成り立たない関係




部活の休憩中、ギャラリーや入口の扉をぐるりと見渡して花巻が口を開いた。

「なあ、最近来なくね?」

花巻のその言葉に、岩泉の肩が跳ねた。それに気づかぬふりをしてか、何事もないような顔で松川はタオルで首筋を拭い花巻に答えた。

「あー、春原さん?」
「そーそー。最近差し入れもないし」
「お前それが目的だな」
「いや、俺がここで春原が目的ですなんて言ったら岩泉に殺されるだろ」

全く潜んでいない声で口元に手を当てて話す花巻に松川は笑った。

「それもそうか」
「それに春原そもそも岩泉しか目に入ってません!っって感じじゃん」
「まあ、そうだな」
「んで?なんで来なくなったの?」

二人の視線が及川と岩泉に向いた。

「マッキーもまっつんも気づいちゃったかー」

おどけたようにそういった及川に、花巻がニヤニヤとした表情を浮かべた。

「なになに、やっぱりなんかあった感じ?」
「ピンポーン!だーいせーいかーい!」

茶化すように言った及川を岩泉が睨んだ。

「クソ川しね」

その反応を見て驚いた花巻が口を開いた。

「え、何。ついに手を出しちゃったとか?」

それで避けられてんの、と聞いた花巻に及川が人差し指をチッチッチ、と振った。

「マッキー違うんだよ。その逆」
「え、逆?……岩泉が襲われたの?」
「ちげえ!」

ムキになって否定した岩泉に花巻は苦笑した。その隣で顎に手を当て、なにか思い当たったかのように松川が口を開いた。

「もしかして振ったの?」

松川のその言葉に花巻が目を丸くした。

「はァ!?まじ??」

ありえねえだろ!と言う花巻から岩泉は目を逸らした。

「それがマジなんだなー」
「及川黙れ」
「マジかよ。でもさ、なんで?」

純粋に疑問なんだけど、と言う花巻に岩泉は目を眇めた。

「いや、お前春原のこと好きなんじゃねえの?」
「……」

どんどん眉間に皺がよる岩泉に花巻はぽかんと口を開けた。

「え、なに。違うの?」
「岩ちゃん、栞のことは幼馴染としてしか見れないんだって」
「はあ!?それ本気!!?」
「いや、別に嫌いなわけじゃねえ」
「気づいてないだけの可能性は?」
「気づいてない?何にだ」

首を傾げる岩泉に花巻は苦笑した。

「いや、及川もそうだけど、幼馴染があんなに可愛いわけじゃん。胸もそこそこあるし脚綺麗だし、正直抜いたことくらいあるだろ?」
「「そんなのある(ない)に決まって、」」
「え、」
「あ゛?」

ギロ、と及川を見る岩泉の目は怒りを含んでおり、及川に詰め寄ろうとするのを見て及川は焦った。

「待って岩ちゃん!本当に待って!健全な男の子なら仕方ないでしょ!?」
「あいつは幼馴染だぞ!」
「そ、それとこれとは話が別と言いますかー…」

今にも殴りかかりそうな岩泉の肩に松川が手を置いた。

「岩泉の場合は自分じゃなくて、他人に当て嵌めたら?」
「他人?」
「自分が春原さんのこと抱けるかどうかじゃなくて、他人に抱かれたらどう思うかってこと」
「それは普通に俺も嫌だけど」
「及川は黙ってて」
「はい…」

黙り込んだ岩泉の肩をポンポンと叩いた。

「それが答えじゃない?」
「…いや、」
「なに?理由が欲しいの?そんなのいくらでも作れると思うけど」
「まっつん怖いよ…」

強めの口調でそう言った松川に及川が一歩引いた。

「いやずっと見てた身としては春原さんの肩持ちたくなるじゃん。例えば一緒にいて心地がいいってだけでも“理由“にはなる。まあ確かに花巻の言う抱ける抱けないも大事かもしれないけど」

その松川の言葉を聞いた及川は、岩泉に視線を移した。

「岩ちゃんは栞のこと大事にしすぎて触れないって感じだよね」
「……」
「あれ?殴ってこない…?図星!?」
「うるせえクソ川」
「いたっ!殴ることないじゃん!」

殴られた腕を擦りながら及川は、花巻の後ろに隠れた。

「当たり前の存在って失って気づくとか言うけどそれかもなー」

頭の後ろで手を組んだ花巻は岩泉を見つめた。それを見た及川は口を開いた。

「ちなみにその日は近いかも」
「その日って?」
「岩ちゃんが栞を失う日」

しれっとそう言った及川に岩泉は目を見開いた。

「アイツ、今度デートするんだよ」
「へえ」
「春原も岩泉を忘れるのに必死ってことか」

松川と花巻のその言葉に岩泉は黙り込んだ。

「うん、そうみたい。去年から四回も告白してきたやつとデートするんだって」
「は!?四回!?」
「春原さん凄いね」
「……なんだそれ、俺知らねえぞ」
「ね、幼馴染なんだから告られた時に教えてくれてもいいのにさー!あ、ちなみに今度公開の映画を一緒に観に行くって言ってた」
「……それ、女が記憶喪失になって男が記憶を取り戻そうとするやつだろ」
「なにその雑なあらすじ。でも多分それ」

チ、と岩泉が小さく舌打ちをした。

「よくわかるね」

そう言って苦笑した松川に岩泉は口を開いた。

「アイツが見たがる映画はわかる」
「今まで栞の見たい恋愛映画に付き合ってたの岩ちゃんだもんね」
「…ああ」
「ついに俺らの知らない男と見に行っちゃうんだよ」

口を尖らせそう言った及川に岩泉は眉間の皺を濃くした。

「…なにが言いてえんだ」
「その顔こっわ!俺は別に事実を伝えただけじゃん!」
「…そうかよ」
「ま、岩泉も存分に悩めばいいんじゃね?」
「そーだね」

花巻と松川それぞれにポンと置かれた手を、岩泉は両肩から払い除けた。


成り立たない関係
均衡は遠の昔に崩れてる
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