陳腐で平凡で月並みで




「栞に俺を消したいって言われた」
「………………何の話????」

部活の休憩中、いつもと変わらないように見えた幼馴染が爆弾を落とした。え、本当に何の話してんの?栞も岩ちゃんも何言ってんの。

「自分の中から、俺を消したいって」
「…………ふーん」

これはもうダメかもしれない。すぐにそう思った。栞の気持ちを知っている分、何かあったのもすぐにわかったし、今の関係を続けられないことも理解出来る。でも、目の前に立つこの男には、分からないことなのかもしれない。

「なんか知ってんだろ」
「いーや、何も。でも最近栞来なくなったし、なんかあったんだろうなーとは思ってた」
「……」

黙り込む幼馴染に渋々聞いた。

「告られたんでしょ」

目を丸くした幼馴染に、自分の眉間に少しだけ皺がよったのがわかった。

「お前知って……!」
「いや、岩ちゃんに告ったことは知らない。でも、苦しんでたのは知ってる」

そう言えばさらに目を丸くして何も言わない目の前の男に苦笑した。

「振ったんだ?」
「……ああ」

なんとか、といった様子で絞り出されたその言葉に少しだけ胸が痛んだ。

「まあ良かったんじゃない?栞もスッキリしただろうし。長かったからねえ」

そう言えば岩ちゃんは少しだけ唇を噛んでから口を開いた。

「なんで、」
「なんで、何?なんで教えてくれなかったのか?それともなんで栞を止めなかったのか?」

食い気味に動いてしまった自分の口に、ああ俺は栞寄りだったのか、と思った。

「俺には無理だよ。栞のこと、ずっと近くで見てたんだから」

片思いをやめろ、とも言えない。そもそもある程度は上手くいくものだと思っていた。

「でも俺は、」
「幼馴染でいたいって?」
「……」

沈黙は肯定だ。

「……栞の気持ちになってみなよ。振られた相手と関わり続けるって楽じゃないよ。今後の可能性を本人に否定された上に、もし岩ちゃんに彼女が出来たら?栞にとってはただの地獄だよ」

岩ちゃんの気持ちも分かる。でも今しんどいのは栞だ。

「男女の友情は否定しないけど、バランスが崩れたらもう無理だよ」
「……」
「岩ちゃん、栞のことそういう風に見れなかったんでしょ」
「……ああ」

相手を恋愛対象として見ることが出来なければ、関係は始まらないのだから。

「ならそれは仕方の無いことだよ」

そう伝えたところで、岩ちゃんは納得いっていない様子だ。

「でも俺は、アイツのことは大事に思って、」

そこまで聞いてそういう事じゃない、と思った。

「そうだね、それは俺もだよ。でもこれからの栞の人生を隣で支えていく役割は俺たちじゃないんだよ」
「なんでだよ、幼馴染だって……」
「幼馴染は幼馴染でしかないんだよ。栞はそれを求めてない」

ここまで拗れてしまったのは何故なのだろう。もう三人で笑う日は来ないのかもしれない。
二人が選んだ道なら、俺は甘んじてそれを受け入れるしかない。

「こればっかりは割り切るしかないよ。岩ちゃんは栞を恋愛対象に見れない。栞は今の関係を続けるくらいなら縁を切りたかった。こうなるのは自然な流れだよ」
「そう、なのか」
「うん」
「お前は、いいのか」

岩ちゃんにしてはずるい聞き方をするな、と思った。

「何が?」
「幼馴染の関係が変わる、こと」
「まあ俺は栞と縁が切れたわけじゃないし。俺は二人がそれぞれちゃんと幸せになってくれればそれでいいよ」

そう言って微笑めば岩ちゃんは少しだけ渋い顔をして頷いた。

「……わかった」

目の前の幼馴染は何がわかったのだろう。それを聞くことは出来ないけれど、栞を好きになれなかったと悔やむことはして欲しくない。栞も同じように思うだろう。人の気持ちばかりは強制できることではない。

どんなに頑張っても、どんなに願っても、報われない思いなんてこの世には掃いて捨てるほど溢れている。
ただ、それが今目の前にあるだけだ。


陳腐で平凡で月並みで
そう、俺らにとって“それ”が特別だっただけ
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