仕事中毒症候群 | ナノ


▼ 仕事中毒者の邂逅 Act.2



正直に言おう。
意識あります、主張する体力ありません!
やっぱり死霊使いの譜術はすごかったとだけ言っておこう。

切り裂かれても割と大丈夫なもので、シキは血まみれの身体でずるずると突き飛ばせたライガクイーンに近寄った。

「ら…くい、ん。わか…ろう。こ、危険、だ。北に、にげろ。エサが…おおく、て。いいば、しょ、だ…」

少し唸ったライガクイーンは、見える限りでは足早に去っていった。
これでいいのだろう、少なくとも、また卵は産まれる。置き去られた卵は冷えて、駄目になってしまうだろうが…。生きているだけで儲けものだ。
安心したらなんだか、文句を垂れる余裕が出てきた。

「いてえ…このくそ、めかね…」
「何を、」
「ライフ、トルくれ…いてえ…」
「…わかり、ました」

ライフボトルの中身が、シキの身体に振りかけられる。少しは動けるようになったシキは、身体を起こした。自慢の白衣は血だらけだ。後で落とさなければならない。
横を見れば、近くに眼鏡、遠巻きに赤毛と女と導師がいる。その眼鏡は少しだけ情けない顔をしていた。マジにすこーしだけ。

「いまさらなんだけどさ」
「はい」
「私達共闘したことなかったんだな…」
「ええ…そうなりますね」
「今度からはマーキングしといてくれ…」
「もちろんですよ…今回のようなことはもうゴメンです。…さて、」

まだ立つなと目で言われて(にっこり)、シキ自身も疲れが溜まっていたので立つのを諦めた。ここまでで総合評価はBだろうかなんて自分の採点をしていたら、減点の原因は帰ってきた。話は済んだようだ。奥で赤毛が急かしている。

「もう立てるでしょう、行きますよ」
「いてて…荷物持ってきててよかったぁ…」
「艦に戻ったら勝手な野宿の件と先ほど飛び出した件でお話がありますからね」
「アッハイ」
「逃げないように」
「ウィッス」
「逃げないよう縛り上げてもいいのですが…」
「わーい大佐のお話楽しみだなー早く戻らなきゃー」

急いで前方を進むパーティに合流すると、導師一行が振り向いてシキを見る。赤毛に神託の盾に導師様。そういえば、導師以外名前を知らなかった。
赤毛が口を開く。

「あ、アンタ!大丈夫なのかよ!」
「ん?ああ、見苦しい物を見せたね。このとおり生きてるよ」
「…治療を、受けたほうがいいわ」
「もちろんさ、私だってこんなナリした奴いたらほっとかないしね」

ついでに挨拶もしたかったが、そんな空気でもなく私の中で彼らは赤毛と神託の盾のままだった。



「本当に…言葉を…そうか、ソーサラーリング…」
「こうして魔物たちの会話を聞いているのも面白い絵面ですね」
「…かわいい!」
「は?今なんつった?」

チーグルの長の話曰くこうだ。
助力に感謝はするけどやっぱりミュウ(青チーグルの名前らしい。安直)に罪があることには違いがないから一族から追放して一年経ったら帰ってこい。その間はルーク(思わぬところで名前を知ってしまった。赤毛の名前はルークらしい)に仕えその処遇もルークに一任する…らしい。

「お役に立てるように頑張るですの。よろしくですの、ご主人様。」

ルーク青年はその態度が気に入らないようだが…正直いらないのなら欲しい!…というのがシキの本音だった。にしても一年間ルークに連れ従うのはいいが帰るときはどうするのだろうか。ルーク青年ならば一年経ったからでていけー!とか、やってしまいそうだ。いや流石にないか。

「さあ、報告も済んだようですし、森を出ましょう。」

シキたちはジェイドのその言葉で森の出口へと足を運ばせた。
入り口に差し掛かったとき、ツインテールの可愛らしい女の子がこちらへと走ってきた。導師の守護役のアニスというらしい。しまった、部屋にこもり過ぎて挨拶すらしていないじゃないか。顔も今初めて見たことになる。

「お帰りなさ〜い」
「ご苦労でした、アニス。タルタロスは?」
「ちゃんと森の前に来てますよぅ、大佐が大急ぎでって言うから特急で頑張っちゃいました!」

そこからの展開はトントン拍子だった。
兵士がルークたちを取り囲んで連行していく。先日の正体不明の第七音素の発生はこの二人のせいだったとかなんとか。
それならばしかたのないことだ。私は取り立ててすることもないので静かにその後についていった。
兵士たちが私の血まみれの白衣を見て何を思ったかなんて、それはどうでもいいことだ!



