第29話 例えば願いが叶うなら ※ 迎えた壁外調査の日。 兵舎の前でこれから出陣する皆を見送った。 「ちゃんと大人しくしてろよ」 「分かってます。兵長こそ絶対に帰ってきて下さいね」 こんな風に見送る側になるのは初めてだ。不甲斐ない自分に対する悔しさと、待っていることへの不安も初めて知る感情だった。 「アルフレート、特殊医療班のことお願いね。ミケさんの班には新兵の班員を配置してるからフォローと、用具なんだけど」 「昨日あれだけ話し合ったんだから大丈夫ですよ」 「そうなんだけど……」 「僕もナマエさんのように死ぬ気で頑張りますから、心配しないで下さい」 そこまで言ってくれた彼にもう何も言えなかった。 私は皆を信じて帰りを待つだけだ。 「皆、待ってるからね。絶対に帰って来てね」 それだけを伝えて、門へと向かう兵士達の背中を見つめ続けた。 全員の姿が見えなくなったのを確認して自分も用意にさしかかる。 大人しくしてろよ、と言った兵長との約束を決して破りたい訳ではない。でも私にも行かなくちゃいけない所がある。 「あれ、ナマエさん?どこへ行かれるんですか?」 一緒に見送っていた通常の医療班の兵士に聞かれる。 「うん、ちょっとね」 「でも……体調は?」 「元々体調はもう大丈夫なの。今回は大事をとって参加しなかっただけだから」 「そうなんですか。ではナマエさんもお気をつけて」 そうして私も兵舎を離れて別の方向へと向かった。 辿り着いた先は一つの民家だ。 昔何度か訪ねただけだったから迷わず行けるか不安だったけど、思ったより道のりはスムーズだった。 コンコンとノックすると、一人の男性が扉を開けてくれた。 「こんにちは、ドミニク先生」 「もしかして……ナマエちゃん、か?」 「はい。ご無沙汰してます」 「いやぁこりゃ驚いた!まさかナマエちゃんが訪ねてくれるなんて!」 久しぶりの再会にドミニク先生が私を抱き締めてくれた。まだちゃんと私のことを覚えててくれたんだ。すぐさまドミニク先生は私を中へと案内してくれた。 「お元気そうで安心しました」 「ナマエちゃんの方こそ本当に綺麗なお嬢さんになって。あぁ、でも綺麗で強いの間違いか。何たって調査兵団の兵士だもんなぁ」 「ご存知だったんですか……!?」 「あの事件の後、君を含めた子ども達がどう生活しているか私なりに見守っていたつもりだよ」 ドミニク先生は他の孤児達も今どこで何をしているか、ちゃんと把握していた。私のことはその子達から聞いて、一度壁外調査に出発する私の姿を見に来たこともあるらしい。 「それで今日はどうしたんだい?」 「ちょっとお聞きしたいことがありまして……それとイェーガー先生が今どうなさってるかご存知ですか?」 「いや……彼はシガンシナ区に巨人が現れたあの日から消息不明のままなんだ……」 「そうですか……」 出された紅茶を一口含み流し込む。そして私は核心へと触れたのだった。 ◇ 今日は左翼索敵が思いの外被害を受けた。 俺の班も珍しくグンタが負傷をしてしまった。途中ハンジの班と合流し、被害が拡大するのを防ぎながらそのまま拠点へと辿り着いた。 「さっきの奇行種はヤバかったな。兵長が仕留めてくれたから助かったが」 「グンタさん、すぐに治療をします」 「ああ。悪いな、アルフレート」 アルフレートがナマエの分もよく動いてくれている。戦闘能力といい本当に申し分ない実力だ。ナマエが一番信頼しているのもよく分かる。 「お疲れお疲れ」 ハンジの手が俺の肩に乗る。 「今日のリヴァイの勢いは凄いね。まるでナマエの分まで削いでるみたいだ」 「別にいつも通り変わりはねぇが」 「そう?なら私の勘違いかな」 ハンジの言う通り誰が見てもいつもと違うと分かるだろう。いつになく俺の気持ちは昂っていた。 