第24話 貴方の為に頑張りたい


同期とこうして集まるのは久しぶりだ。と言っても生き残ってる同期など、今やすでに数人しかいない。
女子が集まって一番にする話と言えば、恋の話だと決まっているのかは知らないけれど。

「ナマエがリヴァイ兵長とねぇ」
「ここ最近私の話ばかりしてる気がするんだけど……」
「だって本当にビックリしたんだもん。あーあ、私も誰かと付き合いたいなぁ」

決まって話すことは私と兵長の話だった。些細な話から相談事まで内容は様々だ。けれど今日は思いもよらない方向へと話は向かった。

「じゃあそれって、ナマエはしてもらってばっかりってこと?」
「え……何か私がしなきゃいけないことってあるの?」
「やだ、冗談よねぇ?」

話は夜の、つまり私と兵長の営みの話だ。なのに当の本人である私は、皆が何の話をしているのか全くわからない。

「そんな受け身じゃそのうち飽きられちゃうよ?」
「そうね。それに自分ばっかりじゃなくて、相手にも気持ち良いって思ってもらいたいものよね」
「そ、そうなの!?じゃあ具体的に私はどうしたらいいの?」
「どうって。だから兵長のあれを――」

衝撃的な行為の説明をされて言葉を失った。
兵長のあれを、する。まさかそんな。

「……せめて触るだけとかじゃなくて?」
「やだ。本当に知らなかったの……!?」

皆どこでそういうのを知るものなのだろう。もちろん兵長だって何も言ってなかった。むしろ兵長の口から聞いていたら、もっと衝撃的だったに違いない。

「それ……もう少し詳しく聞かせて!出来れば人体の構造と機能もふまえて話をしたいんだけど……!」
「じ、人体って」
「さすが特殊医療班の変人だわ……」





勉強はした。理解もした。ついでにイメージトレーニングもした。
唯一残った疑問はどのタイミングでそれをするかだ。そんなの流れだよと同期には軽く言われたけど。行為に流れがあるとしたら、それはいつも兵長が作っているのだと思う。指摘された通り私はいつもしてもらうばかりだ。
つまりこれをスムーズに行うには主導権は私が握るのが必須……!

「そんなに睨みつけて何か用か」
「睨むだなんて人聞きの悪いことを」
「さっきから難しい顔をしてはちらちら見て何がしてぇんだ」

兵長を気持ち良くしたいんです、なんて間違っても言える訳がない。
そうだ。まずはムードを作らなきゃ。

「こ、今夜も泊まっていいですか?」
「別に構わねぇが改まって聞くなんて珍しいな」
「そうでしたっけ、あはは」

不自然にも程がある。何か話題を変えないと。

「……兵長は何を見ているんですか?」
「これか。前回の壁外調査の記録だ。明日エルヴィンから具体的な作戦について伝えられる予定だからな」
「そういえばもうすぐ壁外調査ですものね」

会話が終わってしまった。というか普通の会話からじゃどうやっても私には無理だ。
ここは一緒に寝るまで待ってみるのが無難かも……。
諦めて私も一冊の本を手に取る。兵長の仕事が終わるまでの間に、と念のため持参していた物だった。眠るまで少し時間はあるし、夕方少ししか読めなかったからちょうど良い。

「そういえば夕方もその本を読んでいたな」
「そうなんです。よく分かりましたね」
「医学書か?」
「はい、それもまだ読んだことがない医学書なんですよ。これが何せとても貴重でして」
「お前とは散々書庫に出入りしたはずだが、まだ読んでいない本なんてあったのか」
「いえいえ、これはお借りしたんです」
「借りた?誰からだ」
「この間お世話になった駐屯兵団の医療班の方からです」

え……何この空気。
怖いくらい空気が一変した。そのうえ物凄い鋭い視線をぶつけられる。先ほどの言葉をそっくりそのまま返したいくらい、こちらを思いっきり睨んでいるのは兵長の方だ。

「ちっ、油断も隙もねぇな……あいつもあいつだが隙だらけなお前も悪い」
「えっ、私何かしでかしましたか!?」
「簡単に口説かれてんじゃねぇって話は前にもしたはずだ。何度も言わせるな」
「口説かれてなんて……あ、兵長っ」

もしかしてこの前から兵長は嫉妬してる……?考えている間に気づけばベッドに倒されていた。全く意図はしていなかったけど、思いも寄らない方法で体を重ねる展開になっている。

「んんっ……」
「言っても分からねぇなら、お前が誰のものかもう一度ちゃんと躾けてやろうか」

兵長からキスが降り注ぐ。こうしたかったのは私自身ではあるけれど、躾なんて言葉に嫌な予感しかしない。それにこれじゃあいつもと同じ流れだ。私が考えていたのはこうじゃなくて……。

