか察したのか、先導者に続いて皆は入室した。

「ですから父上、神託の盾騎士団は建前上、預言士なのです!彼らの行動を制限するには皇帝陛下の勅命が…」
「黙らんか!奴らの介入によってホド戦争がどれほど悲惨な戦争になったか、お前も知っとろうが!」
「お取り込み中、失礼します」

シキたちの前の客とは、グレン・マクガヴァンとやらの父親の老マクガヴァンであった。死霊使いと歌われる大佐殿を『坊や』などとつけて呼ぶのもこの人くらいであろう。

「ジェイドって偉かったのか?」
「そうみたいだな」
「確か昇進蹴ってるのは仕事が増えるからだってピオくんが言ってた」
「ピオくんって誰だよ?」
「ルーク、手紙の半分はあなた宛のようです。どうぞ」

こいつ、ピオくんの話を遮りやがった。うまく遮りやがった!くそ、今回は私の負けだ。
シキが一人敗北をかみしめている間にアニスからの目が滑るお手紙は読み終わり、次の目的地はカイツールだということになった。

「三十七名は結局着いたのか?」
「三十七名?…ああ、第三師団の生き残りたちか。早朝、日も昇る前に三十七名、確かに着いていました。重傷者もいましたから、救護の方に回してありますが…どうなさるんです?」
「…大所帯になると身動きが取りづらいですから、傷が完治したらグランコクマに戻していただけるといいですね」
「伝えておこう」

それを聞いて、シキはほっと胸をなでおろした。一度共に籠城して、後はみんなで生き延びるのだと豪語した仲だ。一人も欠けていないことがわかり、シキは肩の荷が下りる感覚を覚える。

「トニーは無事かあ、よかった」
「シキはなんでそのトニーってやつを気にしてるんだい?」
「あいつ『そろそろ結婚するんです、グランコクマで待っていてくれる女性が…』って言ってたから。早死にしそうだなって」
「…そ、そうか」

次に向かうべき場所もわかって一歩進んだようだが、先程フーブラス川の橋が落ちたと街の人間が話していたとシキがいえば、川を渡ることになるかもしれませんね、とジェイドが言った。

「は?まじかよ、お…」
「隠れて!神託の盾だわ!」

ルークが不満を言おうとしたその時、セントビナー正門に目立つ面々が揃っていることにティアが気づき、咄嗟に付近の物陰に入り込んだ。だが不幸というわけだけでは無いようで、奴らの会話が丸聞こえだった。
どうやらセントビナーにシキたちが侵入していることはバレていないようだった。

「イオン様の周りにいる人、一人、ママを助けてくれた…この仔たちが教えてくれたの…」
「導師守護役がうろついてたってのはどうなったのさ」

アニスがいたことは流石にわかっていたらしいが、詳しい情報は聞き出せていないようだ。大男が惜しそうに死霊使いに負けたことを話しだす。

「ほお、刺し違えたのか?あの大男と?死霊使い」
「ええ、殺りそこねたようです」

目を話した途端、怪しげな男が高笑いをして、倒せるのは私だけでなどと豪語する。小物臭がすると思ってしまったのはシキだけだろうか。

「だってよ性悪ジェイド、倒されてやれば?」
「まっぴらごめんですねえ」
「あんたら少しは静かに聞いたらどうだ?」

ガイがたしなめていると、話は進んで神託の盾兵は撤退させることになったらしい。先ほど大きな口を叩いていた怪しい男はどんどんと話から置いて行かれて、ついには誰も見向きもせずにその場を立ち去ったではないか。神託の盾とはそんなにも中の悪い連中の集まりなのだろうか。
男は癇癪を起こしながら座っていた椅子ごと空高く天に消えていった。

「あれが六神将か…初めて見た」
「六神将ってなんなんだ?」

ルークの疑問にガイが答えてやっていると、ティアが彼らはヴァン謡将の直属の部下であると告げた。そのことから、導師イオンを妨害して戦争を起こそうとしているのはヴァンであるとも推測していた。
二人はそのまま言い争いに発展してしまう。
敬愛する師匠を、なぜか殺そうとしていた女がティアであることを、ルークはしっかりと覚えていたらしい。ティアの冷たい態度にルークが癇癪を起こしかけた時、