ナマエがいない壁外調査で大きな被害は出したくないし、出来るなら早く任務を終えてあいつの所に帰りたい。 出発してからずっとナマエのことばかり考えている。正直今までこんなことは一度もなかった。 それに朝のあいつが頭から離れない。不安そうな顔をしたナマエが。 ……やはり離れたら駄目になるのは俺の方かもしれない。 「でももう大丈夫なんでしょ?ねぇ、アルフレート。ナマエはいつから復帰するの?」 「タイミングはナマエさん本人にお任せしてますけど、きっとすぐに戻りますよ。本人は今日の壁外調査も参加するつもりでしたし」 確かにそこは俺とアルフレートで何度も留守番してろと言い聞かせた部分だった。壁外ではいつ何が起こるかわからないからだ。 「ナマエ、今頃大人しく留守番してるかな」 「そうじゃなきゃ困るんですけどね」 「確かに。アルフレートの言う通りだ」 そんな会話をしながら俺は、大人しくなんてせず兵舎をうろつくナマエの姿を思い浮かべていた。 ◇ 「色々お世話になりました。本当にありがとうございます」 「いやお礼を言われるようなことは何一つ出来なかった……申し訳ないね。それでも何かあればまたいつでもここに来てくれ」 「はい、それではまた。ドミニク先生もお元気で」 ドミニク先生の家を後にし数歩歩いたところで、もう一度名前を呼ばれ振り返る。 「ナマエちゃん……これを、これを持っていってくれ!」 「これってもしかして……」 駆け寄ってきたドミニク先生が渡してくれたものは、幼少期に一度だけ見たあの海について書かれた本だった。 「幼い頃君が読んでしまった本だ。あれ以来クルトから隠しておいてほしいって頼まれたんだ」 「……これを私が持っていてもいいんですか?」 「ああ。これはクルトの形見でもあるし、それに君は立派な調査兵団の兵士だ。壁の外に何があるのか君達が見つけてくれるんだろう?なら尚更だ」 「……ありがとうございます」 思い出の本をぎゅっと胸に抱き寄せる。 そうだ。今この瞬間も調査兵団は壁の向こうにいる。知らないことを知るために。 皆を迎えなきゃ。負傷している人がいたら助けなきゃ。兵舎でも出来ることはある。 「さようなら、先生」 足早に兵舎へと向かった。 外出していたことが兵長にバレたらこっぴどく怒られるのは目に見えてる。皆が帰還する前に医務室の準備も手伝わなきゃ。 その道のりでふと花屋が目に入った。 店先に揺れる花達。その中にあの花を見つけて思わず足を止めてしまう。 「スターチスだ」 それは誕生日に兵長がプレゼントしてくれた思い出の花だった。 お店にはピンクの他に紫や黄色など様々な色のスターチスが売られていた。 「可愛いでしょう」 「あ、すみません!勝手に眺めてしまって……」 「好きなだけ見ていって構わないよ。スターチスが好きなのかい?」 「はい。ちょっと縁がありまして」 すると店員さんがスターチスについて色々と説明してくれた。 「花言葉は変わらぬ心。ピンクのスターチスなら永久不変だね」 「へぇ……!素敵ですね」 「そういえばこの前ピンクのスターチスの花束を、誕生日プレゼントにって買っていった男の人がいたね」 え……それってもしかして。 「花言葉を教えたらこれにするって言ってくれたんだ。貴方への想いは永遠に変わらないってところだろうね。なかなか素敵な男性だったよ」 それが兵長がどうかはわからない。 けれどそうだったら……。 今すぐ兵長に会いたい。 やっぱり待ってるのは性に合わない。私はどんな形でも誰かの役に立ちたい。そして出来るなら兵長の役に立ちたい。 役に立って死にたいのではなく、傍で生きたい。 何度も思ってきたこの気持ちを噛み締める。 「花言葉、教えて下さってありがとうございました」 兵舎を目指して走った。 息が切れても止まることなく走り続けた。 