Helianthus Annuus | ナノ
姉を名乗る [ 103/156 ]

ねぇねぇ
何が楽しいのか、「私」は素っ気ないマギルゥにひたすらに話しかけ続ける光景が、再び眩い光に包まれた途端ページが切り替わるように少しその様子を変えた。


具体的に言うとマギルゥが散らかしていた資料の散らばりがさらに広がり、ベルベット達とお城で見た時と近いくらいに散らかってきてる。

それと、見たことない小さい帽子を被った生き物(?)……が何やらマギルゥの周りでちょろちょろと動き回っていた。

そんな彼女たちを心做しかガラスケースの中で「私」はぐったりしながら相変わらずマギルゥにむかってねぇねぇ、と話しかけているがその顔色はだいぶ悪い。
マギルゥはそれを対して気にしていないように見える。




「……?少し……年月が経ったのかな……?」



部屋の散らかり具合でそう思ったがマギルゥ自体には何ら変化は感じられなかった為、そこまでは長い時が経った訳では無いのだろうか?
疑問に思いながらも眺めていると、「マギラニカ……エリアスが話しかけてるでフよ」と小さい帽子を被った生き物が喋った。だがマギルゥは淡々と資料を見続けているがその生き物に話しかけられた事により少しだけ顔を上げた。


「ねぇねぇまた血を抜くの〜?地味に痛いし嫌なんだけどあれ〜……」

「……最初の頃は食べないで~~~!!とかギャーギャー騒いでおった癖に採血だけだと分かるとケロッと態度変えたの」


「人間は悪いやつだけじゃないって友達も言ってたし、君のことは嫌いじゃないんだよ。私の話し相手だしね!!」

「ほう話し相手(一方的)とな」

「なんかすごく鼻で笑われた気がする」


それ以降マギルゥは再び視線を資料に戻して私の方を見ようともしなくなった。だが時々独り言をポツポツと呟いている。


「人魚とは面白いのぅ、血肉をくらえば霊応力を上げることが出来る……お師さんも血眼になって探すわけじゃ」

「……そうでフね……マギラニカ、そろそろ休憩しようでフ」


マギルゥの返事はない。帽子を被った生き物は悲しげに目を伏せた。「私」のように何度もマギルゥに声をかけているがマギルゥはその言葉を受け流すか無視をしている。


「ビエンフー、お主も五月蝿いぞ。わしはもうすぐお師さんの試練がある。それまでに霊応力や天族についてもっと知っとかなければならん」

「……でフが……」

「五月蝿い」

「…………ハイでフ」


ビエンフーと呼ばれた子はそれ以降何も言わずにマギルゥの横にちょこんと座り込む。そんなやり取りをみた「私」はマギルゥの方へ向かってバンバンとガラスを叩いた。


「ねえー、ビエンフーが可哀想だよ。もっとちゃんとお話しないと。友達なんでしょ?」

「…………友達ではない」

「……びえっ」

「嘘だ。だってビエンフーは「マギラニカは大切な友達」って教えてくれたよ。そこまで胸を張ってビエンフーが友達って言ったんだもん、マギラニカもそうなんでしょ?」


マギルゥは相変わらず、手に持った紙から視線を外さない。だけどその手は小さく震えていて、「違う」と一言呟いた。


「…………道具を、友などと語る訳にはいかん」


「……マギラニカはそれで辛くないの?」


「当たり前じゃ。儂は聖寮の影となるべく育てられたんじゃ。影に……心なぞいらん」


マギルゥはそれだけ告げて「お主らがいると集中出来ん」と言いながら部屋から出ていってしまった。
残されたビエンフーが「申し訳ないでフ」と「私」に向かって謝った。

「なんでビエンフーが謝るの?何も悪くないじゃない」

「……マギラニカは、昔はあんな子じゃなかったんでフよ。……でもメルキオル様に拾われてからずっと、自分自信に聖寮の影になるって言い聞かせてるんでフ」


「ビエンフーはマギルゥと付き合い長いの?」


「そうでフね。マギラニカが小さい頃から一緒にいるんでフよ」


「聖寮の……影……?」

ガラス越しにビエンフーは「私」と語り始めた。あの頃はかわいかったんでフよ〜、そう言いながら少し寂しげに顔を伏せて。


「……マギラニカは霊応力を高める為に、成長を止めてしまったんでフ。そしてずっとメルキオル様と一緒に過ごしている内に喋り方すら変わっちゃったんでフ……」

「……マギラニカはそのメルキオルとやらに、憧れてるの?」

「憧れ……もあるともいまフ。でも一番はマギラニカは捨て子で拾われた先でも酷い仕打ちを受けていたからメルキオル様に拾われた事を「絶対の恩義」と感じてるんでフ……でもボクは日に日に変わっていくマギラニカが無理してるみたいで、辛いでフ」



そう言えば、この過去の記憶でマギルゥが笑っているのを見たことがなかった。今のマギルゥはずっと笑って……笑って……?あれ?彼女は本当に笑っていたのか?
心から?
ロクロウやライフィセット、海賊のみんなの笑顔を思い出すとマギルゥの笑顔はまるで"貼り付けた"ような笑い方だった気がしてきた。


ならば、彼女が心から笑ったのは、いつだったのだろうか?
記憶の中のマギルゥの顔が黒く塗りつぶされているように、彼女がどんな顔をして笑っていたのか思い出せなくなった。

記憶がごちゃごちゃになってる私と裏腹に「私」はガラス越しにビエンフーの頬を撫でる様に微笑んだ。



「じゃあこれ以上ビエンフーのお友達が……マギラニカが変わらないように私があの子と一緒にいるよ!!私があの子の家族に……お姉ちゃんになってあげる!!」


こう見えて結構歳上なんだよ!!どや顔……?でそう胸を貼る「私」にそうなの?と思わず過去の映像なのに返事してしまった。
そう言えば、アイゼンより、歳上だとは聞いたことがある。アイゼンに。
……アイゼンは幾つなんだろうか?



ああ違う、そうじゃなかった。今気になるのはそうではない。
先程「私」はマギルゥのお姉ちゃんになる、と言った。私には思い出せないけど、大切な妹がいた。とても、大切な。とぎれとぎれだけど。思い出していく。パズルのように繋がっていく。


「マギルゥは、私の」


ストン、と最後のピースがはまったような気がして息を飲んだ。


「……でも、エリアスだって、聖寮に捕えられてしまってるでフよ。マギラニカやメルキオル様がその気になればきっとエリアスを沢山傷つけてしまうでフ」


「大丈夫!!私こう見えて丈夫だし、それに運がとてもいいんだから!!」





■■■■も言ってたんだ!私は運がすごくいいんだって、




「誰、が……?」


「私」の言った何故か聞き取れなかった名前にズキズキとなくなった耳と頭が痛くなった。
ピースが揃ってもまだ、私には思い出せない事があるみたいだ。


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