番外編 1mmずれたら世界も変わる


※第20章 冬の星、春の華◆ の後日談
初夜後の二人です


兵長との初めての情事が終わった。
それは私が想像していたよりも遥かに凄く。
そしてより深く愛を確かめ合えた……気がする。
とにかく思い出しただけで顔から火が出そう。
これから兵長の部屋に向かうっていうのにだ。
落ち着け落ち着け。
……なんてそれくらいで落ち着ける訳がない。
一体どんな顔して会ったらいいのだろう。
だって一夜を共にしてから顔を合わせるのは、これが初めてな訳だし……。

“こんにちは、兵長”

普通すぎるのが逆に不自然かも。

“この前はお疲れ様でした”

って、仕事じゃないんだから……。

“また……したいです”

私のバカ!願望漏れすぎ!

“紅茶をお淹れしましょうか?”

うん、これが一番自然だ。
ふう。深呼吸をもう一回して――。

「何をブツブツ言ってやがる」
「それは予行練習してからの方が……って、えええええ!ええ!?」
「おい……何て声出してんだ」

耳を抑えながらしかめっ面をした兵長が、私の背後に立っていた。
あまりの驚きに飛び退いてしまった程だ。

「何か用か? 」
「しょ、書類を届けに来ました」
「ああ。ご苦労だったな」

兵長はそれだけ言うと、私から書類を受け取って部屋へと入って行ってしまった。
いつもならここでボサッと立ってんじゃねぇとか、さっさと入れとか言われるはすなのに……。

「まだ何か用があるのか?」
「あ、いえ……」

練習した通り言わなくちゃ。
紅茶をお淹れしましょうか?って。
それなのにあまりに低く冷たい兵長の声に、その言葉は沈んだまま出てこなかった。

「私……次の仕事があるので失礼しますね」

逃げるように兵長の前から立ち去った私を、兵長はどう思ったのかは分からなかった。

仕事があるなんて嘘だ。
あの書類を届けたら今日は終わりの予定だった。
自室へ戻り兵服のままベッドに身を投げる。

「兵長……何だかいつもと違ったなぁ」

気づかないところで私は何かしてしまったのだろうか。
私達の間で最近変わったことと言えば、一番に思い付くのは兵長と結ばれたことしかない。

「私、何かまずかったのかな……?」

あまりにもひどかったとか?
痛がりすぎたとか?
それともやっぱり私なんかじゃ全然満足出来なかったのとか、処女なんて面倒くさかったとか……。
いやいや、兵長を信じないでどうする。
たまたま疲れてて態度がキツくなっただけかもしれない。
うん、きっとそうだ。

――――あ。

もしかして飽きた、とか……?

手に入れたら満足して終わりとか。
釣った魚に餌やらないとか。
そういえば前に同期と恋愛話をした時に、そんな話を聞いたことがある。
まさか兵長もそのタイプだったとか……!?

「ど、どうしよう……いや、待てよ。そもそも兵長が私と付き合ってること自体奇跡なんだから、この先私が振られる可能性なんていくらでもある訳で……でも一度付き合えたっていうことが逆に辛いというか、まさしく天国から地獄すぎる……!」

甘い兵長を知ってしまったら取り返しなんかつかない。
もちろん恋愛すれば傷つくことだってあるのは百も承知だ。
だからこれは自己責任でしかない。

「何か飽きられないための対策を練らなきゃ……!」

この日夜な夜な考え出した案は更に事態を悪化させた。





飽きられないように、とにかく全身全霊をかけて良い彼女であるように努めないと!
訓練はきびきびと出来る女上官風に。

「では訓練も終わりましたので、私は医務室へ向かわせて頂きますね」

医療班の仕事とだって完璧にこなしてみせた。
兵長の部屋にだって不必要には居座らない。

「紅茶をお淹れしました。それからこの書類は団長にですね。私も提出物があるのでご一緒にお持ちします」

紅茶は兵長の分だけ。
兵長の補助に関しては全力を尽くすことに専念した。

「おい、ナマエ。今夜」

なんて少しでも夜の話題になりそうになったら

「すみません。急ぎの書類処理があるので失礼します」

危ない危ない。
夜兵長といるのは最も危険だ。
それこそ飽きられるまでの最短ルートに違いない。
二回目があるのかどうかは分からないけど、何せ不快な思いをさせたのだろうから避けないと。
その前に……私達に二回目ってあるのかな?
あの日抱かれたのが最初で最後、なんて可能性もあるのかもしれない。

