メーデー、こちらサブサテライト | ナノ

紛れ込むデブリ


戦争なんて嫌いだ、碌なものじゃない。




帝国とギルド間による全面戦争が宣言されてから、街は慌ただしく動き始めた。
やれ武器の準備、戦えるやつを揃えろ、グミだライフボトルだスペシャルフラッグだ、ってそれは残基増えたりしないんだって。

ドンはイザベラとレイヴンにユーリたち一行についていくよう命じた。ちゃんと見ておけとのお達しだ。
レイヴンは何をやらかしたか知らないが、イザベラはそこそこ歓迎された。
膝を貸してやったことがあるエステルは特に。

「私、嬉しいです! イザベラとまた一緒に戦うことが出来るんですね!」
「そうね、少しは成長したかどうか、確かめてあげましょうか?」
「はい! 見ていてくださいね!」
「僕も嬉しいや! 天を射る矢屈指の双剣使いと一緒に戦えるなんて!」
「へぇ、そんなに有名なの、この女」
「すっごく綺麗に戦うって聞いたんだ! 二対の剣で、魔物もばっさばっさって!」
「なーんでアンタが得意げなのよ」
「前にも少し見たが、中々の腕してるよな」

雑談もそこそこに、レイヴンの紹介もあり、イザベラを含めた彼らは天を射る矢が経営する酒場、「天を射る重星」から隠された地下通路へと進行し、バルボスたち紅の絆傭兵団の本拠地へと侵入する手筈だった。当の本人は逃げる『つもり』だったらしいが。

「見ておけって言われたのに、逃げ出しちゃうのかしら。レイヴン?」
「はーい……行きまーす……」

イザベラの鶴の一声で、レイヴンはトボトボ地下道へと着いてきた。
暗く明かりもない地下道ではあったが、アスピオでも有名なあのリタ・モルディオがいたおかげか、一定の間隔で補填が必要にはなるが明かりも手に入れることができ、住み着いた魔物をサクサクと倒しながら一行は奥へ奥へと進んだ。
急ぎつつも、雑談をしながら。

「いつも1人で戦ってるから、複数人で戦う感覚って慣れないわ。……まあ、そこそこね」
「イザベラって巨大獣倒したって噂もあるけど、まさかそれも?」
「?、ええ、欲しい物があったから。倒したくて」
「ええーっ!? 普通何人も一緒に行くものでしょ?危ないかな、とか思わなかったの!?」
「思ったけど、私知り合いいないし」
「え゛?」
「いつも思うのだけれど、みんなどうやって一緒に行く人を集めてるの? ドンは良くしてくれるけど、流石にギルドのトップをそうホイホイと連れ歩けるものじゃないし。仲の良いグループに無理やり詰めてもらうのもね……」
「天を射る矢、随一の双剣使いの真実みたり、だな……」
「悲しい…真実だったね……」

何故か皆、黙り込んでしまった。地下水道の水の音が虚しく響く。
だが仕方のないことだと思う。まさかその巨大獣を倒したい理由が帝国のためだとか世界を手に入れるためだとか、だから巨大獣から手に入れた素材はあげられませんとか、そんな機密事項を話すわけにもいかないし、そも馬鹿正直に話して快く着いてきてくれる人間は目の前のくたびれたおっさんしかいない。
そのおっさんも二足のわらじで忙しく『同じ場所』で会うのなんて早々にない。
そも1人で倒せるんだったら1人で倒せば良くない?と考えた過去の私、ちょっと軽率だったみたいです。













紅の絆傭兵団の根城にはなぜかラゴウがお茶会をしに来ていて、バルボスと喧嘩をしていた。全くお茶会の作法がなっていないな。セオドラは過去、お茶会で作法に厳しかった友人(?)のアニーを思い出す。彼女はお家元が没落したから遠くへと引っ越したな。それからは会っていない。
その後戦争がフレンの努力で回避されたり、バルボスが部下をけしかけてきたり、竜使いが現れたりユーリが竜使いと一緒にどこかへ飛んでいってしまったりと大忙しだった。
そして置いていかれたカロルたちも大慌てだった。

