08
「相性的に俺っち爆豪には勝てるんだけどなー」
chapter:08
最初の組合わせ、どうやら緑谷と爆豪は因縁があるらしく、体力テストの時から爆豪が彼に突っ掛かっていくのを見ていたが。
「ここまでとはなー…」
「爆豪少年!次それ撃ったら…強制終了で君らの負けとする」
訓練を行うビルの地下に備えられたモニター室。
写し出される映像の凄まじさに俺っちは顔をしかめるばかりだ。
映像だけで声は聞こえないがチーム戦だということを忘れちまいそうだ、最初から爆豪の独走、狙いは緑谷一転集中。
暴走のあげく、爆豪の戦闘服に拵えられた手榴弾のような見た目の籠手から放たれる大爆発によって建物は激しく損壊。
感情的というか、なにより私情が挟みすぎだ、これは確かに訓練だけど、自分の鬱憤を晴らす場所じゃない、それは他所でやってほしいぜ。
「こいつはひでぇや」
「そんな軽く言うことか…」
「轟、お前この対戦どう思うよ」
「…酷いな」
「だろぉ?」
「確かに緑谷は瞬間的な高火力持ちだがリスクが高い、見てる限りじゃ爆豪の戦闘センスの方が圧倒的だろ、態々あんな爆発しなくてもああいうフェイントをすぐに出来るんだ、なのにあんな愚策をしたんだから酷い話だよな」
「…お前のも酷い言い様だぜ…」
中々の辛口評価を聞いてしまった、轟も言うようになったなー。
戦闘も終盤らしい、爆豪と緑谷を写す画面では壮絶な一騎討ちが始まっていた。
叫ぶような、鬼気迫る表情で拳を突き付ける爆豪と緑谷。
しかし緑谷はその拳を天井に向けて突き上げた、途端に地下まで伝わる地響き、土煙と爆風で乱れる画像。
別の画面で見れば、核を守る飯田と対峙していた麗日さんが、緑谷の一撃によって崩れ空いたであろう床の瓦礫を、無重力にしたのであろうコンクリ柱をバットのように振るい打ち出す様子が見てとれた。
麗日さんそれ悪手ですよー!!!なんて俺っちのアドバイスがここから彼女に届くわけなく。
突然の崩壊と襲いくる瓦礫に対応できず慌てた飯田の隙をつき、麗日さんは自身を無重力にして飯田の頭上を通り越して核にタッチ…つまり確保に成功した。
それを見届けたオールマイトがマイクに向かって高らかに宣言する。
「ヒーローチーム!WIIIIIN!!!」
倒れるヒーローチームと無傷の敵チーム。
緑谷に至っては個性使用で腫れ上がった右腕と爆豪の攻撃を受け止めた左腕が痛々しすぎて、直ぐ様保健室に運ばれていった。
今は緑谷を除いた面々で、先程の戦闘訓練の講評を聞いている。
まぁ大体俺っちと意見は同じだった。
そしてそれを八百万さんが全部説明してしまって、若干オールマイトが悔しそうに見えるのがちょっと笑える。
「お疲れー、麗日さん具合大丈夫か?保健室行く?」
「あ、皇くん…ありがとーへへっ、一応平気かな、最後まで皆の訓練見たいし」
「そっか、無理すんなよー、飯田もお疲れ!何言ってるかは聞こえなかったけど大分振り回されてたな!ドンマイ!」
「本当にな…」
飯田はかなりげっそりした声で言った。
うん、本当に振り回されてたね、爆豪の暴走に麗日さんのラストアタック。
でも講評でベストを貰ってたからそこは嬉しそうだ、そのことを言えば照れながらも真面目に意見を返された、飯田らしい。
「では場所を移し2回戦目を行うぞ!次の『ヒーロー』!Bコンビ!!そして『敵』はIトリオだ!!」
「お…お?俺っち達敵組か!」
「もう出番か…早いな」
「ん?」
「あ?」
「Bコンビって轟?」
「あぁ」
マジかよ!早速お前と競うことになるとはな!