「兵長っ、待って下さい!」
「何だ。突然大きな声を出して」
「今日はですね、その、えーっと……」

主導権は私が握らなきゃ。

「と、とにかく戻ってください」

覆い被さっていた兵長を一度押し退ける。後に続いて起き上がった私と兵長は、そのまま向かい合わせに座った。

「今日は私がやりますから……!」
「あ?」
「だからつまり今日は私が頑張る番なんです」

未だによく分かっていない様子の兵長。徐々に眉間に皺が寄っていく。
でもきっと大丈夫。すぐに機嫌は良くなるはず。これは兵長を悦ばせるためのものなんだから。

「……失礼します」

そうして私は兵長のズボンに手をかけ顔を沈めた。
よし……頑張るんだ!
と、意気込んだ私の頭を兵長が全力で鷲掴みにした。

「っ……お前、何してやがる」
「え……何って」

もしかしていきなりするものじゃないの?これから貴方のをしまーすみたいなこと言わないとダメなの?絶対悦ぶからって聞いてたのに、悦ぶどころかますます怒ってるんですけど……!

「一体何のつもりだ?」
「だから、今日は私が頑張って兵長のことを……」
「俺は一切教えてねぇはずだぞ。誰に唆された?まさか駐屯兵団の野郎じゃねぇだろうな」

――兵長が怖い。
あまりの威圧感に言葉が出なくなってしまった。
甘い空気など一切ない。ろくに経験もないのにいつもと違うことをしようとするから。でも兵長のためだったのに。そんなに怒らなくても。
急に鼻の奥がツンとする。言いたいことはあったけど、決して言えるような雰囲気じゃなかった。だから私には素直に白状することしか出来なかった。

「……同期の子達に教わりました」
「同期の男なんていたか?どこのどいつだ」
「男じゃなくて女ですよ?」
「……は?」
「だからですね同期の子達で集まった時に、私はしてもらってばっかりでありえないと言われまして。その、男の人のを……咥えて気持ち良くなってもらう行為があるとか……ないとか……あるとか」

一体何の罰ゲームですかこれは。恥ずかしいにも程がある。

「……女は集まった時にそういう話をするもんなのか」
「そこはもう本当に触れないで下さい……」

もう本当に泣きたい。

「初めての時に……兵長に何かしてあげられることがあれば教えて下さいって言いましたよね?」
「確かにそんなことを言っていたな」

あったのなら教えてくれれば……。
躊躇っていると兵長が話を繋げてくれた。

「そのへんのことはもう少し慣れてからでいいと思っていたが、まさかお前の方から来るとは思ってもみなかった。てっきり誰かに唆されたのかと……」
「……無知のくせに勝手なことをしてすみません。でも本当に兵長に悦んでもらいたかったんですよ」

兵長も言葉が止まる。今度は私が話を繋ぐ番。恥ずかしいけど……でもやっぱりしてあげられることなら頑張りたい。

「兵長……頑張ってみてもいいですか?」
「頑張るってお前な」

溜め息をつかれた。とんでもないことを言っていると思う。兵長と一線を越えてから、自分でもどんどん素直に大胆になっているってわかる。
自らそうなったのか。兵長にそうされてしまったのか。

「では、どうしたらいいですか?」
「……どうしたらか。そうだな、俺がお前にいつもしていることと一緒だ。触って含んで舐めて――」

ベッドに腰かける兵長から離れて床に膝をつく。そしてこちらを向くように促して、兵長を迎える準備をした。
まじまじと見るのは初めてだ。これが兵長の……。
そっと包むように優しく掴んで、意を決して先端を舐めてみた。味がどうとか質感がどうとか、そんなことを考えてる余裕などありはしない。
正解なのかわからないけど私なりに触れて距離感をつめて、少し慣れたところで口に含んでみた。

「……っ」

何とも言い難い感触を初めて経験する。けれどほんの少し漏れた兵長の声に、私の本能が反応した。
とにかく唾液で濡らして。ゆっくり先端から。それから上下に動かして。

「く……っ」

舌もちゃんと使って。それからそれから……。

「っ……ナマエ」

気がつけばどんどん固く主張するそれが、私の口内を覆い尽くしていた。その質量感に息苦しさを覚える程だ。でも兵長の体に力が入っていくのがわかる。甘く切なく私を呼ぶ声が聞こえる。
もしかして。ここ、かな。

「……っ、おい」

ピクピクと反応して見せた部分を執拗に舐めてみると、さらに強い反応があるのがわかる。

「くっ……」

追究してみたい。率直にそう思った。
これは紛れもなく性行為なのだけれど、私の医学的な思考も同時に働いてしまう。この行為に対する現象と思考、そしてそこには必ず人体に基づく論理があって――

「……、何考えてやがる」
「ぷは……っ」

気がつけば再び頭を鷲掴みにされて、兵長から無理やり剥がされてしまった。

「す、すみません……夢中になってしまって」
「……お前本当に同期から教わっただけか?」
「えっと、彼女達の知識や経験を元に人体の構造と機能をふまえて独自の理論を展開しまして、そこから考えられる男性の」
「もういいわかった」

