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09

「注釈いれる度にテオ君の思考は乗っ取られる模様……ハッ!俺っちは一体何を…」





chapter:09





訓練が行われる地下のモニター室。
訓練が始まって早々に繰り出された轟の氷結は、ビル全体を覆い、その冷気は地下にまで伝わっていく。



「さっむ!!」

「なんだあれ…チートかよ…チーターかよ…」



軽装の戦闘服を身に付けていた切島や砂藤が震える体を両腕で抱きながら呟く。
同じく冷気に当てられたオールマイトも同じようなリアクションを取りながら解説を挟んだ。



「仲間を巻き込まず、核兵器にもダメージを与えず尚且つ敵も弱体化!」

「最強じゃねぇか!」

「まさに初見殺し…」



モニターを見れば室内にまで冷気が侵食し、核を守っていた尾白の足元を見事に氷で床に縫い付けていた。
無理に氷を剥がそうものなら、氷にくっついた足の皮膚ごとを剥がしてしまいかねない。

それではろくに戦えないだろう、悔しそうに顔をしかめる尾白に、悠々と現れた轟が言う。

部屋の真ん中に置かれた核を目指しながら、轟は辺りを見た。
……皇がいない、別のところに移動していたか?



《俺っちをお探しかぁ?》

《!》



核まで後十数歩、というところで突然聞こえた嘲笑。
視界の外から聞こえたそれに素早く反応した轟は、振り返り際に右手から氷結を生み出し壁をつくる。



《無駄無駄ァ!!》

《っな!》



咆哮と共に生み出したばかりの氷が砕け散る。
爛々と燃える赤が一直線に轟に迫り、その端整な顔に拳を叩きつけた。



「うぉぉぉお!?皇の拳が決まった!!」

「え?あいつ燃えてね!?」

「炎…!まさか奴は炎を操る龍イグニールだというのか!」

「なんだよそれ!厨二かよ!ヤベェ!カッケー!」

「凄まじいな、男子の盛り上がり…」



轟を部屋の隅に殴り飛ばし、辺りの氷を身に纏う陽炎で溶かし蒸発させながら、悪どい笑みを浮かべた竜の少年…皇テオは核を背に轟の前に立ち塞がった。

翼をゆったりと羽ばたかせる様は自身の余裕を相手に植え付ける、舌なめずりする様は獲物を見つけた捕食者のそれだ。



《油断したな、轟、なんだっけ?一瞬で終わらせるんだっけ?》

《…お前の個性、本当はそんなだったのか》

《おうよ、炎王龍とは俺っちのことだ!尾白!もう一人の方は任せたぜ!》

《あぁ!》



皇の言葉に尾白が頷く、いつの間にか氷の拘束から溶けていた尾白は轟が入ってきた入り口から出ていった。

モニターを見ていたオールマイトは、皇が轟を殴り飛ばしたと同時に口から炎を吐き、尾白の足元の氷を溶かしたのを見ている。
自由になった尾白は、もう一人、障子の元へと駆けていく。

一方障子も異変に気付いたのかビルの中に突入した、轟は皇に邪魔されたこと、尾白が障子の元に向かったことを無線機で伝える。



《おっと!通信とは余裕だな!》



それを遮るように皇が轟に殴りかかった。
轟は横に飛び再び氷の壁をつくる、目隠しだ。
猪突猛進に氷を砕いていく皇に壁をはることで粘る轟を、誰かが男らしくないと笑う。