「どどどどうしよう! ユーリ行っちゃった! 飛んで行っちゃったよ!」
「見ればわかるわよ! あのバカドラ! 捕まえに行くわよ!」
「待ってくださいリタ! ユーリが先です!」
「あいつなら何があっても死なないわよ!」
「やっこさん、中々伝手があるわねえ」
「アナタと違ってね」

とにかくユーリを追いかけよう!でもどこに!?と行ったり来たりしている彼らに、仕方ないと助け舟を出してやる。
バルボスの行く宛なら今は一つくらいしかない。北にあるガスファロストだ。
閣下から目をかけていただいていたのに、最近目に余る行動が多すぎる。『処分』する頃合いだ。またしても逃げるくらいならば、ここで仕留めさせてもらう。

「ガスファロスト……」
「街を出たら解るわ。北に見える大きな塔よ」
「ガスファロスト……、わかった、行ってみよう! エステル!」
「待ってください!」
「はぁ?そんなこと言ってる暇……」
「ラゴウは!」
「心配に及びません」

突然彼らに声をかけたのはフレンだ。
背後には副官が控え、騎士が慌ただしくダングレストの街を行き来していた。

「フレン!」
「ラゴウの目撃情報が騎士に入りました。今、駐在している騎士で目下捜索中です。……エステリーゼ様、ユーリはどうしました?」
「バルボスを追って……」
「先に行ってしまったんですね、あいつの悪い癖だ」
「ボクたちも早く行こう!」

リタもエステルもうなずいて、街の出口へと走り出した。
フレンはフレンでまたやることがあるらしく、エステルを心配そうな目で見つつも、騎士たちの指揮へと戻っていった。
鎧の音を立てて闊歩する騎士の姿に、街の住民の顔色はよろしくない。とても協力的とは言えないだろう。

「騎士さん、あんまり派手に行動しないほうが良いと思うけど?」
「ああ…わかっています。あんな事があった手前ですから」
「レイヴン、私こっちの様子見ていくわ」
「おろ、じゃあ俺様1人で道案内?」
「できないの?」

駄々をこねるレイヴンの背後に影が落ちる。
でもセオドラは気がついておきながら教えてしまうような素振りを一切取らなかったため、レイヴンはいつの間にか宙に浮いていた。

「へ?」
「我儘言ってねえでさっさと行ってこいレイヴン!」
「は?ちょっとじーさん! 持ち上げないでよね!」

カロルあたりはすごっ……と声を出して呆然としている。
唐突に現れた影、ドン・ホワイトホースはレイヴンという成人男性を片手で猫の子のように掴み上げていた。
レイヴンも既に慣れきった様子で、抵抗しようともしないものだから、これがよくあることなのだとわかる。

「ドン、ユーリが先にガスファロストに飛んでいったわ。レイヴンはそっちを見張るから、私はダングレストでこの騎士様とラゴウってのを捕まえる。それでいいでしょ?」
「そうだな。おめえらならあの若いのとも合わせて、バルボスをなんとか出来るだろうよ。目付はレイヴンがいりゃあいい」
「それって俺様の負担が多くなーい? ねえ?」
「とっとと解決してこい!」
「横暴ー! 暴力反対ー!」

ぽいと投げられたものの、レイヴンは身軽に着地してそのまま少年たちの後を追いかけ始めた。

「ご協力いただけるのですか? レディ」
「早めに出てって欲しいからよ。私の顔もそこそこ売れてるし、ドンもすぐ住民に声をかけるわ。落ち着いたら『余所者』はすぐにあぶり出される。それをスムーズにやるために着いていてあげるだけ。おわかり?」
「……そうですか、ご協力、感謝します」
「終わったら、さっさとお姫様追うわよ。ったく、怪我なんてしたらどうすんだか」
「心配していただけるのですね。エステリーゼ様もいいご友人を得たようで、喜ばしいです」
「ハッ!?」
「これはお話を聞くのが楽しみだ」
「ちょっと!? 私はね、事後処理に走らされたくないからそう言っているだけで……。コラ! その笑顔をやめろ! おい!」
「じゃれ合ってねえでとっとと行け!」