数日こんなとこを繰り返して思ったことは

「これは付き合ってると言えるの……?」

これに尽きた。
そして何より私らしくない行動をひたすら取り続けるのだから、疲れた以外の言葉は日々出てこなくなるほどだった。
良い女になるにはとにかく疲れる。
でもそうしないと兵長に飽きられてしまう、兵長にはつり合わない。

「最近のナマエはらしくないね」
「そうですか?」
「元気もないし溜め息ばかりついているよ。何か落ち込むようなことがあったのかい?」

モブリットさんにそう指摘された。
そういえばどうしてこんならしくないことをしているんだろう。
ああ、そうか何かならあった。
あの夜から兵長が冷たいから――。

「良い女になるために、思いつくことは毎日努力をしているんですけど……」
「それは兵長のため?」
「……あのモブリットさん。聞いても良いですか?」
「何でもどうぞ」

モブリットさんとこんな風に恋愛の話をするのは初めてだった。
私の兵長に対する話は、今までハンジさんと共に数え切れないほど聞いてもらったと思う。
でもお互いの核心に触れる話はしたことがない。
この日私はモブリットさんの想いを初めて知ることになった。


+


ナマエに対して普通に出来ねぇ。
いい年こいて俺はガキか。
自分自身に呆れて溜め息が零れた。
初夜を過ごしてからと言うもの、俺は連日ナマエにそっけない態度をとってしまっていた。
もちろんそんな俺に傷ついているナマエにも気がついていた。
そのうえで俺はナマエに優しく出来ないでいる。

理由は一つ。
たった一度でも甘い蜜を知ってしまったからだ。
もう一度触れてしまえばたかが外れたかのように、ナマエを欲望のまま喰らい尽くしてしまうだろう。
俺はあいつの何もかもが欲しい。
今以上にもっとだ。
全てを捧げてくれたはずなのに、際限なく求め続けている。
そんな欲深い自分に嫌気がさす。

だから俺はナマエを無意識の内に遠ざけるようになっていた。
と、御託を並べたところで幼稚な理由には変わりない。
当のナマエはここ数日明らかに様子がおかしいし、確実に俺を避けている。
だがそれこそまさしく自業自得なのだから、ナマエに強く問い詰めることも出来なかった。

また一つ溜め息をつきながら、ハンジの部屋の前につく。
ほんの少しだけ開いた扉に、あいつは相変わらずだらしがねぇななんて思っていた。

「………ですね」

ドアノブにかけた手が止まる。
ナマエの声だ。
ハンジと話しているのか?
いや違う。

「無理する必要なんてないんじゃないかな。自然体でいるのが一番だよ」

モブリットの声だ。

「モブリットさんはその方がお好きなんですか?」
「うん。好きだよ」
「……何だか照れちゃいました」
「言ってる俺はもっと照れくさいよ」
「ふふ。でも凄く嬉しいです」

…………は?

あいつらは一体何の会話をしてやがる。
よく見りゃ手まで握っている。
これは一体どういうことだ。
正直何が起こっているのか整理がつかなかった。
自分がこんなに動揺することなんて初めてだ。
襲ってくるのは怒りと焦り。
気づけば俺は静かにその場から立ち去っていた。

自室に戻りひたすら書類をこなす。
今は考える暇すら与えたくない。
少しでも余裕が出来ると、すぐにナマエとモブリットの姿を思い出すからだ。
考えたくなどないのに、すぐにその願いは打ち砕かれる。

「兵長、失礼します」

ノック音と共に愛する者の声が聞こえる。
いつもなら胸が高鳴るはずなのに、今はひどくザワついていた。

「書類をお持ちしました」
「……ああ」

今までで一番素っ気ない態度をとったと思う。
まともにナマエの顔すら見れやしない。

「あっ……そうだ。紅茶でもお淹れ……」
「いらねぇ」
「そう、ですか……」

ひどく落ち込んだ声を出すナマエに今度は胸が苦しくなった。
一体俺は何がしたいんだ。
ナマエを守ると言いながら、散々傷つけている。

「あの……もしかして具合が悪かったりしますか?少し顔色が優れないようですけど……」
「いや」
「お熱はありませんか?」

ナマエの手がすっと伸びてきた。
途端に記憶が蘇る。
この手がモブリットの手を握って――。

――パシンッ!