「モースもヴァン謡将もどうでもいい、今は六神将の目をかいくぐって戦争を食い止めるのが一番大事なことだろ!」

ガイが二人を諌めた。彼はどうにも損な役回りのようだ。だが彼の役回りのおかげで、脱線していた流れが戻った。

「終わったみたいですから、行きましょうか!」
「あんた、いい性格してるなー…」

この男が回避しまくった流れ弾がガイに飛び火してるのではというのは、…気のせいに違いあるまい。
そして一行が門を出ようかという時。

「…導師イオン、体調がすぐれないんじゃありませんか」

シキは列の一番後ろからついてきていた青白い顔の導師を見て、街を出る皆に待ったをかけた。戻ってきたルークもそのことに気づいたようで、仕方ないことだと宿で一泊することが決まった。
シキは好都合だと、色々と街を走り回った。

「まずガイはシューフィッターを呼んで導師とルークに靴を合わせてやれ。予想外なことにタルタロスは盗られちゃったからな。ティアは食料を買い足しておいてくれ。サンドイッチのレシピあげるから。カーティスは…ティアとついでに武器でも見てろ!私は道具屋に行って薬品類を揃える。導師はもちろんだけどルークも宿で待機!」
「老体にムチをうつとはこのことですねえ」
「は?俺も街を見たいのに!」
「ルーク!これも必要なことよ、すぐに終わるだろうから少しは我慢するといいわ」
「まあまあルーク、すぐに終わるさ!」

各々、一部は文句を言いながらも、行動に移り始めた。
フーブラス川を越えるなら導師とルークの靴は歩くに適したものではない。すぐにマメでも靴ずれでも起こして体力が削られるだろう。それに、ルークの決意におあつらえ向きの靴ではないだろう。彼に必要な靴はもう、お高く止まったつやつやのかっこいい靴ではないということだ。彼はもうその辺りを気にする性分は持っていないと思うが。
案の定、宿に息を切らして戻ってきたシキに、彼は新品の靴を自慢してきた。
疲労の激しい導師の診察に挟んでジェイドは導師に問い詰めた。
タルタロスから連れだされていた時、どこへ向かっていたのかを。

「セフィロトです…」
「セフィロトって…」
「大地のフォンスロットの中で、もっとも強力な十箇所のことよ」
「星のツボだな。記憶粒子っていう…」

セフィロトのことを疑問に思ったルークに説明するため、話が少しそれてしまったが、聞き直すことを忘れないジェイドが話を元に戻した。
だが、導師の向かった先については導師イオンにも教団の機密とやらで答えられず、話は体調関連でジェイドを心配した(彼は照れて訂正しているが)ルークにより、封印術の話となった。百人の失われた命の使いみちは、有耶無耶に消えた。

「いいなあ…カーティス、後生だから解除前にはサンプルとらせてくれ…国家予算級なんてこんな機会がないと無理だ…おねがいだ…」
「…何度言われようと、お断りですね」
「…はあ、全解除は難しいですか?」
「封印術は一定時間で暗号が切り替わる鍵のようなものなんです。少しずつ解除してはいますが、もう少しかかりそうですね。まあ元の能力が違うので多少の低下なら、戦闘力はみなさんと遜色ないかと」
「むかつく…」
「すみません、根が正直なもので」
「嘘こけ…」
「なにか言ってますねえこの頭でしょうか」

ジェイドが変な嫌味を言ったおかげで、部屋には導師とシキ、ジェイドを残して他は退散していった。シキはアイアンクローを喰らった。
そのジェイドも、何かを思案するように導師に背を向けて、しばらくした後に用事があると残して部屋を出て行った。
何かに気づいたことに、シキはわかった。
導師には早めにお休みするように行って、シキも部屋を…出る前に。

「…導師イオン、御髪が…」
「え?ああ、ありがとうございます、シキ。…あなたはいつもよく見ているんですね。ここ最近はお世話になっているのに、お礼もままならず…すみません」
「いえ、お気になさらずとも!戦争が始まれば私の趣味もままならなくなりますからね、導師イオンはそのご使命に重きをおいていただければ」
「ありがとうございます、シキ」

申し訳ないのはシキの方だった。
乱れてもいない髪に触れて、まさか少し切られているなんて彼は気づきもしないだろう。
そして本人は気づいているのだろうか。自分がどのような身体なのかを。



←prev / next→

[ ←back ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -