第22話 冬の星、春の華


とんでもないことを言ったかもしれない。
夕食を食べ終えた私はすぐさま浴室へと向かった。シャワーを頭から浴び続け、何度も自問自答を繰り返す。

「でもこれは、私自身が決めたことなんだから」

覚悟は出来ている。今日、ついに、兵長と……。
考えただけで倒れてしまいそうだ。
何をするかは自分でも多少わかっていはいるつもりだけど……何せ私にとっては初めてのことだ。人づてに聞いたそれが、正しいかどうかもわからない。

「こんなことならハンジさんに聞けば良かったかな……」

だからと言って今から聞きに行く訳にはいかないし、とにかく私は兵長の部屋に向かうしかないのだ。
前に同期が初めての時は痛かった、なんて話をしていたっけ。

「大丈夫大丈夫。この前の大怪我よりは痛くないよね……?」

シャワーを終え鏡を覗く。鎖骨下の傷痕をそっとなぞった。何度も救ってもらった私の命。これまでの兵長との日々が蘇る。
兵長が好き。死ぬまでずっと。
その想いを抱えて、私は宣言通り兵長の部屋を訪れるのであった。

「……失礼しまーす」

そっと部屋に入ると、早速兵長と目が合った。
髪が少し濡れていることから、兵長もすでにお風呂を済ませたことがわかり、なぜだか目を逸らしてしまった。
さて部屋まで来てみたものの、ここからどうすれば……。

「ナマエ、紅茶を淹れてくれ」
「紅茶……?」

扉の前で直立不動だった私に兵長がそう言った。確かに部屋に来て、じゃあはいしましょう、じゃムードも何もない。
私ったらバカみたいに焦って……!
言われた通り、急いで紅茶を淹れて兵長の元へ向かった。

「どうぞ」

そして兵長の向かいに座る。

「おい……何でそっちに座ってんだ」

座った瞬間何故か怒られた。

「ダ、ダメでしたか?」
「当たり前だ。こっちに来い」

焦ったらいけないと思って普通にしたつもりなのに。とりあえず怒られたので、兵長の隣にちょこんと座る。

「お前の分はどうした?」
「何だかその、色々といっぱいで……」
「そうか」

兵長が紅茶をすする音だけが響く。このまま黙っているより、何か話をした方がいいのかな……?

「あ……私来週から班の訓練に合流することになりました」
「痛みはもういいのか?」
「もう大丈夫です。医療班の許可もちゃんともらいました」
「ならいいが……無茶だけはするな」
「はい。ありがとうごさいます」

そしてまた沈黙。
結局そのまま兵長が飲み終わるのを静かに待っていると、カチャリとカップが置かれる。
それが合図だった。

「もう一度確認するが……本当にいいんだな?」
「……はい」
「途中で止めろと言っても止める気はねぇぞ」

兵長からの最終通告。
迷いはない。
後悔もない。
私は何も言わずにコクリと頷いた。

「わかった。そうとなれば時間が惜しい」
「へ、兵長!?」

一瞬で体がふわりと持ち上げれた。いわゆるお姫様抱っこの体勢だ。自分で歩けますと言いたいのに、寝室に近づくたびに体が硬直して、何も言葉が出てこなかった。辿り着いたベッドにそっと体を置かれ、すぐさま兵長に覆われた。

「兵長っ、その、お話したいことがありまして……」
「ここまできて今さら何だ」
「私……あの、こういったことは初めてなんです」
「重々承知しているつもりだが」
「なので、私はどうしたら良いのかを、教えて頂けるとありがたいのですが……」