春の風はとても暖かくて、零れ落ちそうな涙を包んでくれているようだった。 兵舎に向かってくる皆の姿が見える。 先頭を行く団長の次に兵長、ハンジさんの姿が見えた。 まずはほっと胸を撫で下ろす。 リヴァイ班の皆も医療班の皆も無事なようだ。 「負傷者はすぐに私と医務室へ向かって下さい!準備は全て出来ています」 「ナマエさん!大丈夫なんですか……!?」 「今日は本当にありがとうアルフレート。もう大丈夫だから、後は全部私に任せて」 「……明日まではゆっくり休ませてあげたかったんですけど、正直助かります」 いつも以上に疲労した様子のアルフレートに感謝をしながら、負傷者した兵士に再び声をかけた。 「手術が必要な方から医務室へ移動します!こっちに担架をお願い!」 「ナマエさん……っ、俺、血が止まらなくて……っ」 「大丈夫。私が絶対治してあげるから安心して。彼を急いで手術室へ!」 負傷者が思ったより多い。緊急手術が必要な人達もいる。私に出来ることは全力でやらなきゃ。 瞬間、医務室へ向かおうとする私の体が引っ張られる。 力強い腕の先にいたのは兵長だった。 「……兵長っ!」 言いたいことは表情を見ればすぐにわかる。だから何かを言われる前に言わなきゃ。 「私、これ以上大人しくはしていられません。言いたいことがあれば夜に兵長の部屋で伺います」 流れるしばしの沈黙。 兵長が何を言うのか待っていると。 「……その目はずっと変わらねぇな」 「え……目、ですか?」 「いや何でもねぇ。今はナマエの力を必要としている奴はたくさんいる。そいつらを助けてやってくれ」 「……はい!」 反対されるかと思っていたのに、背中を押してくれたことがこんなにも心強いなんて。 兵長の腕の中には全ての責務を果たしてからに向かおう。 続々と運ばれてくる兵士達で医務室はすぐにいっぱいになってしまった。 「ナマエさん、こっちの準備も出来ました!」 「了解。じゃあ縫合は任せるね。それとこっちに助手一人お願い」 指示を出しながら次の手術に向かう。患者の前に立つと目の前にはアルフレートがいた。 「僕が助手に付きます」 「休んでてって言ったのに……!私には散々無茶するなって言うくせに、自分はいいの?」 「ナマエさんがいないことで痛いほど身に沁みたことがありました。貴方が普段どれだけ凄いかということです。一日でも早く貴方に追い付くためには休んでなんかいられないんですよ。それにナマエさんから技術を学ぶチャンスをみすみす逃す訳にはいきませんから」 こんな風に褒めてもらったのは初めてだ。その真剣な眼差しに胸がいっぱいになる。私が引き継いだこの知識や技術が誰かの役に立って、またこうして誰かへと引き継がれていくんだ。 私の今まで頑張ってきたことは間違いじゃなかった、と言われてるような気がした。 「……私だけが凄いんじゃないよ。今日までこんな私に付いてきてくれて本当にありがとう。アルフレートがいなかったら特殊医療班は絶対結成出来なかった」 これまで彼が誰よりも特殊医療班の結成当初から協力してくれて、そして今もなお支えてくれている。 ――彼になら心置きなく任せられる。 「それだけの覚悟があるなら、特殊医療班としての私の全てはアルフレートに伝えていくことにするよ」 「はい、よろしくお願いします」 その日私は休むことなく手術、処置、診療と様々な面で全ての負傷者に向き合った。 今まで描いていたことはもう夢物語なんかじゃない。特殊医療班はこうして成長し続けて、今やこんなに立派なチームになった。 私と共に全力を尽くしてくれている班員達を見ながら、この空間全てが私の誇りだと確信した。 そうして全ての責務を果たした私は、約束通り最後に兵長の部屋を訪れた。兵長はいつものようにご苦労だった、と私を迎えてくれる。 