タルタロス。
マルクトの最新鋭の技術が詰め込まれた戦艦。…本当は格好良く全長うんぬんその砲撃はなんちゃらとか言いたいところだが機密に足してシキ自身が機械工学は専攻しなかったこともあり『とにかくすごいもの』というわけだ。
閑話休題。

シキたちは今連行されたルーク青年たちの部屋へと来ていた。シキも一応チーグルの森での目撃者ということでジェイドに連れられ彼らの元へと赴いていた。
治療はまだだ!まあ、流石にあの白衣は脱いだ。

「カーティス…座ってていい?」
「そういえばいましたね重傷者が」

シキはそろそろとルーク青年の向かいの席に座る。導師も座ればいいのに。
そこからはさくさくと話が進んだ。(別に私が関係してないからとかそういうのじゃないと思う)だが話は一時保留らしく、十五分程度で話は切り上げられた。信頼を勝ち取るための解放だ。
制約付きの自由を手に入れたルーク青年は、目の前にそれはそれは辛そうな顔をして座っている女…シキに声をかけた。

「アンタ、まだ何もしていないのかよ?」
「んあ、いやもう歩く気力もないというか…ねむい」
「…私で良ければ。えっと…」
「シキだ、頼めるかな、いつもはそれくらい自分でするんだけど。お嬢さんは…ティアだったね。そっちの彼はルーク」
「おう」
「いやすまない。先程は本当に迷惑をかけたな…」

ティアはシキの座る席の横に座り、治療を始めた。
ルーク青年は言いにくそうな顔をしてシキの横でそわそわしていた。そういうお年ごろだろうか。

「…魔物をかばったことが、気になるかい」
「…おう。人間には害のある奴らだろ?そんなに必死になるなんて…」
「馬鹿みたいだろう。でもあれはやり過ぎなんだ、ライガクイーンは必要なものなんだよ、それさえ解ってくれれば今はいいさ。魔物をかばうやつがこの世に希少なことはわかってるからね。まあ…いいことしたんだ、いつかお釣りが来るよ」
「…終わったわ。外傷しかないから、激しい運動をしなければ傷が開くこともないと思うわ」
「おお、ありがとう!」

肩を回してみたり、足首をひねってみたりして、痛むところがないことを確認する。よし、大丈夫だ。
ティアがルークに艦内を散策してみないかと声をかけている。そういえばあの大佐殿はどこだろう。嫌がらせに治った傷を見せに行ってやろう。

「私も同行しよう、この艦について説明なんてできないが…」
「アンタ、なんでここにいるんだ?」

呆れたように言うルーク。そういえば、今のままでは誰から見てもただの変な人にしか見えない。シキは自身を持って身分を告げた。

「研究員だからだよ」



「やあ、両手に花ですね。いえ、両手じゃ足りないんじゃないですか、ルーク」

ルークにティア、それに導師守護役のアニスも加えてパーティは大所帯になった。
甲板にかの大佐殿はいた。なるほど、さっき導師が話していたとおり、少し緊張気味なんじゃないか?って慣れてる人なら疑問に思うくらいには少しだけ硬い顔をしている。

「花いち抜けた。散歩楽しんでくれ」

ルークたちとはそこで離れることにした。もう既に見知っている艦内を歩きまわるのは今の私には少々だるい。先ほどの予定どおり、完治したのを報告することにした。

「ほら、綺麗になったシキさんだぞ。拝め」
「頭の鳥の巣も直してから言っていただきたいものですねぇ、まったく」
「ああ、まったくだ。悪かったな、緊急用の医者がこんなナリになって」
「ああ、マーキングはもう済みましたから、歩きまわってもいいですよ。…ですが、これからは支障をきたすことがないように、魔物の味方をする等常軌を逸した行動は控えてくださいね」
「善処しよう」