ベッドに横たわっているだけで、何をしたらいいのか全然わからない。困った表情で兵長を見上げる。

「お前は俺のすることに、ただ感じていればいい」

兵長が少しだけ口角を上げて笑った。

「感じて……っ、て」
「黙って俺を受け入れろ」
「それはもちろんなんですけど……私も兵長に、その、何かしてあげられたら」

さらさらと髪を掬われた。そしてその長い指が今度はそっと頬を撫でる。くすぐったくて心地が良い。

「お前の初めてを貰うだけで十分だ」

兵長の顔がゆっくり落ちてくる。

「あ……、待っ」
「待たねぇ」
「んっ」

無意識に押し返そうとした両手は、兵長によってシーツに張り付けられる。強引なキスが私をよりドキドキさせた。

「これ以上我慢させるな」
「……兵長」
「早くお前を抱かせろ」

兵長の目が微かに揺れていた。

「ん……っ、」

何度目のキスだろう。わからないくらい絡み合い、頭がクラクラする。

「っ……は」

口内で唾液が混ざり合い、細く糸を引いて滴り落ちた。やっと手に入れた酸素に肩が上下する。
ふわふわした意識の中で兵長を見ていると、その手が私の衣服を捲り上げた。

「あっ……そんな」

躊躇う間など与えてもらえない。下着も一気に捲り上げられ、胸の膨らみが露になる。
そこに間髪入れず兵長の舌が這った。

「――あっ!」

思わず漏れた声を両手で押さえる。そんな私を知ってか知らずか。行為は止まるどころかエスカレートしていく。
舌先で突起物を転がされ、もう片方は指でキュっと摘ままれる。

「あっ、それ、やぁっ」
「嫌じゃなくて良い、だろ」
「違っ、ああ、あ」
「どこか違うんだ。こんなに固くさせて」
「知らない、ですっ」
「ほら。気持ち良いって言ってみろ」
「やだぁ……っ、何で、そんないじわるっ……」

まだ胸を弄られているだけのに、全身に波が押し寄せる。けれど体は兵長の言う通りだ。嫌じゃなくて良いとビクビク震えてる。

「……っ、――ん」

勝手に漏れる甘美の声。それを再び両手で必死に押さえるそうしなきゃ恥ずかしくて、今にもどうにかなっちゃいそうだった。

「声、我慢するな」

口を覆ったまま首をブンブン横に振る。

「素直に言うことを聞かねぇと後悔するぞ」

そう言った兵長の愛撫が一層強くなる。胸の頂きをカリっと噛まれたかと思ったら、きつく吸ったり舐めたり転がされたりを繰り返す。それがどれだけ気持ち良いか。

「……んんっ!」

私にはもうわかっていた。

「んーっ……、ふ」
「手をどけろ」
「……、……っ」

目尻にうっすらと浮かぶ涙を、兵長の指が掬ってくれた。

「強情な奴だな」

やっと兵長の動きが止まったことを確認して、両手を口から離す。

「だって……恥ずかしくて」

言い訳してる間に、今度はスルスルと服もブラジャーも脱がされていく。薄暗い部屋の中、私の姿は下着一枚となっていた。
兵長の指が鎖骨下の傷跡をなぞる。アルネさんのブレードで付いた傷だ。

「……傷だらけですよね」
「だがお前が調査兵団で必死に生きた証でもある」

兵長のこういうところに何度救われてきただろう。大好きな兵長とまたキスがしたい。そう思った矢先だった。
……え?待っ――。

「ダメですっ!」

咄嗟に兵長の腕を全力で押し返してしまった。その腕が下腹部のさらに下。まさに下着に手をかけようとしたからだ。

「何だこの手は」
「あのっ、何を……!?」
「何って。まさかわかってねぇ訳じゃねぇよな?」
「えーとえーと……、えーと、そこを触らないとダメですよね……?」
「実は痛ぇ方が好きだっていう性癖でも持ってんなら別だが……」

何となく、何となくこの先は分かる。でも正直言って具体的にどんなことをするのか、ちゃんと理解はしていなかった。覚悟はしてきたけど、いざ直前になると若干パニックになってしまった。