本来ならば私が迎えるはずだったのに。 「兵長もおかえりなさい」 兵長が傷一つなく無事に帰還してくれて良かった。 「ナマエ、こっちへ来い」 兵長が手招きしながら唐突に私を呼んだ。 何をするのかはさっぱりわからないけど、とりあえず言われるがまま兵長の隣にちょこんと腰を下ろす。 「あれだけ働いた割には顔色がいいな」 「十分なくらい休ませてもらったので、すっかり元気になりましたよ。それに目まぐるしく動いてる方が逆にいいのかもしれませんね」 兵長の手が私の頬を包む。長い指が耳に触れ少しだけくすぐったい。 「大人しく留守番してたんだろうな?」 「もちろんです。でも待ってるだけっていうのは嫌ですね。無事を祈ることしか出来なくて……。やっぱり私は兵長と一緒に戦って今日みたく皆を治療している方が性に合っています」 未だ頬を撫でるその手が、何故だか今度はむにっと軽く頬をつねった。 もしかして外出してたのがバレた……? 「へいひょー?」 上手く発声出来ない私を見て兵長が指を離した。 「ここにいる方が安全なのに、壁の外の方が良いって言うのか?」 「壁の外と言うよりはどんな場所でも兵長の傍にいたいんですよ」 再び兵長の手が頬を撫でる。ただただ真っ直ぐ見つめられて。照れくさいのと同時に少し困惑をしてしまった。 「どうかしましたか?」 「先に言っておくぞ。加減が出来るかわからねぇが、今すぐお前を抱きたい」 「だ、抱き……っ」 以前は毎日のように抱かれていたせいか。こういった言葉に慣れたと言ったらおかしいかもしれないけれど、狼狽えることは減っていたように思う。 では今はどうかと言うと、私の体調を考慮してその回数は減っていたし、ここのところはそういったことは一切していなかった。 まるで免疫がない頃に戻ったみたいに、言葉を失って全身が熱くなってしまった。 「お前のその感じ、久々に見る反応だな。耳まで真っ赤にしてどうした」 「あ、いえ、その……」 そう、今更だ。 だけど急に驚くほど恥ずかしくなってしまったのだからどうしようもない。 「で、いいのか駄目なのか。どっちなんだ?」 ジリジリとにじり寄る兵長と一定の距離を保ちながら下がっていくと、いつの間にやらソファでいつもの体勢に持ち込まれる。 逃げ場なんてありはしない。 もちろん逃げる気はないけれど。 「ここで、じゃないですよね……? あと、その、灯りを消して頂きたいのですが……」 「消したら見えねぇだろうが」 「っ……見えなくていいんですよ!」 「よくねぇな。今日はじっくり見ながらしてぇからな」 「な、何てことを……っ」 必死に訴えても全く動く気配のない兵長。 きっと拒否をしても丸め込まれるのが目に見えている。選択肢があるようでない私にしてみれば、これはいいかどうかの質問ではなく。兵長の今すぐこの明るいソファの上で抱くから覚悟しろ、という宣言でしかないのだ。 「うう……明るいです……恥ずかしすぎます」 「何度も見てきたから今更だろ」 なら今更見なくても。 言いかけた言葉は兵長によって塞がれる。軽いキスが観念しろと言っているようだった。 覚悟を決めるしかない。 「では……はい。どうぞ……」 観念した証として両手を広げ身を捧げた。 「……お前のそういうところは未だにタチが悪い」 「え、え?そういう?」 「そういう可愛いことをするなって意味だ。手加減出来なくなるだろうが」 兵長の顔が首筋に沈みそのまま耳を甘噛みされる。 そして耳元でポツリと一言。 「今日は一回じゃ終わらねぇぞ」 そう囁かれて一気に体に力が入った。 何度もキスを重ね胸を弄ったかと思えば、すぐに下着を剥ぎ取られ秘部が露になる。 いつになく性急な愛撫だった。 「兵長……っ、やです、見ないで……っ」 「まだ見ているだけなのに興奮しているのか?