仕事中毒症候群 | ナノ


▼ 仕事中毒者の邂逅 Act.4


シキの眠りはとても浅い。
少しの物音で目が覚める。いつもならばもう一度眠りにつけばいい話だが、今の状況を忘れたわけではない。

「んあ」
「…お、おい、そんなことしたらまた戦いになるぞ!」
「それがどうかしたの?」

シキは眠りが浅いことも相まって寝起きがいい。職業病(?)のようなものだろうか。
ルークが何かを…戦いを恐れている。戦いに結びついたところで、、彼が一般人であることを思い出す。話を聞く限りでは屋敷の中しか知らない箱入りだ。(それにしたっても箱入りすぎる気もするが…。)

「また人を殺しちまうかもしれねえって言ってんだよ!」
「…それも仕方ないわ。殺らなければ、殺られるもの」

冷たく突き放すティアに、ルークはありえない、とでも言うように眉をひそめる。
軍人としてはそうだろう。だが彼にとってはどうだろうか、箱入りのお坊ちゃんが。
魔物と人間はちがう。魔物は音素が不揃いだから死んだらすぐに音素帯へと還るが、人間はしばしの間残ってしまう。彼はそれを見たのだろう。青い制服のもの、甲冑を着たもの。

「人の命をなんだと思って…!」
「そうですね、人の命は大切なものです。でもこのまま大人しくしていれば戦争が始まって多くの人々が…。」
「ジェイド」

シキが、ジェイドの言葉を遮った。ティアも、いつの間に起きたのかと驚いた顔をした。
シキはゆっくりと立ち上がって、ルークに歩み寄り、その肩を掴んだ。

「ルーク。酷なことを言うようだが、私達はこれから人と敵対したとき、躊躇なく殺す道を進むだろう。それは軍人としてであり、それがやらねばいけないことであるからだ。」
「あ、ああ…」

怯えながらも、ルークはシキの言葉に耳を傾けてくれている。逃げるような素振りは見せない。

「ルーク、お前は違う。人を殺すなんてこと、しなくてもいい立場だ。軍人じゃない。傭兵でもない。むしろ守られる立場にあるんだ。立ち向かわなくてもいい。私達に任せて逃げてもいい。相手は待てと言っても待つ相手ではない。だからこそ、今ここで覚悟を決めてほしい。倒すために剣を振るうか、凌ぐために剣を構えるか、逃げるために走り抜けるかを。」

ルークは迷いながらも、自分なりの答えを、この冷たい大人に出した。揺らぎはあるものの、強く、未来ある瞳で。

「…わかった。…でも、逃げるなんて、ダセーことしたくねえし…それくらい、俺にもできるからな!」
「よく言った!漢だルーク」

戦うと決めた頭をくしゃくしゃとなでてやると、流石にそれはこっ恥ずかしかったのか、子供扱いすんじゃねー!と払いのけられた。

「戦力に数えていい、ということですね」
「ああ、ルークなら大丈夫だろう。とどめは私らがやればいい」
「結構」

面倒そうな顔は隠さず、だが少し見直したとでも言いたげな顔はシキにしか見えなかった。
カーティスが行動を起こした。予想通り、策はあったらしい。
後ろから、ティアがシキにポツリとつぶやいた。

「…甘いのね」
「…違うよ、ティア。私達が割り切っている世界が冷たすぎるんだ。…君も、もっと素直になるといい。君はまだ普通の人間なんだから」
「…そう、かしら」

『骸狩り』が始まった。



「よかった〜この長銃カスタム済みだったから壊されたらどうしようかと思ってたんだ」
「アンタも戦えんのかよ?ひょろっちいし、ライガにふっとばされてたじゃねーか!」
「あれはクイーンの毛が抜けたら痛いかと思って…アッでもサンプルに欲しかったなあ毛!切り取らせてもらえばよかったなあ保温にも通風にも長けてたなあまた会えるかなあ」
「…ガイとおんなじタイプの人間かよ…」
「シキにそういった話をふるのはおすすめしませんよ。暇だというなら止めはしませんが」
「興味ねぇーっつうの!」