「なんなら俺がこれから何をするか、一度口で説明してやろうか」
「け、結構です……っ」

ご丁寧にそんなことされたら、あまりの恥ずかしさで気を失いかねないと思う。

「なら俺に身を任せろ」

自分からここに来たいと言ったのに駄々をこねる私を、兵長は一度も怒ったりすることはなかった。
そんな兵長の優しさに、胸がきゅっと締め付けられる。

「私……おかしくなりそうです」
「結構なことじゃねぇか」

もう一度兵長の手が下着にかかる。

「この先はもっと気持ち良くなるだけだ」

ただ感じててればいい。最初の兵長の言葉を思い出して身を委ねた。
下着を剥ぎ取られたと思ったら、瞬く間に足を割られ、兵長の指が秘部の突起を撫で上げた。

「ひゃあ……っ」

今度は胸の愛撫とは全く違う。味わったことのない感覚だ。

「あっ、あ」
「ここは良いみてぇだな」
「や、それ……っ何だか」
「その証拠にちゃんと濡れてきている」

ぷっくりと膨れ上がる陰核を何度も上下に撫で上げら、そのたび両足がビクビク震えた。それがしばらく続いたかと思うと、今度は激しく攻めたてられる。

「兵長っ……待っ、あ、やぁ」
「どうだ」
「何か……っ、私」
「おかしくなりそうか?」

何かが押し寄せてくる。その波に体が逆らえない。
体がさらに震えだした瞬間、兵長の手が一度動きを止めた。

「はぁっ、はぁ」

つかの間の休息に呼吸を整える。体がとても熱い。
それから……私――欲してる。

「休んでる暇はねぇぞ」

今度はその指が膣口をヌルヌルと撫でた。乾いていたはずのそこから溢れくるのは、多分私自身の愛液だ。私のそこが初めての侵入者を受け入れた。

「ああっ!い、っ」
「……っさすがにきついな」
「あっ、や、んん」

兵長の長い指が私のナカに沈んでいく。言葉では言い表せられない圧迫感に、無意識に腰を浮かせて逃れようとしていた。

「逃げるな、力を抜け」
「だって、こんな、ああっ……あ」
「ちゃんと解さねぇと痛い思いをするのはお前だぞ」
「ん……あっ」
「いい子だ」

入り口から最奥を何度も抜き差ししていく。少しずつ侵略されていく体が、痛みだけではない何かを感じ取りだした。

「指を増やすぞ」
「んんっ!あっ、あ」

質量が増えた瞬間、明らかに刺激が強くなった。紛れもない。私を襲ってくるのは快楽だ。

「兵長っ、あ……っん、あ」
「ん?」
「へいちょ……っ」
「……どうした?」

名前を呼んで必死に手を伸ばす。誤魔化すことなんて出来ない。兵長がしてくれるこの行為に、私の体が気持ち良いと鳴いている。その快楽に喰い尽くされそうで、兵長に助けを求めていた。

「……っ兵長」
「はっ……いい顔だな」

そのうえグチュグチュと響く水音が、私の聴覚さえも犯していく。あまりの羞恥に思わずぎゅっと目を瞑った。

「ナマエ」

兵長の優しい声。そして触れるだけのキスが落とされる。そっと目を開けると、兵長が笑ったように見えた。

「あああっ」

瞬間、奥の一点を一気に責めたてられる。

「一番はここだな」
「待っ、ダメです……っあ、あ!」

さっきは途中で止まってしまった強い波が、再び私の体に押し寄せる。
膣内を激しく掻き回され、全身が何度もゾクゾクした。これ以上は本当におかしくなってしまう。

「兵長っ、何か、私」
「そろそろか」
「変です……っ、凄く」
「大丈夫だ」
「怖いっ、ああっ、ん!」
「そのまま感じてイけ」
「――あああっ!あ、……あ」

その波の終点に辿り着いた時には、頭の中が真っ白になって弾けていた。体がまだ大きくビクついている。

「今の……」
「ああ。ちゃんとイッたな」
「イク……?」

これが、そうなの?

「お前の中はまだ動いてるぞ」
「あっ……や」

再びぬるりと入ってきた中指を、きゅっと締め付けてしまう。先ほどの何倍も敏感になっているせいか。膣壁を撫でられただけで足が震えた。
グッタリとした私の上で、兵長が服を脱ぎ捨てた。鍛え上げられた体が視界を覆う。この先に待つ不安を忘れそうなくらい、思わず見とれてしまった。

「ナマエ」

名前と共に再び口付けをされる。

「ゆっくりはしてやる」
「……はい」
「それでも多分痛ぇだろうがな」
「大丈夫、です……」

ついにこの時がきたんだ。意を決してぎゅっとシーツを握る。そのまま待ち構えていると、兵長のそれがゆっくり私のナカへと沈んだ。

「――――っ!」

圧倒的な質量に声すら出せない。私の秘部が一気に熱くなる。

「痛いっ……です」
「っ……力を抜け」
「無理、ですっ、待って……っ」
「待ってはやる、が」
「いた、い………っ」

想像以上の痛みだ。今まで負ったどの怪我とも違う。力を抜きたいのにどうしても力が入ってしまう。

「悪いがまだ半分も入ってねぇぞ」
「嘘っ……」

これ以上もっと奥まで埋めつくされてしまうなんて。考えたら途端に怖くなってしまった。

「はっ……は」
「ゆっくり呼吸しろ」
「……は、い」
「ナマエ、一度」
「兵長っ、待って……下さい」

多分兵長は、私にやめるかどうかを聞こうとしたのだと思う。それを遮るように声を上げた。だって覚悟はしてきたから。自然と零れ落ちていく涙が、兵長の指に絡め取られる。

「大丈夫です……っ、続けて下さい」
「ナマエ」
「兵長が大好き、です。だから……頑張りたいんです」
「……お前もこの状況で煽るとは酷な奴だな」
「え……?」

兵長から溜め息が零れた。

「くっ……」
「ああっ、やっ!」

きつく閉ざされた中を、兵長がこじ開けていく。与えられるものは痛みでも何でも構わない。兵長を受け止められるならば。

「あ、……あ」
「……っ全部入った」
「はい……っ」
「このまま動くぞ」

そして兵長はゆっくりと私を裂いていった。
受け止めるだけで精一杯だ。快楽なんてほど遠い。ゆっくりと少しずつ解れているはずなのに、何も考えられない。

「あっ、あ、や」
「辛くないか、っ?」
「はい……っ」

ゆるゆる動いてた腰が、徐々にスピードを上げていく。奥へ奥へと侵入され突き上げられるたびに、声を上げることしか出来なかった。

「んっ、あ」
「くそっ……ヤバイな」
「ああっ、は、あっ」
「まだゆっくりしてやりてぇが、俺も限界だ……」
「やあ、ああっ!」

さらに最奥をグッと突き上げられる。気持ち良いとか良くないとか、そんなことは全くわからなかった。熱を帯びた状態のそこから、兵長の動きに合わせて水音がする。
裸で抱き合って。熱を与え合って。愛しい気持ちを伝え合って。悦びも痛みも生きているからこそ、感じられる。

「兵長、好きっ、です」
「ああ」
「っ……大好きです」
「……っ、俺もお前が好きだ」

打ちつける音が大きくなる。今日一番の激しさが私を責めたてた。そして顔を歪ませた兵長は、引き抜いた熱を私のお腹の上に放ったのだった。

私の初めてが終わりを迎えたことを、朦朧とした意識の中で何となく理解する。

「……体は大丈夫か?」
「はい……何とかそれなりには」
「お前にだけ痛い思いをさせたな」
「……でも、何だかとても幸せでした」

髪を撫でていた手が止まる。とても心地良かったのに。

「さらっと、また抱きたくなるようなことを言いやがって」
「そ、そんなつもりは」
「わかってる。今日はもうしない」

でもまたしたいって思ってくれたんだ。痛がってばかりだったのに。私も痛かったけど、兵長とまた……。
口に出したら怒られそうな気がして、その気持ちは私だけの秘密にしておいた。





兵長のベッドの中はいつもふわふわだ。情事後だったこともあってか、私はいつの間にか意識を無くしていたらしい。
気がついた時には薄暗かった部屋に太陽の光が差し込んでいた。

「……ん」

瞼をこすりながらゆっくりと目を開けた。今日は午前中に馬術訓練で……午後には。

「わあっ……!」

ビックリした。すぐ目の前に兵長がいる。

「よお。起きたか」

その声と共に昨夜の出来事が一気に蘇る。そういえば、私兵長と……!そういえば裸でそのまま寝ちゃった、はず?

「あれ、私どうして服を……」
「まだ冬で寒いからな。俺が着せておいた」

兵長がこれを着せた、と?

「それよりも体は大丈夫か?」

兵長の質問など二の次だ。恥ずかしすぎる事実を朝から突きつけられ、そそくさとベッドから出ようした。
が、鈍い痛みが私を襲う。

「だから今その心配をしただろ」
「うう……はい」

飛び出そうとした体は再び兵長の腕の中に戻される。

「正式な訓練の合流は来週からだろ。なら今日は休め」
「ダメですよ。ちゃんと毎日訓練しないと」
「その体でか?無理だ。休め」

上官の兵長がこの体にしたのにですか。でも確かに馬術訓練は厳しいかもしれない。なら一日医療班の仕事をすればいい。

「そんなに仕事がしてぇなら、俺の部屋の掃除をしろ」
「このピカピカな部屋のどこを……!?」
「それと書類の整理もしておけ」
「確か昨夜見た限りでは、ほんの少ししか机になかったような……」

本当のことを言ったまでなのに、いつの間にか兵長が私を覆っている。

「それとも本当に動けなくなるくらい、朝から抱き潰してやろうか?」
「こ、ここにいます……!」
「ならいい」

どうしても私を休ませたい兵長に根負けしてしまった。

「とは言えこうなったのは俺のせいだからな」

兵長を責める気はなかったけど。表情に出てしまっていたのか。そんな私を宥めるようにキスを落とす。

「戻ったら好きなだけ甘やかしてやる」

そして兵長は私をこの部屋に閉じ込め、訓練へと向かうのであった。


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