Helianthus Annuus | ナノ
変化の予兆 [ 100/156 ]

まるで大きな爪で抉られたような痕に少し焼け焦げた野原。そして多少の血痕……それは先程までここで誰かが"戦っていた"という証拠だった。

その場所はタバサの地図によると結界があった場所だ。
ベルベット達はここで恐らく誰かと戦闘をしたのだろう。燃えているのはライフィセットの術の影響だろうか?焼け焦げた野原はまだ完全に鎮火できていない。
それはベルベット達が離れてまだそこまで時間が経っていないということを物語っていた。

見た所今は結界は張られていない。破る事が出来たのだろう。なら先を急がないと、と再び走り出そうとした時
すん、と鼻が敏感にその"匂い"を拾った。


「血…………これは、アイゼンの……?」

こっちは、ベルベット、これはロクロウ。もう一人分は誰かわからない。知らない匂い。マギルゥやライフィセットの匂いは無いことから彼らが血を流すようなことがなかったという事が分かる。


そしてふ、と自分のその行動を疑問に思った。


何故血の嗅ぎ分けなどで来ているのだろうか?


夥しい戦闘の痕より、焦げた匂いより、血痕の「匂い」に神経が行ってしまったという事実に鼻を何度か触るが血の匂いを拾ってしまうのは変わらなかった。





「鮫の人魚…………ってアイゼンは言ってた……」

「お前は確か自分で鮫の人魚だと名乗っていた」


だから嗅覚が自然と血の匂いを拾ってしまったのだろうか?いや、だが血などここまでの旅の道中幾度となく見た。対魔士のもの、海賊の皆のも、ベルベット達のも、……アイゼンのも。

だがここまで鼻につくほど匂いを感じ取ったことは今まではなかったはずだ。
なら今の私は匂いに敏感になっているという事だろう……




「なんで、………」



人魚の記憶を思い出しかけた事により体が変わったのだろうか?鮫の特性を思い出した?

いや多分、違う。
これは、むしろ……

「"人"としての部分が薄くなっている……?」


いずれ、この脚もずっと尾鰭から変わることがなくなる日が来てしまうのではないか?
人間としての部分が失われてきているという事実がアイゼン達との距離をより遠く感じさせたが今はまだ動ける脚を動かして、奥に見える建物を……祭壇を目指して走り出した。







🌻







走り出した────とは言ったがちょっと心折れそうになった。


「ケホ……ッ…………無駄に……長い……!!」


そう、無駄に長い階段に。
人の脚に完全に慣れていないというのに何だこの鬼畜な斜面は。祭壇なんだから皆がお祈りしやすいように作ってくれよと思いながらも一段一段登っていく。

そして上に行けば行くほど血の匂い、が濃く感じていく。恐らくベルベットだ。


「ハー…ッ…!…ハ……ッ!!急がない、と……!!」

息を短く吸ってまた少し駆け足で登っていく。業魔や対魔士の使役聖隷が何体か見えたが水を被せて無理やりやり過ごしていく。1人ではまともに立ち向かえないからだ。


私は確かに弱いし足でまといだ。置いていかれるのも納得が行く。
だがここで折れてしまったら、後悔しかないだろう。
荒くなる呼吸とバクバクと鳴り止まない胸を抑えながら最後まで駆け上がると奥の方から声が聞こえた。皆の声だ。知らない声も聞こえる。

良かった、追いつけた……と息を吐いて、みんなの所に行こうとすると微かにしか聞こえなかった声の中で一際大きくその言葉は聞こえた。




「命令なんて……!!嫌だ……!!」



ライフィセットだ。何かに抗っているのか苦しそうな声が、聞こえる。心臓が締め付けられそうな悲痛な叫びにもう走れない、と思ったはずの足は自然とその声の元へ翔けさせた。






「ベルベットが死ぬなんて嫌だ────!!!!」



「……!!」

ライフィセットのその叫び声と共に辺りは光りに包まれた。状況が飲み込めないまま未だに私に気づいてないみんなの元に向かおうとするとアイゼンの声が聞こえてきた。



「あれに飛び込め!!!!」

「儂を置いていくな〜!!」



「えっ、…………」


あれってなんだ?とりあえずアイゼン達に続けばいいのだろうか?!
状況は理解は出来てないが聖寮の服を着た人達とあの時の演説で見たアルトリウス、という男もいたので今は多勢に無勢で引くのが一番という事だろうか?ベルベットもアイゼンに抱えられていた時ぐったりとして意識がなさそうだったので釣られる様にみんなが入っていく時空が裂けたような割れ目に慌てて飛び込んだ。

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