ドンに背中を叩かれた。目玉が落ちるとかそんな文句を飛ばして、フレンとイザベラはダングレストの街を封鎖し、ラゴウを追い詰めた。
ラゴウは簡単に捕まった。前回、カプワ・ノールのときとは違い、護衛に雇っているような傭兵がいなかったこともあり、街を出られず右往左往していたラゴウは簡単に捉えることが出来た。
だが『処分』出来るかどうかは別だ。
今は皇帝が不在のため、評議員…貴族を裁くのは同じ貴族になってしまう。おそらく、今回もラゴウは同じ貴族の伝手を使い、減刑を図るだろう。忌々しいことだが、どうしようもないことだ。まあ、『法に則れば』の話でしかないが。

「ありがとうございます。イザベラ……さん。貴方のおかげで街の封鎖が手際よく行えました。」
「ドンの言いつけも会ったから顔を貸してやっただけよ。あと、『さん』なんてつけないでよ、年上でしょアンタ」
「ですが、レディに対して無礼はいけませんから」
「オエー。……ま、好きにしたら。私、先にガスファロスト行くから。処理が終わったらあんたも来るわけ」
「ええ。バルボス……あの男も捕えなければいけません。そして、法に則り罰を受けてもらう」
「お熱いわね、どうでもいいけど。精々遅れないようにね」
「すぐに追います。貴方もお気をつけて!」
「言われるまでもないわ」

フレンと少し、行動を共にしたせいで、目が潰れそうだった。
こんなにも熱量をたたえた眩しさが近くにあると、どうも落ち着かない。その理由が自らにあるからこそ、余計に。
その輝きに目が眩んで、だからこそ魔が差した。
背を向けたのに振り返って、ついぞ問いかけた自分がいた。

「ねえ」
「はい、なんですか?」

純真な瞳に真実は写っているのだろうか。イザベラはその真実とやらが欲しかった。
口先を滑らせているようなものだった。イザベラは心ここにあらずと言った様子で口を開いた。

「世のため人のために、っていう建前で、『悪いこと』ってしていいと思う?」
「それは、難しいですね。……あなたがギルドの人間になったことに関わりがあるんでしょうか」
「教えてもらえるわけ無いでしょ。答えてよ、珍しくまともな騎士さん」
「……たとえ、どんな大義名分があろうと、その行為が法に照らしあわせて罪になるというのであれば、その人物は捕えられ、法による裁きが下されるべきであると考えています」

この輝きを知っている気がした。どこで輝いていたものなのか、わからなくてイラつく。吐き気がする。どうしてこんなに眩しいのか知りたかったのに、わからずじまいの上胸が苦しくなるだけだった。

「どうかしましたか?」
「……ハ、いかにもな答えが出て、頭が痛くなっただけよ!」
「……満足してもらえなかったみたいだね」
「全員がアンタみたいのなら成功する、ただの御伽話じゃない!」

捨て台詞のようになったのには気が付かなかった。そのまま走り出してイザベラは街を飛び出したからだ。邪念を振り払うように走り続ける。夕暮れが過ぎ去って、機械じかけの塔に近づいて。

セオドラの心はあの事件からずっと一つだけだ。
全てを救いたいと願った人のために。自らに足りないものが何であるかをずっと探し求めている。今もずっと、これからもずっと。
他の道に逸れるわけにはいかない。内側から変えるなど下策だ。
だがあの基盤が欲しいのだ。あの土台から築く未来が欲しいと夢物語を語ってくれた、あの過去に戻るために。


「もう壊すしかないのよ、あんな腐りきった大木を残して何になるというの。だからこそ壊す。根底から築き直すために。そのための世界掌握なのだから」

たどり着いた歯車の楼閣、急ごしらえな世界征服の第一歩。
ガスファロストの頂きには目もくれず、地下へ地下へと降りていった。









「あの人」
「よく僕が年上だってわかったな」
「これでも童顔ってまだまだからかわれるんだけど……」
「……気のせいか、な?」


この輝きは、未だ真実を知らないのだから。
得られるものがないなんて、当たり前のことだった。






210310 加筆修正

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