仕事中毒症候群 | ナノ


▼ 仕事中毒者の邂逅 Act.3



「なん…だあれ」

遠くに見えるのは蜂の群れみたいな黒いぽつぽつした影。遠巻きにでもこちらへ向かっていることがわかり、とっさに近くの警報作動機のスイッチを叩き入れる。懐から小型の望遠鏡を出し、その影へ向ける。

「ブリッヂ!前方…約20キロ!…魔物だ!グリフィンの大群、こちらへ向かっている!…背に、何か乗っているぞ!」
「な、なにごとですか?」

突然後ろから声が聞こえて、振り向けばそこにいたのは導師イオン。タイミングが悪すぎるぞ導師!

「導師イオン!敵影がみえました、甲板は危険です、中へお入り下さい!」
「は、はい!」

導師が艦内へと避難したことを確認して、シキもこれからどうしようかと悩む。自室に戻ってあの汚部屋から必要な物を取ってくる?カーティスと合流する?
シキの行き着いた答えはこうだ。

「バードストライクは事前の処理が大事だよね」

自慢の長銃を、取り出した。



撃っても撃ってもきりがない。
グリフィンの群れが背負ってきたのは神託の盾とライガだった。シキはそれらが乗船する前に撃ち落としていくが、全てをカバーしきれるほどではなく、段々と艦内に神託の盾の兵が増えていった。
だがシキの時間稼ぎは無駄ではなく、カーティスの部下である第三師団の面々が到着し、機関部に入り込もうとする者たちを退けられたおかげで主砲からの援護も得られていた。
しかし…

「ハイランダーさん、もうお下がりください。これ以上は…!」
「くっ…仕方あるまい、みな機関室に入るんだ、籠城戦だ!」

皆それがいいと考えシキに従って機関室へと避難していく。機関室への撤退中も、ライガやグリフィン、神託の盾兵の猛攻は続く。
機関室には鉄錆の匂いがたちこめていた。

「負傷者を集めて!重傷者が先だぞ!」
「ハイランダーさん、こいつからお願いします!」

なかなかにひどい成果だ。こんなことではカーティスに笑われる。
機関室の中の人数は、ざっと数えただけでも四十人にも満たなかった。おそらく、ここに逃げ込めなかった奴らはきっと…。…いけない、目の前の負傷者の手当に専念しなければ。
動けるものには動いてもらおう、まず、バリケードの作成。もう外に逃げる道なんて通気ダクトくらいしか無い。あそこから毒ガスを入れ込むほど相手が非情でないことを祈ろう。

「ハイランダーさん、こいつらくらいですね、お願いします」
「わかった、…マルコ、一つ、頼まれてくれるか?」
「…?」

コレは賭けにすぎないが、今は幸運の女神様ユリア様でもなんでもいいからすがるものだ。本当に、自爆覚悟の賭けだ。

「ここを開けろ!開けんか!」
「ふん!それ以上のことをしてみろ、エンジンが吹っ飛ぶぞ!」
「な、なんだと!?」

作戦名、「脅し籠城」。
神託の盾兵が我々に近づくたび彼らごと吹き飛ぶ可能性が上がるのだ。幸いタルタロスのエンジンはご立派なもので、シキが一発撃ち込みさえすればこの辺りは大爆発だ。本当に自爆作戦ですまない。
マルコに頼んだことは、そのエンジンの機関部をむき出しにすること。いつもは衝撃が加わったりしないように厳重に囲われているその部分の外壁を剣で抉って取り出したのだ。

「こっちは身の安全さえ確保されればすぐにこの部屋を明け渡すことを約束しよう!だがそのことが確認されないならば、すぐにでもこのタルタロスを貴様らもろともくず鉄にしてやるからな!」

正直、もう負け戦であることはこの部屋にいる誰の目にも明確なことだった。四十人もいなくて、その四分の一は重傷者だ。ならばやることは生き延びることだ。特に重傷なトニーなんかはもっといいところで診なければそのうち死ぬ。
早く相手の答えがほしい!