話すこともなくなった頃、カーティスの部下が部屋に集まって欲しいとルークが言っていることを報告に来た。彼は返事をすることにしたらしい。おそらく悪いことは言われないだろう、あの青年は態度は悪いが、争いを好む性分じゃないことはもうわかっていた。

態度は悪いが、ねぇ…。



「どうか、お力をお貸し下さい。ルーク様」

悪いどころでもないなこりゃあ、態度は悪いし我儘だし無知だしの三重苦。ああ、彼は今自分が死ぬかもということがわからないんだな。ここは敵地のど真ん中で、目の前の頭を垂れているのがどんな恐ろしいやつかも知らないんだ。
流石に今のジェイドを指差して笑える程シキの性格は歪んだりしていなかった。むしろ、面倒なガキンチョを捕まえたなあ。と憐れむ瞳をするくらいだ。(この顔をしているのが見つかると後でとても面倒なことになるので、一瞬だけにしておいたほうがいい。)
ジェイドが部屋を去ったあと、シキはルークのことも哀れんで、忠告をした。

「君はもっと自分の頭で考え、その目で見て、世界をより知るべきだろうな。今君の起こした行動がどんなものか、後々になって解ってももう遅いからね。アレがなぜ君に頭を下げたのか、一度よく考えるといい」

ルークはわけのわからねえ事言うんじゃねえ!と癇癪を起こしたので、シキは早々に退散した。
部屋を出たところで、ジェイドが未だいるとは知らず。

「うっわ」
「…心外ですねえ」

顎で指示されてシキはジェイドの後に続く。操舵室でジェイドはシキに椅子を勧めて、シキはもしかしなくても今から『お話』かと思いつき、背筋を凍らせた。
だがそんなことはなく、ジェイドのシキに対する態度はとても穏やかなものだった。

「さきほどの、あれは?」
「…ルーク君に言ったやつか?」
「ええ」

そこでシキは、考えこんだ。
とっさに出てきた言葉だ。何を考えていたかなんてわからない。しいて言うならば…

「かわいそう…だったから、かなあ」
「かわいそう?」
「うん、なんとなくだけどさあ」

彼、ルークはどこか『焦っている。』何かは分からないが、焦らされた何かがある。
彼は何回か自分の記憶喪失のことを話していた。あの年で、あの体たらく。
これは推測でしか無いけれど。

「あれは多分、記憶がある自分と比較されたんだろうな。かわいそうに、自分を見てもらえず、記憶も戻らずじまいなんだろう。だから焦って、そして癇癪を起こしてる」

皆前の自分ばかりを見て、前の自分に戻るよう言う。前の自分って誰だ、わけのわからないことを言う。みんなおれをみないんだ!

「…ああいうのには、しっかり質問を聞いて、純粋に育ててやるべきだろうに、…王族っていうのは大変だね、しがらみが多くて」

だから、窘めた。おそらくまだ足りないだろうけど、これは根気良く続けるしかあるまい。あのままでは暴君になってしまう。この短い間に世界を知ってもらい、あわよくば未来のキムラスカがいい国になればいいな〜という投資だ。

「…あなたは意外と、教師に向いているのかもしれませんね」
「はは、ありがとう」

そのまま、そこでシキは甲板へと向かった。空気を肺いっぱいにすって、背筋を伸ばす。
一仕事終えたような清々しい気分でふと疑問に思ったことを口にしてしまう。

「にしてもすごいな、記憶喪失。全くなくなってしまう事例もあるなんて。赤ん坊みたいなものだろうか?」

そこではっとした。いやまさか。赤ん坊みたいなんて、まさかな。
悪いことを考えていると悪いものが寄ってくるものなのだろうか、風が、悪いものを乗せてきた。
シキの鷹の目は、遠巻きながらしっかりとそれを捉えたのだ。




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