第8話 恋情と涙とふわふわと 傷口はもう塞がっているのにこめかみが疼く。 「ナマエさん。診察お願いします」 「はーい」 それでも医務室にいる間だけは、少しだけ気分を紛らすことが出来た。 あの日。 兵長の手を払ってしまった日から、しばらくの間訓練は休ませてもらっている。とはいえただ休むだけでは気が引けるので、医療班の活動だけはすることした。もちろん怪我のこともあるけれどそれは表向きな理由でしかなく、本当はクラウスをどうするべきか考えるためだった。 「傷跡もかなり綺麗になりましたね。今日で診察は終わりです」 「ありがとう。思ったより早く訓練に戻れそうで良かったよ。ナマエのおかげだ」 調査兵団を辞めた方がいいのかとも考えた。でもやっぱりここが私の居場所だから、兵長の傍にいられなくなったとしても、調査兵団は辞めたくないし特殊医療班だけは守りたい。もう一度彼と話し合うかそれとも団長に話すか。 これ以上逃げていても仕方がない。明日までにどうするのか決めよう。 「ナマエさん。俺達片付けてきますね」 「うん。ありがとう」 一人残された医務室で私も片付けを始める。ああ。忘れてた。メスを一つ補充しておかないと。 医療行為は人を救う反面、人の命を奪ってしまうことだって出来るんだ。彼の脇腹を刺した瞬間、それを思い知らされた。まだ……手に感触も残っている。 申し訳ない気持ちで医療器具を片付けていると、思ったよりも早く扉が開いた。 「おかえり。早かっ……」 「こんにちは」 一瞬で私の体が、心が、彼を拒絶した。 「……何しにきたの?」 「何ってもちろん診察をしてもらおうと思ってきたんだよ。まさか特殊医療班の君が、診療拒否なんてするはずないよね?」 この男はどこまで卑怯者なのだろう……! 「……どうぞ。そちらにおかけ下さい」 だとしたら絶対に逃げたくない。こんな人に絶対に負けたくない。 「症状は?」 「左手が痺れてるんだ。左脇腹に傷を負ってからかなぁ」 差し出された左手に触れようとした瞬間、思いきり私の右手を掴まれてしまった。そこから生温い体温が伝わる。 「震えてる。怖いの?」 「離して下さい……っ」 「怖がらなくても大丈夫だよ。今日は君を褒めようと思って来たんだよ?ちゃんと兵長から離れて偉いねって」 「お願いだからもうやめてよっ……近寄らないで……!」 「どうして?こんなに好きなのにまだわからないのかな」 あの時頸動脈を狙えば良かった。確実に殺して全てを終わらせれば良かった。でも私は人の役に立ちたくて、人の命を救いたくてここまでやってきた。どんなことがあっても、私の誇りがこの人に手をかけることを許してくれない。 だけどもうこれ以上は──。 「そこまでだ。クラウス・ブレーメ」 思いがけない形で私の右手が解放される。何が起きたのか見上げると全身に血が巡った。体が安堵したのだろう。 「モブリットさん……!」 「痛ぇ!ああっ!」 クラウスの左腕が、モブリットさんによって強く捻り上げられている。 「やっと捕まえたぞ。お前が犯人だな……!」 「何で……っ!ぐあ!」 「さっきから医務室の周りをウロチョロしてたのは、ナマエが一人になるタイミングを狙ってたんだろ?お前には今すぐ団長のところに来てもらう」 「くそっ……離せよ!おい!」 モブリットさんに連行される背中を無言で見つめていると、クラウスの顔がくるりと反転した。 「またね。ナマエちゃん。ひゃひゃひゃ……!」 その時のクラウスの不気味な笑顔と笑い声が、私の頭から離れることはなかった。 こうなった以上、団長から呼び出されることは覚悟していた。事実確認をしなければ、団長とて彼を罰することは出来ない。私は被害者として証言する義務がある。 「以上が彼の証言だが。間違いはないかい?」 「……はい。間違いありません」 「この手紙もハンジが筆跡を調べる限りでは、クラウス本人が書いたもので間違いないようだな」 団長がクラウスから聞き出した事件の経緯を、改めて私にも確認していく。彼は一つも嘘をついていなかった。自分が有利になる発言も一切しておらず、包み隠さず詳細を話したようだ。おそらく観念したのではなく、悪いことをしたなんて微塵も思っていないからだろう。 団長室にはハンジさんとモブリットさんも同席していた。 「どうして早く私達に言ってくれなかったの……?」 「ごめんなさい……ご迷惑をおかけしたくなくて」 ハンジさんの悲しそうな表情を見て、胸が締め付けられる。色々自分なりに考えていたとはいえ、結局最後は助けてもらったのだから世話がない。 「事実確認が出来たところで、クラウス・ブレーメには明日退団してもらう」 「退団、ですか?」 「彼をこのまま調査兵団に置く訳にはいかないからね。もしかしたら今度は、君以外の女性にも被害が及ぶかもしれない。クラウスには明日の退団まで地下牢にいてもらうつもりだ。君の警護もしっかりとするから安心してくれ」 「はい……ありがとうございます」 これ以上被害者が増えないように……。団長の言う通りだ。こんな思いをするのは私だけでいい。この後のことは全て団長にお任せしよう。 「その代わり一つだけお願いがあります。この場にいる皆さんに……この件はこれ以上他言無用でお願いします」 切実な願いだった。そして私は深々とお辞儀をして部屋を後にした。 「待って、ナマエ!」 廊下に出てすぐのところをハンジさんに止められる。掴まれた肩が痛い。 「私達は言ったはずだよ。ナマエは大切な仲間だって」 私にはとても嬉しくて温かい言葉だったから全部ちゃんと覚えている。でも大好きな二人に迷惑がかかる方が何倍も嫌だった。 「脅されていた事実があったのは確かだし、言えなかった気持ちも理解してる。でも今回はたまたま運が良かっただけで、もっとひどい目にあっていた可能性だってあるんだよ」 「はい……」 「ナマエが頑張り屋だってことは重々承知してる。でも一人で頑張ることと、一人で抱え込むことは違う」 とても重い言葉だった。誰かのために、が結果として迷惑になってしまうこともある。今回のことでそれを痛感した。 「ナマエの甘え下手なところは、利点でもあり欠点でもあるよね」 「これでもお二人には十分甘やかしてもらってますよ」 「ならもっと甘えていいんだよ。きっとリヴァイもそう思ってる」 今度は優しく頭を撫でられる。ハンジさんが次に何を言いたいかは予想出来た。 「リヴァイと話さなくていいの?」 この先ずっと訓練に参加しない訳にはいかないし、まだ特殊医療班の任務も全てこなした訳じゃない。何より本当は兵長の傍を離れたくなかった。 ハンジさんの言うとおり、少しは甘えてみてもいいのかな……。 「ハンジさんありがとうございます……ちゃんと兵長と話してきますね」 「良かった。それが一番いいよ」 ハンジさんに見守られながら、私は急いで兵長の部屋へ向かった。 ──コンコン。 深呼吸をして兵長の部屋をノックをする。あんなに何度も訪れてたはずなのに、今は吐きそうなくらい緊張している。 「入れ」 「失礼します」 扉を開けると机に向かう兵長の姿が見えた。 ああ。大好きな兵長だ……久々に会えた。 何だかここで紅茶を飲んでた日々も、遠い昔のように感じる。ちらりと棚を見ると私のマグカップがまだ置いてあることに、ほんの少しだけほっとした。 「何の用だ」 「兵長にお話がありまして……」 部屋に入ってから兵長は一度も顔をあげず、手元の書類を見つめたままだった。そして冷たい空気の中、急に兵長がとんでもないことを口にした。 