武器を取り戻したあと、シキたちが向かったのは昇降機…は使えなくなっていたので近くの船室へ。最終的には左舷昇降口につかなければならない。
通路は正直いって狭い。四人+三十七人+一匹だ。なかなかの大所帯で動きづらい事この上ない。だが三十七人はジェイドがいるので統率が取れているから邪魔にはならない。あるのは圧迫感だけか?
ルークが張り切って荷物をどかして、奥にあったのは爆薬。物資の横流しで積まれていたものがなかなか役に立った。
ミュウの第五音素によりそれを爆発させて、壁に穴を開けて一行は足を進めた。
道中は軍人が三十人以上居たためスムーズにことは進んだ。邪魔なことに変わりはないが。

「どうやら間に合いましたね、現れたようです」

昇降口の外に、導師イオン、そして…

「あのときの女だ…」
「おや、シキのお知り合いですか?」
「私はあいつに捕縛されたんだ。こいつらと一緒に」

後ろの三十七人を顎で示すとジェイドはなるほどそうでしたかと何かを納得して話を切り上げた。今は目の前の作戦を成功させることが先決だ。

「おらあっ火出せぇ!」

扉を開けた兵士の顔面に直撃するミュウファイア、そのことに驚いき足を交代させたことで、その兵士は階段から足を踏み外して頭を打ちながら落ちていった。
その間に隙を縫って飛び出したジェイドは、導師イオンを連れていた女の首筋にやりを突きつけた。

「さすがジェイド・カーティス。譜術を封じても侮れないな」
「お褒めいただいて光栄ですね、さあ!武器を捨てなさい。ティア!譜歌を!」

シキもルークのそばにいた兵士の牽制に加わり脱出の機会を伺う。ティアの譜歌が成功すればあとは大きな問題もないのだが、ティアは女の存在に驚き、行動が遅れてしまった。
そこに、突然魔物が襲いかかった。
めぐるましく戦況は変わり、女がその手に持っていた双銃で今度はティアとジェイドが牽制される側になってしまった。

「あちゃー…これは不利かな」
「ご主人様、囲まれたですの…」
「アリエッタ!タルタロスはどうなった!?」

見れば昇降口にはヌイグルミを抱えた少女が立っていた。彼女が女…リグレットの言うアリエッタか。

「制御不能のまま…このこが隔壁、引き裂いてくれてここまでこれた…」
「よくやったわ、彼らを拘束して…」

その時、一人の男がタルタロスの上から太陽を背に飛び降りてきて、剣の鞘でリグレットを地面に叩き伏せた。

「ガイ様、華麗に参上!」

恥ずかしい台詞とともに。
その男は瞬時に導師イオンを救出し、ジェイドもそれに乗じてアリエッタを拘束した。
作戦は、

「さあ、もう一度武器を棄ててタルタロスの中へ戻ってもらいましょうか」

成功だった。
こうなっては彼女たちも従う他に無く、タルタロスの中へと戻っていった。
去り際のリグレットに、シキは声をかけた。

「悪いね、恩を仇で返しちゃって…」
「フン…」

鼻であしらわれたものの、シキは生き延びるためにあしからずと切り替えた。
魔物もアリエッタもタルタロスに戻ったところで、一行は一息ついた。

「ガイ!よく来てくれたな!」
「やー、探したぜ!こんなところにいやがるとはなー」

ルークがその男に駆け寄ったところから、彼がルークの知り合いだということが見て取れる。彼のことはルークにまかせ、シキはジェイドのもとへ向かった。
アニスはおそらく無事、ならば次の目的地はセントビナーだということになった。

「そちらさんの部下は?…これだけではないだろう?」
「これ以上生き残りがいるとは思えません。そうでしょう、シキ?」
「そうだな、連行されたときに見たよ…ここにいない奴らをね」

ここにいる三十七人をちらりと見ながら自嘲気味に笑って肩をすくめるも、その場の空気が良くなることはない。ルークが遠慮がちに、ジェイドに聞いた。

「…何人、艦に乗ってたんだ?」
「今回の任務は極秘でしたから、常時の半数。…百四十名程ですね」
「百人近くが、殺されたってことか…」
「…行きましょう。私達が捕まったら、もっとたくさんの人が戦争で亡くなるんだから…」

シキはその場を立ち去る前に、静かにその艦に向けて頭を下げ、黙祷した。




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