現実は甘くない




「やっほー!岩ちゃんと絶交したんだってー?」

突然部屋のドアが開いたと思えば、徹だった。しかも開口一番これだ。私はドアの音に驚いて視線をそちらに向けた。

「…………なんだ、徹か」
「何その言い方!」
「私忙しいんだけど……なに?」
「忙しいってスマホ見てるだけじゃん!」
「……」

私はベッドに寝転んだまま、スマホの画面に視線を戻した。

「待って無視しないで!」

ドタドタとベッドまで歩み寄ってくる徹に、仕方なく体勢を変え座り直した。

「うるさいなあ」

もう何なの、と言えば徹はその綺麗な顔をわざとらしくにっこりとした表情に変えた。

「良かったのー?」
「……なにが?」
「岩ちゃんのこと」

部屋に入った時から分かっていたけれど、きっとはじめから話を聞いたのだろう。どこまで聞いたのかは、分からないけれど。

「うん、もういい」

私のその言葉に徹は目を丸くした。

「おお、あっさりだね」
「そうかな」

なんだか徹と正面から話すのが気まずくて髪をいじる。意味なんてないのに、もったいぶった感じで毛先に触れた。

「岩ちゃんは納得いってないみたいだけど」
「はじめが納得してもしなくても私には関係ないもん」
「それは、…まあそうだけどさ」

うーん、と言いながら徹が私のベッドにダイブした。

「埃たつからやめて」
「もう、せっかく慰めに来てあげたのに可愛げがない!」
「慰めてなんて言ってない」
「そうだけど!俺の善意!!」

私の横に座り直した徹に視線を向けた。

「いいよもう、終わったことだし」
「栞はそうかもだけどさ」
「早く好きな人作るんだー」

私が軽い調子でそう言うと、徹は一瞬驚いた顔をした後、訝しげに眉をひそめた。

「はあ?」
「ほら、前の恋を忘れるには新しい恋が必要って言うじゃん」
「……」
「え、何その顔」
「別にー。ただ栞っぽくないなーって思って」

全然別に、なんて思ってませんって顔でそんなことを言われても説得力は皆無だ。

「徹はいつもそんな感じじゃん」

新しい恋探すの好きじゃん、と言えば別に好きでやってるわけじゃない!と怒られた。

「って、今俺のことは関係ないでしょ!?」
「はいはい」
「……にしても、新しい恋ねえ」
「うん。ま、実はもうデートの約束はしててさ」

私だって口だけの女じゃない。ちゃんと行動してるんだ。そう思って徹に今度男の子と出かけることを伝えると、ガバッと立ち上がり顔を近づけてきた。

「は!?!?!?誰と!!!!!」
「うっ、るさいし、顔が近い」
「ねえ誰!」
「ちょ、一旦離れてってば!」

徹の肩を押し退けた。

「…で、誰なの」
「……隣のクラスの人」
「隣のクラスの誰」

ジトーっとしつこい視線を浴びせてくる徹にため息が出た。

「プライバシーの侵害」
「その言い方やめて!俺は心配して、」
「…わかってるってば」
「で?デートすんの」
「うん。実はその人には去年から告白されてるんだけど、」
「は?待って?去年“から”?」
「うん。四回ほど」
「四回!?!?」

今日だけで徹の驚いた顔を何回見ただろう。

「うん、四回」
「なにそれ聞いてないんだけど!」
「うん、言ってないもん」
「なんで?」
「なんで、って…はじめに知られたくなかったから」

また徹が目を丸くした。好きな人には、そういうことを知られたくないと思うのが当たり前だと思う。

「ちなみにさ、」
「うん?」
「もしかして、他にもいるの?告白してきたやつ」
「……まあ」

今まで告白を受けた数は、一人や二人じゃない。と言っても片手くらい、だけど。でもそれを幼馴染の二人に言ったことは一度もなかった。

「ええ……全然気づかなかった」
「何に?」
「栞がモテるってこと」
「モテる、って……徹ほどじゃないよ」

軽い調子でそう言えば、徹は呆れたようにため息をついた。

「そういうことじゃなくてさあ」
「ふふ」
「で、その四回告ってきたヤツとデートしてどうすんの」
「……どうすんのって、」

徹がベッドのそばのクッションを引き寄せ、床にあぐらをかいた。

「前向きに検討する」
「なんで?」
「それまた振り出しに戻ってる」

的を射ない徹に段々いらいらしてきた。

「いいから、なんでソイツのこと受け入れたの」
「…だって四回も告白してくれたんだよ?二年も私は断り続けてるのにまだ思ってくれるなんてありがたいなあって思って」
「ふーん?」
「悪い人じゃないと思うし。この間も心配してくれてさ」
「心配?」
「うん。最近元気ないけど何かあったの、って。私はじめのことで落ち込んでても周りに見せないようにしてたのに、すごいよね」
「……そいつ、栞のことよく見てんだね」
「うん」

そう言って微笑めば、徹が複雑そうな顔をした。

「…俺はさ、どうしたらいい?」
「どうもしなくていいよ」
「…なんか、ちょっとヤダ」

複雑そうな顔をして口を尖らせる徹に、私は目を見開いた。

「なに?徹ちゃん寂しくなっちゃったー?」
「違うけど!?俺は栞に彼氏ができても全然寂しくない!」
「なんだ、つまんないなー」

そう言って微笑めば、徹は眉を下げて笑った。
もう、何その顔。


現実は甘くない
私が生きていくためには、
前に進むしかないのだから
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