「エルヴィンに異動願いでも出してきたのか?」 「え……?異動って何のことですか……?」 「お前がエルヴィンの部屋に入っていくのが見えた」 「それは」 「異動するならついでにこっちの書類にも手続きをしろ」 私、リヴァイ班を離れなきゃいけないの?確かに訓練を休みたいと言い出したのは私だし、それに関して厳しい評価をされても仕方がない。でもそれはクラウスの件があったからで。兵長に危害が及ばないように……。 「特殊医療班の件だが次の班員への引き継ぎは──待て……何をそんなに泣いている……?」 何から話せばいいのか分からない。だって。 「だって……っ、兵長が異動なんて、言うから……っ。私、違うのに……クラウスが兵長を……っ。私ちゃんと話そうって、それでハンジさん、っに……」 泣きじゃくる私に兵長が歩み寄る。次々と溢れる涙を、兵長が服の袖でグイっと拭った。 「き、汚いですよ……っ?」 「そんなことよりどうしたら止まるんだこれは」 「……ずびばせん」 やっと兵長と目が合った。こんなみっともない姿でも今は私を見てほしいと思ってしまう。 「落ち着いたらお前の話を聞こう」 「……はい」 「洗いざらい説明してもらうぞ。そのクラウスだかって奴の話もな」 兵長の鋭い視線が向けられ、その後やっと涙が止まった私は、今日までのことを包み隠さず全て説明した。 その間、兵長が何度溜め息をついただろうか。 「今言ったことは全部本当なんだな?」 「……本当です」 「俺はてっきりお前が、俺の班を抜けたくなったものかと……」 兵長の手が頭へと伸びてきた。鷲掴みにされる、と思った手前でその手が止まる。 「あ、こめかみの傷なら治りましたよ……?」 「そういうことじゃねぇよ馬鹿野郎」 「兵長痛いですっ」 「わざと痛くしてやってんだ」 結局思いきり頭を鷲掴みにされた。痛くされてるのに嬉しくなってしまう自分も大概だ。 「そろそろバカって言うのも嫌気が差してきたな」 「そんな」 「じゃああれか。てめぇはそのクラウスって野郎に俺が黙って殺られるとでも?」 「決してそういう訳では……でもよく考えれば人類最強の兵長に失礼でしたね」 こうして改めて冷静になれば、バカなことばかり考えていたことがよくわかる。でもあの時は本当に怖くて必死だった。まだ感触や体温が蘇ってしまう時もある。 うう……また吐き気が。 「ところで道具室では本当に何もされてねぇんだろうな?」 固まった私を兵長は見逃さなかった。無言の兵長が今までにないくらい怖い。 「首元を少し舐められた、だけです……それ以上は本当に何も」 何を思ったか兵長がすぐさま立ち上がる。そしてどこかへと姿を消してしまった。な、何がどうなってるの? 「おい」 「はいっ!」 「お前は今すぐ風呂に入れ」 「え!お風呂ですか……!?」 まさか兵長が今消えた先って浴室?もしかして舐められた私が汚いから、よく洗えって意味ですか……?ご心配しなくても、傷と一緒に嫌ってほど洗って消毒しましたけど……。 「それから今夜はここに泊まっていけ。いいな」 は。泊まる?ここに? ここって、兵長の部屋? 部屋に、泊まる──!? 「よくないです!」 「上官命令に逆らうのか?それとも何だ。やっぱり俺の班を抜けるつもりなのか?」 「いえ!絶対に抜けないです!でも……」 こうなった兵長が絶対に折れてくれないことは知っている。それでも出来る限りの抵抗はした。私は十分抵抗したのだ。そのうえで兵長の部屋のお風呂に入れさせてもらい、兵長の部屋着に身を包んでいる。こうなったらいよいよ明日槍が降ってきて死んでもおかしくない。 どこにいたらいいのかわからなくて、ひとまず黙ってソファに座ってみる。