ここはヒクついてどんどん溢れてくるぞ」 「違……っ、あ」 「足を閉じるんじゃねぇよ」 これほどまでに恥ずかしい思いをしたことはあっただろうか。 見ないでと懇願しても全く聞いてはもらえない。 そのうえあまりの羞恥に足を閉じようとするも、兵長の両の腕がそれを許してはくれなかった。 「も、やだぁ……っ、お願い、です」 思わず泣きそうになってしまった。 そんな私を見かねて兵長がさらに顔を沈めた。 「悪かったな。そんなに弄ってほしかったのか」 くちゅりと音を立てて蕾を吸われる。 私は見ないでとお願いしたのであって、早くとお願いした訳じゃない。けれど裏腹に体はビクビクと悦び始めてしまっていた。 「ああっ、そんな……っ強く、ダメ」 「っ……そうか?でもここは」 舌の愛撫はそのままに、兵長の長い指が私のナカに侵入し探っていく。 「ほらな。俺の指をぎゅうぎゅうに締め付けて悦んでるじゃねぇか」 「待って……っ、同時になんて、ああ!」 「……っ」 「あっ!んっ、は」 剥き出しになった陰核と膣の両方から大きく水音が響く。やがて増やされた指がどんどん加速し、膣内を荒々しく掻き回していった。 「ああっ!やぁ……っそれ」 「もうすっかりぐしょぐしょだな」 「んっ、あ、あっ、へいちょっ」 「ああ悪い。やっぱりこっちもちゃんと弄ってやらねぇとな」 一度唇が離れたことにより指だけの愛撫だったのが、親指で陰核を強く擦られ再び同時に刺激が与えられた。 あまりの快感に瞬く間に全身が震え出す。 「待って……っ、あ、ああ!」 「遠慮せずにイっていいぞ」 「あっ、あ、もうっ、ダメ!」 一番敏感な部分を執拗に責められ呆気なく達してしまった。それもソファを汚してしまうほどの量を吹いてしまい、咄嗟に顔を覆ってしまった。 「は……っ、あ」 「顔を隠すな。全部見せろ」 「や、です……っ」 これ以上ないくらい見せているはずなのに、羞恥にまみれたこの顔さえも見せろと。 頑なに拒み続けていると、分かったと一言だけ漏らし今度は両脚をぐっと持ち上げられた。 「待っ……っ!」 「素直にならねぇなら、素直にさせるまでだ」 「まだ……っ、あああ!」 達したばかりでまだ少し痙攣を繰り返す膣内に、兵長の昂ったそれが一気に奥底へと沈んだ。 その圧迫感と衝動に下腹部が一気に熱くなる。 いつもの兵長とは違う。 その様はまるで荒々しい獣のようで、私はその身全てを喰い尽くされようとしている。 一体兵長は今どんな顔をしているのか。指の隙間を開けてちらりと覗いてしまったのは私の本能のせいなのか。 「はっ、いい眺めだな……っ。堪らねぇって顔しやがって」 「兵長……っ、あ、あ!」 こんな場所で服すらまともに脱がしてもらえていない。名前を呼んで喘ぐので精一杯だ。 「どこを突いてほしい?さっきと同じお前の大好きな場所か?今ならお前の言うことを聞いてやってもいい」 「やっ、ああ、何で……いつもよりっ……」 「さぁな。壁の外に行ってきたからじゃねぇか?」 確かに壁外調査の前後はいつもより濃厚で激しくなる傾向はあった。命の局面ではそういった欲が強くなるとも聞いたことがある。 でも多分それとは違う。 ぱんっと打ちつける音がするたび矯声が上がる。 絶え間なく与えられる快楽が甘く苦しい。 「また……っ、あ、あ!」 「すげぇぞ。さっきからずっとビクビクしてる」 「すぐ、イっちゃ、あ!」 「っ……く、そんなにきつく締めたら俺が動けねぇだろ」 先ほどよりも強い絶頂の波に襲われて、無意識にきゅうきゅうと兵長を締め付けてしまう。けれど自分ではどうしようもない。兵長もそれを分かってか、一度動きを止め今度は私の口を割って舌を捩じ込んだ。 「ふぁ……っ、ん」 とろけるようなキスが私の力を奪っていく。 