記憶 [ 101/156 ]
冷たい石の感覚が頬から伝わってきて、目を開けると辺りは見たこともない場所だった
「ここは……どこ……?」
ゆっくりと起き上がり辺りを確かめるが誰もいないし、何も無い。
エリアスが目を覚ましたのは果てがないように見える文字通り空も地面もなく現実味のない不思議な空間だった。
確か……聖寮から逃げる為にアイゼン達が「飛び込め」と叫んでいた空間の裂け目のような所に飛び込んだまでは覚えている。
脚は、……動く腕も大丈夫。少し気を失っていたおかげか階段で乱れていた息も落ち着いていた。
なら、探さないと。この不思議な場所があの時飛び込んだ裂け目であるならきっとどこかにアイゼン達もいるはずだ。
早く、探さないと。
この不思議な空間に業魔は見当たらないが何故か「嫌な気配」が拭えない。本能が何かを感じているのだろうか?
バクバクと心臓がなる音だけが空間の中体の中で鳴り響く。少し、痛くて、うるさい。
はやく、はやく。みんなと合流しないと
自然と歩を進める脚は速くなっていく。ここに1人で居たくなかった。
「っなに……?」
そして無我夢中に走っていると、急に目の前に光の球体が浮かび上がってきた。
敵意も、殺意も感じないが、これは触れてもいいものなのか?
恐る恐る突如目の前に現れた光の塊に手を伸ばすと辺りは光に包まれて行った。
その光の眩しさに思わず目を固くつぶってしまい、漸くして光が収まってきた頃にゆっくりと目を開けるとそこには先程の空間とは違った風景が広がっていた。
「ここは、………」この場所は見覚えのな……いや。ある。
そうだ。この場所はあの時城の中で見た、研究所、だ。
なぜ、?移動してしまったというのだろうか?
地面から伝わってくるのは先ほどと変わらないむき出しの石の冷たさだったが風景はあの時の研究所そのものだ。……だが少し違うのは私が倒れる前に見た研究所は少し廃れていたが今見ているこの場所は幾分綺麗に見える。
この短期間に掃除でもしたのか?いや、違う。そんな感じゃない。
意味がわからなくて混乱している、と、
「ねえーー……君の名前は?」
「!?……誰……?」後ろから、聞き覚えがある声が聞こえてきた。いや覚えがあるどころじゃない。
その声は「私」の声だったからだ。
はっ、と息を飲む。
声がした方へ振り返るとそこには「私」があの研究所で割れていたガラスケースの中で漂っていたからだ。
「わたし……?」「ねぇーってば」
「…………………」
ねぇ、ねぇ。ひたすらに話しかけてくる割には視線が合わない。そして漸く気づく。この「私」は私に話しかけているのではなく、斜め後ろにいた少女に話しかけていた。
少女は何やら難しそうな資料を足元に広げて俯いて「私」の声を無視してブツブツと呟いている。
何度か目の前で手を振るが反応はない。「私」と俯いている少女の二人には私が見えていないようだった。
「これは……」過去の記憶……なのだろうか?姉の言葉を思い出していた時のように。だがあの時とは何かが違う。
あれはだって「私の視点からみた記憶」だった。今のこの光景は"故意に、見せられている"そういう感覚だ。
「私の知らない……私……」あの、城の研究所に捕まっていた時の記憶……?
くるくると表情を変えながら一方的に少女に話しかけている「私」はまるで他人のように見えた。
私って、こんな顔できたんだ……。
他人事のように目の前で起こる出来事を眺めているとあまりにも「私」がしつこかったのか俯いて何かを呟いていた少女はバッと漸くその顔を上げた。
「えっ……」「うるさーい!!少しは黙らんかい!!」
「あっやっとこっち見てくれたね!ねぇ君の名前教えて?」
「マギルゥ……?」どこか幼く感じたその少女はマギルゥにそっくりだった。