お互いが対戦相手だと知って、爆豪じゃないが少し気持ちが高ぶるのを感じた。
お手柔らかに頼むぜ、と軽く牽制の挨拶もつぶやいてみたが、返ってきた言葉は意外と好戦的で。
「一瞬で終わっちまったらわりぃな」
カッチーン、今のは効いたぜ轟、いいぜやってやんよ…見てろよ!一瞬で終わらせちまうからなぁ!?
舞台となるビルの中、核が置かれたフロアに尾白と葉隠さんと3人で作戦会議だ。
ビルの見取り図を頭に叩き込みつつ、ヒーローチームが攻め込んでくる5分以内に作戦を立てなくちゃいけない。
「てなわけで互いの把握から、葉隠さんは透明で良いよな?」
「そうだよ!私さっきの轟くんの発言にカチンと来ちゃったんだよね!二人とも、私ちょっと本気出すわ、手袋もブーツも脱ぐわ」
「うん…」
葉隠さんは唯一着ていた手袋と靴を脱ぎ、正真正銘の透明になった、1つだけ付けられた小型無線機の存在でようやくそこに顔があるんだろうと推察できる。
まぁ俺っちは匂いで気付けるからまだ良いけど、それより今の葉隠さんって…裸なんだよね…。
曖昧な表情でお茶を濁しつつ、俺っちは尾白を見た、尾白も葉隠さんの行動に微妙な顔をしている。
「俺は尻尾があるだけだ、だから単純な肉弾戦の方が得意」
「俺っちも肉弾戦かな」
「つまりこのチームに欠けるのは…遠距離と索敵能力?」
「だな、加えて轟の個性は知ってる、炎と氷を同時使用可だ、メインは氷の方、多分本気出せばこのビル丸ごと凍らされるぜ」
「よりにもよって遠距離最強格が相手か…」
今回、何と言っても轟が重い。
多分あいつは戦闘で炎を使わないだろう、轟の現状を考えるにそれは9割方確実だ。
問題は氷の方だ、俺っちは対策がある、が、2人は圧倒的不利に晒されることになるぞ…。
「轟の相方…障子の個性ってあの腕だよな?詳しく知ってる?」
「体力テストで見た限り、あの腕の先が口になったり目になったりしてた、多分自分の体の一部に変えられるんじゃないか?」
「それに握力凄かったよね!540キロ!」
「轟が遠距離、障子が索敵…見事に逆だなー今回!面白くなってきたぜ…」
「皇くん悪い顔してる!敵っぽいよ!」
「敵チームだからね!さてそれで作戦なんだけど…」
現段階で思い付いた作戦を2人に伝える。
俺っちは策士じゃないから、作戦立ては得意じゃない、断然現場で仕事する方が好きだ。
そんな拙いだろう俺っちの作戦を、2人は真剣に聞いてくれる。
時折意見してくれて、それに合わせて作戦の微調整を済ませれば、いけそうな気になってきた。
あと数分後のことを考えると、思わず口角があがっちまう。
「じゃあこれで!あとはこれを主軸に臨機応変に、無線機での連携はしっかり取ること」
「でも本当に良いのか皇、この作戦お前にかなり負担がかかるけど」
「ヘーキヘーキ、むしろ君たちの方が負担がでかいって、一番大変な役回りをさせちまうから反対されると思ってた」
「そんなことないよ!それがベストだと思ったもん、皇くんの作戦、のらせてもらうよ!」
「あぁ、俺も、頑張ろうぜ!」
「おぅ!…それじゃ配置につこう、大舞台の始まりだぜ」
「四階、北側の広間に2人、もう1人は同階のどこかに素足だな…透明の奴が伏兵として捕らえる係か」
両腕から生えた腕、3対の腕のうち2対の手首に相当する部分が口の形になり、索敵の内容を相方に伝える。
複製腕の個性を持つ障子の報告をそれとなしに聞いた轟は、徐に右手を構えて障子に言う。
「外出てろあぶねぇから、向こうは防衛戦のつもりだろうが俺には関係ない」
建物の外壁に触れた右手、するとたちまち冷気が轟を中心に広がり…あっという間に、ビルは絶対零度の氷の世界に包まれた。
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