気がつくと俺はナマエの手を強く払ってしまっていた。
ナマエの顔が一気に悲しみに染まる。
お前の笑った顔が一番好きなのはずなのに。
俺はどうしようねぇガキだ。
いい年こいてナマエに対してだけは、こんなにも感情のコントロールが出来なくなる。
ナマエは作り笑いを浮かべ、部屋から逃げるように去って行った。


+


終わった。
何もかも終わった。
この世の終わりと言っても過言じゃないくらい終わった。
ただでさえ冷たかった兵長が、私の手を払いのけたあの表情が忘れられない。
いつだって兵長は私がどんなことをしても、どんなバカを言っても、結局最後には優しい兵長でいてくれた。
それなのに。

「……私、何かしたのかな?…………もう兵長に嫌われたのかな?わかんないよ……」

頭の中もグチャグチャだし、顔は涙でグチャグチャだ。
泣いても泣いても涙は止まらない。

「兵長のバカっ……、飽き性め……うっ……っ、でもやっぱり大好きだし……っ、兵長しか好きになれないよ……」

泣いても泣いても好きな気持ちは止まらない。
こんなに苦しいのに、どうしたって兵長への気持ちが消えることなんてないんだ。
どんな目にあっても未来永劫好きなんだ。
自分でもよく分かってる。
私が兵長と付き合えたこと自体、夢のような出来事だったんだ。
だからこれはただ夢から覚めただけ。
十分幸せな思いをした。
ほんの少しでも誰よりも大切にしてもらえた。

「ううう……でもやっぱりづらいいいい」

その日私は泣くだけ泣いて泣き疲れた頃、いつの間にか眠りについていた。





訓練に行きたくない。
兵長にも誰にも会いたくない。
こんなひどい顔見せたくない。
でもズル休みだけは絶対にしたくない。
鉛のように重い体で訓練所に向かう。
残されていた根性だけが私を支えていた。

「……ナマエ、さん?」
「おはよー。さあきょうもいちにちがんばろうかー」
「え……と。な、何かあったんすか……?」
「なにもないよ」
「いやいや、この世の終わりみたいな顔してるじゃないっすか……!」

おお。オルオにしては珍しく鋭いな。
そうそう終わりなの。
私の世界は昨日終わりましたよー……。

「あ、兵長!おはようございます!」

頭のてっぺんから足の先まで電流が走った。
どうしよう、絶対に振り向けない。
今振り向いたら涙が出る。

「わ、私……先に訓練を開始します!」

走り出した私に微かに兵長の声が聞こえた気がする。
けれどこの日私は兵長と会話をすることも、一度も目を合わすこともなかった。
もうこれ以上嫌われたくないから。
せめて一方的に兵長を好きだった頃に戻りたい。
ただただ兵長を見ているだけで良かった、こんな欲深い自分なんていない頃に。


+


その日、俺はことごとく誰が見てもあからさまにナマエに避けられていた。
会話もしなければ目すら合わせない。
究極なまでに避けられている。
俺が悪いことは分かっている。
だが素直に謝ることも出来ない。
もちろんナマエが浮気をするような器用な奴ではないことは分かっている。
邪な気持ちを上手く隠せる気も全くしない。
ならあれは何だというんだ。
考えて思いつくことは一つだ。

ナマエが俺以外を好きになった、だ。

ああ、くそ。
考えたくもねぇ。
元はと言えば原因は俺だからこそイラつきが収まらない。
気づけば訓練終わりにナマエの腕を掴んでいた。

「な、何ですか……?」
「お前こそその態度はどういうつもりだ?」
「普通……ですよ」
「どう見ても普通じゃねぇだろ」
「……じゃあ今日からこれが私の普通なんです」
「何だその言い草は」
「私が普通って言ったら普通なんです」
「そうか、じゃあ普通だとしたら今すぐ改めろ。そんな態度を続けられたら訓練にもならねぇ」
「…………誰のせいで」
「何だ?」
「ならもうほっといて下さい……」
「あ?」
「これ以上兵長とはお話したくないです!ほっといて!」