無言でじーっとしていると、兵長がお風呂から上がってきた。その姿を見て見事フリーズした。 「何をそんなにじっと見てる」 指摘されて一気に顔が熱くなった。カッコよすぎて思わず見とれてしまいました、とは恥ずかしくて言えない。そんな私の気持ちも知らずに、兵長が徐々に私に近づき隣に座った。俯いたまま横を向けない私に、更に兵長の指が伸びてくる。その指は髪をかき上げてこめかみに触れた。 「傷は残らなかったようだな」 「は、はい。おかげさまで」 肌に指が触れるたび心臓が跳ねる。 「お前はベッドで寝ろ」 「では、兵長は?」 「俺はここで寝る」 「ええ!?絶対ダメですよ……!私がソファで寝ますから兵長はベッドで寝て下さい!」 これだけは絶対に譲れないし引き下がれない。 「さっさとベッドに行け」 「嫌です」 「さっきも言ったが上官命令だ」 「聞きません」 一体何度この攻防を繰り返しているのか。話が平行線で終わりが見えない。でも私も一歩も引く気はない。 「ちっ……しょうがねぇな」 もしかして兵長が折れてくれた?それって初めてかも。今日は勝った、そう浮かれている私に兵長が衝撃的な言葉を投げ掛けてきた。 「俺もそっちに行けば文句はねぇだろ」 そっち…………?ってどっち、ですか? 「来い」 兵長に腕を引っ張られる。このまま行けば向かう先は寝室だ。となると兵長の言うそっちとは、まさしくベッドのことになる。 え。 えええ。 つまり――二人で一緒に寝るってこと!? 「えええええ!兵長!?こっちじゃないですよ!あっちですよ!」 「うるせぇぎゃあぎゃあ喚くなとにかくさっさと寝ろ」 私の体が強制的にベッドに沈む。軽いパニックを起こしている私に、兵長は真剣な表情をしてみせた。 「お前寝てねぇんだろ」 「……それは」 「その面を見りゃわかる」 優しくされるとまた涙が出てしまう。今日の私は精神状態がボロボロだ。自分がここまで情けないとは思わなかった。 「よく涙が出る奴だな」 「……どうしてでしょう。他の人の前では一度も泣いたことがないんですけど、兵長の前だと涙腺が緩んでしまって」 兵長が反対側からベッドへと入る。まだ腰をかけたままの私はその軋みを感じて、再び緊張に襲われた。 「来い。ナマエ」 兵長、それは反則です。そんな風にされたらそこに飛び込みたくなっちゃいます。だって私は兵長のことが大好きなんですから。でも今日は。今日だけは甘えてもいいですか? そうして私は兵長の隣へと滑り込んだ。 狭いと思われてないかな。ぶつかったら失礼だから端にいよう。絶対に寝言とか言いませんように。それからそれから。 「兵長……おやすみなさい」 「ああ」 余計なことは考えず寝てしまった方が早い、と悟った私はギュッと目を瞑った。兵長のベッドは私のベッドよりもふかふかで気持ちが良い。兵長の言う通りここのところ眠れていなかったせいか一気に睡魔が襲ってきた。 薄れそうな意識の中、一瞬で鮮明な光景が瞼の裏に浮かぶ。 “ああ……綺麗な肌なのに” “またね。ナマエちゃん。ひゃひゃひゃ……!” 大丈夫。だってもう彼は捕まったんだから。また、なんてあるはずがない。 怖い。 大丈夫。 怖い怖い。嫌だ。 お願いだからもう消えて。 「ナマエ」 怖い。 「ナマエ」 「っ、……」 「大丈夫だ。落ち着け」 兵長がそっと私を抱きしめてくれた。そして大きなその手が、震えている私の背中を擦ってくれる。 「奴は今地下牢にいて、明日には退団する。二度とお前には近づかせない」 「……はい」 「だから安心して寝ろ」 温かくてふわふわする。兵長の心臓の音が聞こえる。それがとても心地良く不安を消してくれる。 この日私は、初めて兵長から与えられた安らぎの中で、深い眠りについた。 ◇ まだ朝日が昇ってまもない頃、すやすやと眠るナマエを置いて俺は部屋を出た。向かった先は調査兵団の敷地外へと出る門だ。しばらくそこにいると、目的の人物がこちらに向かって歩いてくる。 「リヴァイ。こんな朝早くにどうしたの?」 ハンジが俺を見つけて声をかける。全て読み通りだ。両脇に連れ添ったハンジとモブリットを見てそう思った。 「クラウス・ブレーメ。俺はてめぇに用がある」 エルヴィンのことだ。退団させるなら混乱が起きない早朝を選ぶだろうと読んでいた。こいつがナマエを襲った犯人か。 「モブリット。そいつの手を離せ」 「リヴァイ、貴方もしかして……っ」 ハンジの言葉を最後まで聞く前に、俺は思いきりクラウスを殴っていた。 「あちゃー……やっぱり」 ふっ飛んだクラウスの上に跨がり、畳み掛けるように殴打する。前歯は折れ、口からはダラダラと血が流れていた。 「ぎゃあ……っ!ひゃめ、くれ……!」 「ほう。まだ喋れる元気があるのか」 「がはっ!」 昨日震えるナマエを抱きしめながら、こいつを殺してやりてぇと何度も思った。同時に、あいつが恐怖に怯えていたことに気がつかなかった自分にも反吐が出た。 こいつを殺してやるのは簡単だ。でもそうしたらナマエはきっと悲しむだろう。 ──あいつは命を救う側の人間だから。 「二度とあいつに近づくな……次は本当に殺す」 血まみれになったクラウスをハンジとモブリットが抱える。そして門の向こうへと消えていった。 「ちっ……汚ねぇな」 ハンカチで血を拭っていると、思ったより早くハンジ達が戻ってきた。 「早いな」 「門の向こうに引き渡すだけだからね」 ハンジがニヤニヤ薄気味悪い顔をしてやがるのは気のせいか。 「いやぁスッキリしたよ。私も一発殴ってやれば良かったな」 「同感です。分隊長」 「で、リヴァイ」 「何だ」 「あの子はちゃんと眠れたの?」 こいつは俺がナマエから事件のことを聞いたことも、ナマエが俺の部屋で一夜を過ごしたことも、全部わかっていてあえてこの質問だけをしているのだろう。 「ああ。ぐっすりな」 俺はそれだけ言い残してナマエの待つ部屋へと急いだ。 部屋に戻るとまだナマエは眠っていた。 先ほど部屋を出る前にかけたブランケットが、ベッドの下に落ちている。どうしたらこうなるんだ。そう思い再びかけようとした時だった。ナマエと目が合う。 「……兵長?おはようございます」 「起きたか」 「あれ……どうして私の部屋に……?あ、夢かぁ……」 夢じゃねぇぞ。そう言う前にナマエが物凄い勢いで飛び起きた。 「っっ…………すみません!寝過ごしました!」 「心配するな。まだ朝日が昇ったばかりだ」 「え……あれ?ここ……兵長の、部屋」 俺が部屋まで起こしに来たと勘違いしているのか。ナマエが無言で辺りを見渡している。多分、頭の中を整理しているのだろう。俺はそれが終わるのを静かに待っていた。 「兵長……私、完全に寝てしまいました」 「それがどうかしたか。俺はお前に寝ろと言ったはずだが」 「そうなんですけど、何だかいたたまれなくてですね……」 何がいたたまれないのかは知らねぇが、随分と顔色が良くなっている。思った以上に眠れたようだ。 「もう一度寝ていいぞ。朝食にはまだ早い」 「いえ、起きます」 「遠慮するな」 「私だけ一人で寝続けるなんてありえませんよ」 「そうか。じゃあ俺も一緒に寝るとしよう」 ナマエが思いきり後ずさった。そのうえ顔が一気に赤くなる。少し前からこいつのこういう反応には気づいていた。それを俺はわざと知らないふりをして、楽しんでいる節がある。 こいつはまだ気づいてねぇだろうがそういう反応をするお前が可愛いと言ったら、ナマエは次にどんな反応をするだろうか。 ←back next→ |