「いえ、轟さんは逃げの一手ばかりうっているわけではありませんわ、隙を狙っているんです」

「隙!?隙ってあるのかよあれ!チート対チートの戦いだぜ!?」

「あるでしょ、お互いまだ初心者だし…」

「…あれ?皇燃えてなくね?」



轟と皇の戦闘を見守る一同、壁際での攻防は見た限りでは皇の優勢だ。
殴りかかる皇の拳を遮るように氷が阻む、叩きつける強靭な皇の尾を受け流すようにかわす。

防戦一方かと思われていたが、それはどうやら轟の作戦のようだった。



《お前のそれ、長時間使えねーんだろ、さっきから砕いてばっかで溶かさねぇ》

《別に溶かしてほしいなら溶かしてやるぜ!?纏うだけが芸だと思うなよ!》



皇は何度も現れる氷の壁に苛立ちを覚え大きく息を吸う。
急速に熱気が皇へと集まった、口から放たれた炎弾は分厚い氷の壁を一瞬で溶かし蒸発させる。

なんて熱量だ、蒸発した氷は水蒸気となり、熱気と共に辺りを包む。
視界が塞がる、皇はハッとしたように顔をあげた。



《やべっ》

《遅い!》

《ッ!》



水煙の中、皇の懐に飛び込んできたのは轟だ。
彼は右手に握り拳をつくり、無防備な皇の腹を殴る。
竜の皮膚は想像以上に堅かった、だが轟の目的は殴ることじゃない。



《さっきの陽炎、纏えるなら纏ってみろよ、体の芯から凍らされてもなお熱を生み出せるんならな》

《………ッ、さみぃなぁチクショーめ…》

《動きは封じた、寒さで氷も溶かせない、お前が派手に暴れる質で助かった》

《ったく、らしくねー挑発してくると思ったらこれかよ…》

《わりぃな、核は貰っていくぜ》



0距離からの氷結。
文字通り体の芯から冷やされ、凍らされた体は急速に熱を失っていた。
両手両足は完全に氷の中、辛うじて翼と首から上は動くものの、その口から吐き出されるのは炎ではなく白い息だけだ。



「轟のやつ!ついにやりやがった!」

「氷を生み出し続け、砕くのではなく溶かすことを誘発し大量の水蒸気を発生させる…皇少年が炎を纏っていない隙を狙い、懐に飛び込み体ごと凍らせるか!」

「あの様子じゃ寒くて炎も使えないみたいね、これはチェックメイトかしら」

《……それはどうかな?》



凍った皇を素通りし、核兵器確保に向かう轟に、皇は小さく笑う。

ガチ、ガチ、カチカチ、何かがぶつかる音が聞こえた。
轟は何をしてくるのか警戒する、まさか核に罠を仕掛けられたか、さっきの言葉にはまだ何か対抗手段があることを示しているのか。

だが皇は弱々しく翼を動かして抵抗するだけで、炎を纏う様子はない。
身を凍らせる寒さに歯をガチガチと震わせながら白い息を吐く。

ガチ、ガチ。

皇の負け惜しみか、そう言えばさっきから水煙が晴れない、ような。

轟の視界の端で小さな白い何かが舞う。
最初はさっきの水蒸気かと思った、しかしそれにしては一つ一つが粗い粒だ。

皇が翼を羽ばたかせる。
白い何かは風に乗ってふわりと舞った。
これは、白い、粉?



《なぁ轟》



粉塵爆発って知ってる?

返事を待たずに皇が強く歯と歯をぶつける。
ガチッ、という一際大きな音と共に、ぶつかり合った鋭い犬歯が火花を散らした。

瞬間。



「ば、爆発したーーっ!!?」

「何が起こったのー?!」

「皇って爆発もできたのか…」

「粉塵爆発!あの状況で起こしたのか!」



モニターが揺れ、爆発の大きさを物語る。
先程の爆豪の爆発に比べればまだ規模は小さかったが、核兵器のある部屋でそれは危ない行為だ。

しかし轟は爆発から上手く逃れることが出来たようだ、反射的に飛び退き、爆風に背中を押される。
飛び退いた先は核兵器だ、少し不格好になるがぶつかってでもタッチできれば確保したことになる。

背中がチリチリと熱いのを無視して核兵器に手を伸ばす。

そしてその手は核兵器に触れることは出来なかった。
突然体が何かにぶつかった、何もない、何かに。



《轟くん確保ー!!》



そこに何があるか見えなかった、しかしそれが自分を抱き締めていることを轟は理解する。
そして抱き着かれた腰に巻かれた”確保テープ”。



《…………いたのかよ、やられたな》

《あー寒かった…葉隠さんナイス隠密!》

「敵チーム!轟少年を確保!!残り時間はまだ10分あるぞ!」

《っしゃ!葉隠さん轟見張ってて!尾白!状況どう!?》



轟の確保に成功した事で状況は1対3となってしまった。
別のモニターで交戦している尾白と障子はその事実を知ってそれぞれ真逆の表情を浮かべる。

障子の必死の反撃も、受け流しの得意な尾白と追い付いた皇の挟み撃ちを受けて敢えなく確保されてしまう。



「敵チーム!!WIIIN!!!!」



オールマイトの宣言によって、合流した敵チームの3人は勝利のハイタッチを決めた。

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