確か射精してまでがゴールって聞いたはずなのだけど。中途半端な状態で離れてしまって、何となく再開はし難い雰囲気だった。きっと下手くそだったんだ。一気に不安が募る。

「やっぱり気持ち良くなかったですか……?」
「違ぇよ……悪いがその逆だ」
「え、じゃあ続けても」
「ナマエ、お前のおかげで俺は支配欲も強いらしいことがわかった。お前の反応や行動が俺の教えた通りじゃねぇことが癪に触る」

腕を引っ張られいつもの体勢に戻される。つまり気持ちは良かったけど、自己流は良くないと解釈していいのだろうか。

「それから一つ忠告しとくが、ここは医務室じゃねぇし俺は実験体でも何でもねぇぞ」

そのうえ何を考えていたのかまで見破られている。

「今度こそ兵長が教えてくれるんですか?」
「いや今日はもういい。それにやられっぱなしなのは俺の性分じゃねぇからな」
「あっ――」

兵長の手がすかさず下着の中へと滑りこんだ。

「そういえば、さっきは夢中で俺のを咥えてたと言ったか。それだけでこんなに濡らしていたのか」
「違っ、ああ!」
「いつからこんな厭らしい女になったんだ」
「ん、兵長の……せいっ、じゃないですか」
「ああ、そうだったな。全部俺が教えたんだ」

すぐさま私の体が兵長に支配されていく。それを兵長は楽しそうに見下ろしていた。

「どうしてほしい?」

ぬるりと指を抜かれ問われた。もちろん答えは決まっている。だからきっとこれはおねだりの強要だ。

「っ……意地悪です」
「最初にお前が言ったんだぞ。今日は自分が頑張る番だってな」
「だからそれが意地悪じゃないですか……っ」
「そんな俺は嫌いか?」

意地悪なうえに狡いだなんて。その答えだって兵長には分かってるはず。

「まさか。どんな兵長でも大好きですよ」
「ほう。じゃあ何をされてもいいんだな」
「はい……だから早く兵長を下さい」

兵長の好きにして。その言葉と共に、兵長の望むがままおねだりをした。

「上出来だ。お望み通りたっぷりと味わえ」
「……っあ、ああ!」

一気に突き上げられ体がびくんと跳ね上がる。焦らされた分の反動なのか。羞恥で余計に昂ってしまったのか。兵長のそれを苦しいくらいに捕らえてしまう。

「お前はどこが好きなんだ?」
「っ、あ、どうして……っ」
「ほら。俺に教えてみろっ……」

今日はどこまでも意地悪だ。今も現にわざと私の良いところを避けて突いている。

「兵長っ、やだ、あ」
「そう言いながらいつもより濡れてるじゃねぇか」
「だって、んっああ」
「意地悪されて悦んでるのはどこのどいつだ」
「ちが、っあ!は、あ」

矯声を上げながら無意味な抵抗を繰り返す。兵長の言う通りいつからこんな厭らしくなってしまったのか。言葉で責められても感じているなんて。
そしていつしか恥ずかしさよりももどかしさが勝り、私は懇願してしまうのだ。

「兵長……っ、奥が、いいです」
「ここか?」
「そこ、ああっ……好きっ」
「ならいっぱい突いてやらねぇとな」

こんなにも淫らになってしまう自分を、昔の自分は全く想像もしていなかった。

「あっ、あ!やあっ、は」
「……くっ」
「好き、っ、へいちょ」

兵長の首に手をかけキスをねだる。今度は意地悪せずにすぐに応えてくれた。くちゅくちゅと舌を絡ませ、互いの欲望を埋め尽くしていく。上りつめていく途中、兵長の表情が歪むのが見えた。

「やっぱりお前は、俺の下でよがってる方がいいな……っ」
「兵長は……っ、気持ち、良い……っですか?」
「っ、当たり前だ」

良かった。ちゃんと気持ち良くなってくれてた。視線がぶつかりふっと笑みが零れる。そしてどんどん激しくなる動きに、私は絶頂を迎えようとしていた。

「も、イッちゃう……っ!」
「俺もだっ……」
「一緒に、あっ――ああ」

果てて震える私の体の上に兵長の体が重なった。
まだ私のナカには兵長の熱が入ったままだ。

「……まだ、待って下さい」
「あ……?」
「もう少しだけ……」

自身を抜こうとする兵長の背中をぎゅっと抱き締めた。
まだもう少しだけこうしていたい。兵長と愛し合えていることで、生きていることを全身で感じていたい。

「あの……っ、兵長、また」
「ああ。お前のせいだ」

私のナカで兵長のそれが再び固く主張をし始めた。

「責任取って付き合え」
「待って……、まだ」

私達の長い夜はまだ続く。
夜明けはまだ遠いことなど知らずに。


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