「貴様らっ…」
「待て、私が話をしよう」
「は、はっ!」

どうやら喚くだけじゃない話のできる奴がきたらしい。
シキはバリケードの前に立った。

「こちらの要求を受ける気になったか?」
「ほう、女だったか。いや、これは私にも言えることだな。お前たちの無事を確保できればいいのだな?」
「言葉ばかりを受け取る馬鹿ではないことを祈ろう。…どうせ負け戦だ、あとは生き延びてみせるしかやることはない。」
「潔いのだな…何人いる?」
「…三十七人だ。内二人はほっておけば死ぬ」
「…偉大な指揮官に免じ、その要求を通そう」
「…は、感謝する!マルコ、トニーを背負え。ケラス、お前はそっちだ、残り!バリケードを!」

ざわりと不信の声が上がる。皆を代表して、マルコが発言した。

「ハイランダーさん、そんな簡単に信じてよろしいのですか!?」
「放っておけば死人は増えるし、不衛生になる。それにここは食料もないだろう、これしか道はない。それに、相手も猿ではないらしいからな!」
「くっ…」

ゆっくりと、行動が始まった。バリケードをどかし、その後扉の影に待機する。開いた瞬間一斉射撃もなくはないからだ。
だがその心配は必要なかったらしく、扉が開いた瞬間、轟音!…ということもなく、静かに外の光が入ってきた。その光を背後に入ってきたのは、さっき会話したであろう、女。

「先程の者は誰だ?」
「…私だ!」
「何だ、軍人ではないではないか!」
「あいにくだけど、ただの研究員さ」

神託の盾兵に連行され、青い制服の軍人たちが出て行く。私は一番最後だ。
全員出て行って、ついに私の番になって、女が顎で出ろといった。一番最後まで残ってた理由が、要求を飲まなかった場合にシキがエンジンを吹っ飛ばす役目をするからだとは、この女は知らなくていい。

「…要求を飲んでくれたこと、感謝しよう」
「敵に礼を言うのか、変なやつめ」
「よくいわれるよ…ああ、疲れた」
「最後に一つ、聞きたい」
「…なに?」

振り向いてやれば、先程よりもとても真剣な表情をして女は立っていた。

「ライガが、お前らを攻撃するのをためらっていた。一体何をした?」

銃を突き付けてまで聞くことだろうかと、シキは焦った顔もせずに考えていたが、そういえば今日私はあることをしたなと思いだす。もう既に今日の出来事が強烈で忘れかけさえしていたことだ。

「ライガの恩返しだよ。あんたもいつかやってもらえるさ」

女がはぁ?と素っ頓狂な声を上げた。シキはそそくさとその場を離れた。



「待て、お前はこっちとの指示だ。部下となにか企てられては困るからな」
「へーへー」

案内されたのは捕虜を入れておく部屋…簡単にいえば牢屋だ。私の部屋よりかは衛生的だが。
その部屋には先客がいた。
ルークにティア、そして、

「カーティス!生きていたか、やはりお前を殺せる奴は世界に存在しないのかもな」
「あなたもご無事なようで」
「…二人は?」
「譜術が直撃したようです。命に別状はないです。」
「アンタがそう言うならそうなんだろうな」

導師イオンはおらず、流石に逃げきれなかったかと悟る。
近くの戸棚からシーツを取り出してそれを座布団にして座り込む。流石に疲れたため、一旦休憩だ。

「行動するときに起こしてくれ」
「さあ、そんなものありますかね」
「あるさ、天下の死霊使いにはね」

のんきだと思われようが、流石に休眠しなくてはやっていけない。幸い仮眠法には自信があるし、相手方も起こし方は心得ているだろう。私はあぐらをかいて、しばしの仮眠タイムだ。





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