メーデー、こちらサブサテライト | ナノ

まどろみ運転


「そうなんですね、イザベラも! とても偶然です!」

軽く、話をした。
ありきたりな身の上を話して、ありきたりな旅の行程を話す。
要約すれば、この砦に今いる人の多くが話すであろうこと。
旅の途中であること。この砦で一休みしていたところであること。運悪く魔物の群れに出くわしたこと。足止めされていること。……そして、困っていること。

そこでお姫様の口から出たのは……。

「イザベラ、よければ私達と一緒に来ませんか?」
「……は?」

曰く、抜け道を知っているとかで。
イヤでもターゲットと仲良くするなんてそんなでも監視をするなら側に入れたほうが都合がいいしだけど報告に抜け出すときとか怪しまれたり待てよ同行者は1人しかも男いやいやそんなこと考えるような変態でも犯罪者でもないそんな経歴を持つ男じゃない待て考えろここで抜け道とやらを使われて見失ったら面倒任務に支障が。

この間、約1秒。

「……いいけど、どこ通るの」

そこでほころぶエステリーゼの顔の眩しさに、また盛大な舌打ちを飛ばした。



「イザベラはどこから来たんです?」
「空」
「イザベラは何歳なんです?」
「永遠の15歳」
「イザベラはいつから傭兵のお仕事を?」
「物心ついたときから」

質問の嵐に、魔物をちぎっては投げちぎっては投げしながら答え続ける。
その様子にはユーリもあちゃー、と困り顔で、ただ助けはしなかった。

「もうっ、イザベラ! ちゃんと答えてください!」
「傭兵にそんな詳しいステータス求めないでくれる……」

一行はクオイの森を通り抜ける途中であった。
そしてこの一行という2文字。3人ではなく、3人と1匹が正解であった。

「ワフゥ……」

なぜ犬にまでやれやれ……だとか、哀れ…といったニュアンスの声をかけられねばならないのか。というかこの犬、もとは軍用犬ではないか?
なんで軍用犬まで連れてきているんだこの男。騎士団の管理はどうなっている。

「……あんたも大変ね。こんな世間知らず連れた旅するなんて。無謀も無謀」
「ま、知り合いに関わるし、なにより放っておく方が大変そうだしな。にしても、アンタ強いな。どうだ?後で一回」
「イヤよ。疲れる……」

もともと戦闘は得意ではない。
力だと男には敵わないし、私には余り魔術の素養がない。
それをむざむざ思い知らされるために戦えと?いや、勝てる自信はある。力や魔力を補うための今までの経験や技術、そして場数がある。なんのために、何年勤めているのだ。
高々下町の用心棒をしていたくらいの者に負けるほどではない。はず。

「あたし、ダングレストに用があるの。森を抜けたらお別れね」

フレン・シーフォを追っているのだとしたら、おそらく道中のカプワ・ノールまで来るであろう。この二人の実力も、見る限りここらでは負けるはずはないだろう。
そして、カプワ・ノールから先へと、進めないこともまた、知っている。

「(先に進んで、ラゴウの事を探っておかなければ……)」

質問をのらりくらりと躱しながら、クオイの森は深まっていった。



「これ、魔導器か。なんでこんな場所に……?」
「さあ? 昔はデイドン砦を守っていたけど、壊れちゃったんじゃない。人魔戦争の折とかに」

ちょうどキリもいいからという理由で、小休憩にとユーリが座り込んだ。
エステリーゼは、魔導器が気になったのか、近づいて、手を伸ばしていた。
不用意に触れるものではないと、手を伸ばしたが既に時遅く、

「きゃあっ!」

強く、光が指したと思えば、エステリーゼは気を失っていたのだった。

「ちょっと……もう!」
「おいおい……!」

エステリーゼの枕役にラピードか私かということになり、負けた私は膝を占領されていた。

「なんであたしが……」
「悪いな。ラピードはそう安くないそうだ」
「あたしは安いとでも?」

エステリーゼの話しかけてこない、ユーリと二人だけ(ラピードもいるが、この場合はカウントしないこととする。)の空間は、何処か気まずい雰囲気が流れていた。
あたりまえだ。
騎士団にいたころも、話しかけたことはなかった。

「……あんたは詮索とか、しないのね」

この男、いかにも素性の知れない女だとわかっているだろうに、まだ一度も、イザベラに対する詮索を行ってこなかった。
エステリーゼが箱入りの貴族であるともわかっているはず、ならば危険分子は避けたいとは思わないのだろうか。
じろ、と視線だけで、どうなのか、という旨を伝える。

「まあ、な。聞きたいことは大体エステルが聞くし。それに、そんなに悪いやつじゃあねえだろ、って気はしてる」
「……? どうして」

そこまでの接点を気づいてなどいないはず。
これまでの行動を振り返ってみても、そんなことは。

「なにそんな至極不思議そうな顔してんだ。お前、あんとき言ってただろ」

追いつかれるぞ。って、あれ。

「心配してくれたんだろ?」

そう、言われて。
一瞬、考えを巡らせて。
納得がいく暇もなく、呆れてものも言えなくなる。

「あの程度で?」

もっと何かあるだろう、と不審に思う。
いともかんたんに他人を信じるような男には見えなかったのに、めを合わせればウインクで茶化してくるその男に、カッと頬が熱くなる。
言い訳がましい言葉しか浮かばないのに、つい言い訳したくなり、しどろもどろに口を開く。

「あれは目の前で死なれたら後に引くから……」
「へえ、本気で言ってくれたのか」
「そういうわけじゃっ!」
「ぅ、ぅん……?」

大声のせいだろう。
エステリーゼが目を覚ました。
どうかしたんです?と寝ぼけ眼に聞くエステリーゼに、なんでもない、と凄んでしまった。

「なにがあったんです? イザベラ? 教えてください! ユーリも!」
「いいからさっさと起きなさいってば!」
「俺から教えたら大目玉食らいそうなんでな。ま、本人から聞けよエステル」
「……教えて、くれます?」

ずい、と顔を近づけて、お願いしてくる。
わざとじゃないのかと、何度思わされたことか。

「あげないわよッ!」

耐性のできたわたしには効かないと知れ。








210310 加筆修正

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