こんな風にナマエと言い合いするのは初めてだった。
目に涙をいっぱい溜めて必死に俺を拒絶している。
そして止めはほっといての一言だ。
俺の中で何かが弾けた。
もうどうなっても構わねぇ。

「痛いっ!兵長……痛いです!」

そう訴えるナマエを無理やり自室に連れ込み、すぐさまベッドの上に放り投げた。

「きゃ……っ、兵長、一体どういう……!」
「黙れ」

怒りのせいか、いつもより格段と低い声が出た。
ナマエの顔が一瞬で強張る。
その顔見下ろし、そのまま乱暴に唇を塞いだ。
逃げ惑う小さな舌を絡め取り、息もさせないくらい深く口内を犯し続ける。
胸板を強く押し返すナマエの腕をベッドに縫い付けるように抑え込むと、ナマエが初めての抵抗を示した。

「……痛ぇな」

噛まれた唇から血の味がする。
だが抵抗されればされるほど、俺の欲望は強くなっていく一方だった。
今度はナマエのシャツに手をかけ、一気にボタンを引き千切った。

「や、やぁ……!」
「やだじゃねぇよ」
「待っ……へいちょ……っ」
「お前は俺のものなんだよ」

露わになる胸の頂きに舌を這わす。
こうするといつも耳に響くのはナマエの甘い声。
それが今は聞こえない。

「……ナマエ?」
「っ……うっ……」

聞こえたのはただ静かに俺の下で涙を流すナマエの泣き声だった。
そんなに泣くほど俺のことが嫌なのか。
もう俺のことなんて好きじゃねぇとでも言うのか。
そんなに――。

「モブリットが良いのか?」
「っ……え…………?」
「あいつのところへは行かせねぇ。それでもどうしても俺よりあいつを選ぶなら、今ここでお前を犯す」

数秒流れる沈黙。
ナマエが目をパチクリさせている。
そのせいで大きな涙がポタポタと零れ落ちた。

「何がどうなってるんですか……っ?どうしてここでモブリットさんが出てくるんですか……?私はもうこの世の終わりだと思って……っ」

世界は終わってなどいない。
世界はただずれていただけだと、この五分後に俺達は理解するのであった。


+


「私が兵長のこと以外好きになるはずないじゃないですか!死んでもありえません!手を握っていたのは怪我の治療経過を診ていたんです!」
「……お前も紛らわしいことしてんじゃねぇよ」

どうやら兵長は私とモブリットさんが好き合っていると勘違いしていたようだ。
あの時モブリットさんが好きだと言っていた相手は私じゃない。

「あれはハンジさんのことなんです……!絶対内緒にしなきゃいけなかったのに……」

モブリットさん、兵長にバラしちゃいました……ごめんなさい。
――会話の詳細はこうだ。

『モブリットさんは、例えばハンジさんが私みたいに自分自身を変えようとしていたらどう思いますか?』
『逆に嫌かもしれないな』
『ええ!どうしてですか?何だかさらに男心がわからなくなってしまいました……』
『努力してくれるのはもちろん有り難いけど、好きな人にはやっぱり自然体でいてほしいと思うよ。特に自分の前ではね』
『モブリットさんはその方(そのままのハンジさん)がお好きなんですか?」
『うん。(ハンジ分隊長が)好きだよ』
『……何だか照れちゃいました(あまりにもはっきりおっしゃるので)』
『言ってる俺はもっと照れくさいよ』
『ふふ。でも凄く嬉しいです(二人には結ばれてほしいから)』

と、補足をしながら兵長に話すと納得はしてくれたようだった。

「あいつらは付き合ってたのか」
「いえ、まだモブリットさんの片思いなんですよ。だから私も凄く応援していて、いつか二人が結ばれればいいなぁなんて」

思っていたのだけど、その前に自分の恋愛が終わるところだった。
そういえばどうしてここまでこんがらがったんだっけ。
始まりは確か。

「元はと言えば、兵長がいきなり私に冷たくしたからじゃないですか……」

私の何がいけなかったのか。
必死に考えて、でも分からなくて。
いつもみたく笑ってほしいだけなのに。
触れることすら許されなくて。
駄目だ。思い出したら涙が出そう。
でもここで逃げたら理由は分からずじまいだ。

