番外編 夢なら夢のままで ※最終章 スターチスの花束にて後 夢主が初めて夢に現れた時の後日談です 「兵長のことが好きなんです」 こうした類のものは何度目になるだろうか。 ナマエがいた頃は付き合い開始と共に徐々に頻度が減っていたし、付き合ってる事実が広まってからは一切なかったはずだ。 もちろん亡くなった後もしばらくはなかったのだが。 時間の経過というものには心底嫌気がさす。 「悪いが俺には一切興味のねぇ話だ」 「……ほんの少しだけでもいいんで考えて」 「しつこいぞ」 少しきつめの口調で返すと、目の前の女はうっすら涙を浮かべた。 ナマエの涙にはあれほど気持ちが揺らいでいたのに、他の女の涙には一切感情が動かない。 それどころか早く部屋から出て行ってほしいとすら思っている。 「……わかりました。それなら」 素直に諦めたと思ったのに、女はこちらへと足を進めた。 「一度だけでいいんです……兵長との思い出を下さい」 「っ……おい」 女が俺に手をかけようとしたその瞬間だった。 ――バアアンッ! 物凄い勢いで部屋の扉が開けられた。 「だ、誰!?」 女が驚いて振り向くも扉の前には誰もいない。 風で開いたなどと言うにはおかしいような、確かに誰かが開けたような感じがした。 「俺には付き合ってる奴がいる。この先もそいつ以外の人間を好きになることはない」 「兵長……っ」 「開いたついでだ。さっさと出て行け」 涙を拭いながら女は去って行った。 ◇ 「昨日ナマエさんが夢に出てきました」 アルフレートがそう言ったのは、俺の夢にナマエが現れた翌々日のことだった。 「あ……?」 「あ、いえ。そんなやましい夢とかじゃ一切ありませんよ!?」 「当たり前だ。そんなことあってたまるか」 俺の機嫌を伺いながら、アルフレートは慌てた様子で夢の出来事を説明した。 「話した内容はほとんど特殊医療班のことで、ナマエさん終始心配していた様子でですね……」 実にあいつらしい話だ。 俺といいこいつといい、夢に出てくる理由は心配でいてもたってもいられないからってことか。 どこまでいっても人のことばかりだな。 そういえばいつも傍にいるんだったか。 ふと、結びつくことがあった。 そしてまた翌日。 夢の中を漂っていると再びナマエが現れた。 ナマエとこうして会うのは二度目のことだった。 『……兵長の様子がどうしても気になってしまって、念のため再確認をしにきました』 「ちょうど俺もお前に会いたいと思っていたところだ」 ナマエがピクリと反応した。 今の反応で確信した。間違いない。 「この前俺の部屋の扉を開けたのはお前だな?」 『な、何のことですか?』 「とぼけてんじゃねぇよ。あの怒ったような開け方、前にそういうことが合った時と勢いもタイミングも同じだったぞ」 『まさかぁ!だって私死んじゃってるんですよ?』 「ほう……俺の勘違いだったと」 『え、ええ』 「なら俺がこの先誰と何しようとお前にはどうすることも出来ないって――」 『そんなのダメです……!絶対ダメ!絶っっっ対阻止!…………って、あ……』 「やっぱりお前の仕業じゃねぇか」 涙ぐむナマエが可愛くて、思わず口角が上がってしまう。 ヤキモチ焼きは相変わらずなようだ。 「それからお前、アルフレートの夢に簡単に出てんじゃねぇよ」 『そ、それはですね……彼も彼なりにずっと悩んでて、どうしても力になりたくて……でもこうして初めて夢で会ったのはもちろん兵長ですからね?』 「それにしては随分焦らされた気もするが」 『……兵長のヤキモチ焼きも相変わらずです』 「お前が悪い」 『ええ!どうしてですか?』 俺をここまで夢中にさせたからだ。 もっとこの夢に溺れていたい。 夢なら夢のままで構わない。 俺の気持ちを読み取ってナマエが顔を真っ赤にさせる。 落とせないキスの代わりに、俺はいつも以上に甘い言葉をナマエに囁くのであった。 俺の目が覚めるその瞬間まで。 ←back next→ |