気が緩んだその瞬間、もう一度下腹部を激しく突き上げられた。 「悪いが俺はまだイってねぇぞ」 「あっ、あ、まだ……!」 「っ、何度だってイって構わねぇからまだまだ俺に付き合え」 「兵長っ、……へいちょ」 すぐに三度目の絶頂がやってきそうで、あまりの波の早さに今度は恐怖すら覚える。 「兵長、じゃねぇ。名前だ」 「んっ、な、まえ……っ?」 「そうだ……名前を呼べ」 初めて求められたことだった。私が兵長を強く求めた時と同じくらい、兵長も深い何かを求めている。 もしかしたら……兵長は――。 「リヴァイ、さん……っ」 声が震えた。 好きな人の名前を呼ぶだけなのに。 こんなにも嬉しくて、切ない。 「ナマエ」 「あっ、ん、ああ……っ!一緒にっ」 「ああ、一緒にイってやる」 より一層激しくなる律動の果て、兵長の顔が歪む。どくどくと脈を打ちながら注がれる白濁液の熱すら伝わってきそうなほど、私達は本能のまま交わりあった。 もちろんこれで終わりじゃない。 最初に兵長から今日は一回じゃないと宣言されていたことを忘れてはいない。 「……やっぱり似合ってるな」 胸元で光るネックレスをぴんと弾かれる。 兵長がプレゼントしてくれたあの日から一度も外したことはない、私の大切な宝物。 兵長に反応をしたいけれど、すでにソファで三度も達してしまった私の体に力など入るはずもない。 見かねた兵長がそのまま私を抱き上げベッドへと移動した。 「少し休ませてやりてぇが、すぐにでもまたお前の中に入りてぇ」 「リヴァイ……兵長」 もう一度名前で呼ぶのがどこか恥ずかしくて誤魔化してしまった。 「大丈夫、です……来て下さい」 兵長の全てを受け入れる覚悟は出来ている。 「リヴァイ兵長……貴方の全てを、私に」 本当は私に言いたいことも伝えたい気持ちもあるのだと思う。それが何か私は気付いているのに気付かないフリをしている。 そんな私がもどかしくてもどかしくて。 兵長は狂おしいほど私を求めている。 せめてこの行為の中でだけでも、口には出さない己の感情を全てぶつけたい。 そう、今はそれしか出来ないと貴方は分かっている。だから私もこの行為を全力で受け止めたい。 「ナマエ、好きだ」 「私も、です……っ」 「俺の傍にいろ。俺の傍から離れるな」 「はいっ……いますよ、兵長の傍に……っ」 その想いを体に刻みつけるように、兵長は何度も何度も私を突き上げた。数えきれないほど達して、感覚さえも麻痺してしまう。 それでも兵長の熱は収まらない。雄の目をした兵長が焼き付いて離れない。 そうして喰らい尽くされた私はいつの間にか意識を手放していた。 ◇ 夢すらも見ないほどの深い眠りからふと目が覚めた。 ゆっくりと瞼を開け辺りを見渡す。ちらりと横を見ると目を閉じ眠りについた兵長が目に入った。 ああ、私あのまま意識を……。 今までにないくらい激しく求め合った夜を思い出す。正確にはまだ夜は明けてないのだけれど。 「兵長……?」 もしかしたら起きているのではと思い、小声で呼びかけるも返答はなかった。 そういえば日中は壁外調査もあったのだから相当疲れているはずだ。熟睡していても無理はない。 私の体調をあれだけ心配してくれるのはもちろん嬉しいけど、兵長こそ自分の体を労ってほしいと思う。 ねぇ、兵長……神様はいると思いますか? そっとその黒い髪を掬う。サラサラと指をすり抜けていく。それでも兵長は目覚めなかった。 ――神様。 私は愛する人の傍で生きたい。 そして他の誰でもない兵長の役に立ちたい。 ただそれだけなんです。 願いが叶うなら何だってするのに。 だから、もう少しだけ――。 「まだ気づいちゃダメですよ……兵長」 零れた言葉と涙の意味を兵長はまだ知らない。 今はまだ真実と共に眠ったまま。 ←back next→ |