「……私を抱いて下さった日から兵長は冷たくなりました。何かいけないことをしましたか?私が子どもだからですか?それとも……気持ち良くも何ともなかったですか……?」

羞恥心にまみれた顔を見せたくなくて、必死に顔を俯かせる。
すると兵長の手が私の顔へとすっと伸びてきた。
その指はいつの間にか流れていた涙を掬ってくれて。
いつものような優しさで溢れていた。

「そうだ。お前のせいだ」
「や、やっぱり……!では――」
「そうじゃねぇよ」

え、一体どっちなんですか。
私のせいなの……?そうじゃないの……?
黙り込んでしまう兵長を私も黙って待つことにした。
しばらくして開かれた口から出た言葉は、私を再度泣かせることとなる。

「……一度抱いたらもっとお前が欲しくなった」

えと………………それはつまり。

「ダメじゃなくて……逆に良かった……ということですか?」
「多分このままじゃお前を抱き潰すのは目に見えている――って、くそ……ガキみてぇなこと言ってるな俺は」

良かったからこそ逆に私を遠ざけてた。
まさかそんな理由だったなんて。
絶対自分では導けない答えだ。

「抱き潰して下さって構わなかったのに……」
「バカなこと言ってんじゃねぇよ」
「兵長に冷たくされるくらいなら全然構いませんよ!もう本当にこの世の終わりレベルで落ち込んだんですから……!」
「……それについては俺が悪かった」

また歯車が回って私達の世界は動き出す。
再び兵長が私の上に覆い被さった。

「いいんだな。抱き潰しても」
「も、もちろん……!どこからでもどうぞ!」

そう言うと兵長が笑った。
ずっとその笑顔が見たかった。

「冗談だ。まだ二回目だしな。優しく抱いてやる」
「……そうして頂けると有り難いです」

兵長の甘く優しいキスが降り注ぐ。

「兵長、好きです。大好き。絶対に他の人なんて好きになりません。生涯兵長だけです」
「……この場面でさらに煽るバカがどこにいる」
「だって、また勘違いされたら嫌ですから……」

この気持ちを毎日でも伝えよう。
怒られても呆れられても。

「ナマエ、この前以上にもっとお前が欲しい」
「……はい」
「だから今日は俺の気が済むまで抱かれてくれ」

兵長はその言葉の通り夜明けまで私を抱いた。
いつの間にか気絶した私は、無事に兵長と二度目の情事を終えたのだった。





「貴方達、仲直りしたの?」

明くる日、ハンジからそう問われた。

「話を聞かなくてもナマエを見てればすぐに分かるよ。あの子があれだけ一喜一憂するのってリヴァイのこと以外ないからね」
「なるほどな」
「まるでこの世の終わりってくらい落ち込んでたから心配したけど、そうならなくて良かったよ」

ふとモブリットとナマエの話を思い出した。

「お前はナマエが俺以外を好きになることがあると思うか?」
「リヴァイ以外を?絶対ないね。そんな質問をすること自体、ナマエを見くびり過ぎだよ」

ハンジは笑い飛ばしながら言った。

「あの子はいつだってリヴァイと特殊医療班に命を懸けてるんだから」
「……お前はどうなんだ?」
「は?私?」
「好きな奴はいねぇのか」
「私は恋愛とかはさっぱりだからなぁ。恋をする感情が何かと問われれば、巨人に対するそれと似ているのかもしれないね。全てを知りたい暴きたい手に入れたいってね」

モブリットには苦難な道だな。
それどころかこいつと一緒にいたら、そのうち解体でもされるかもな。

「もちろん大切な人はいるにはいるけど」
「まぁ……せいぜい大事にしろよ」
「リヴァイに言われたくないよ」

運命の歯車は1mmもずれることなく今日も廻る。
俺達はその中でもがきながら今日も生きている。


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