伝えたいのに伝わらない






部活が終わってまた更衣室で一人着替える。
大丈夫。私は、大丈夫。このまま上手くやり過ごせばいい。
北と一緒におるのも言うて一年やし、大丈夫。

ロッカーの鏡に映る自分を見て、その短い前髪を触る。私は化粧っ気もないし、黒髪のベリーショートだし、女の子らしさなんて皆無だ。
女として好意を持たれるような外見は、“あの時”手放した。私は北に好かれるような、そんな女の子じゃない。
私はわざと大きな音を立ててロッカーを閉めた。更衣室を出て靴のつま先でトントンと地面を叩く。すると足元に影が見える。あ、と思うよりも前に耳に声が届いた。

「お疲れさん」
「き、北……」

この人は気まずいとか思わないのだろうか。私はバチバチに気まずい。

「今日も送る」
「……いいのに」
「もう暗いし一人で帰すわけにはいかんやろ」

その言葉を無下には出来ず、大人しく首を縦に振った。
駅までの道が遠い。隣を歩く北をちら、と見れば真っ直ぐに前を向いて歩いている。すごく気まずい。北のエナメルバッグがジャージに擦れる音がする。

「気まずい、って思うとるやろ」
「へ、」
「顔に書いてある」
「…………」

何も言えない。事実、やし。

「……俺な、お前と一番仲ええと思っとった」
「うん」
「けど、ちゃうかった」

北のその言葉に腹が立った。

「ちゃうよ!それは、私も同じ気持ちや!私が一番仲ええ男子は北やと思うとる!」
「でも、付き合えへんのやろ」

淡々とそう言った北に、何も言えなくなる。
北のことは好きやけど、“そういう”んやない。

「そ、れは……仲がええのと、その、付き合うとか、は別やん」
「せやろか」
「うん。私は男女の友情が成立するタイプやねん」

北が足を止め、私の肩に手を置いた。

「さ、触らんといて!」
「っ、」

パシン、と北の腕をはたいてしまった。

「ご、ごめんなさい……」

北を見れば、眉間に皺を寄せて口をぐっと結んでいた。

「あ、あの、」
「そないに俺のこと嫌いなん?」

そんな顔せんといてよ。私やって辛いのに。

「……ちゃう。北にだけやない!」
「……どういう意味や?」

北には友人として、正直におりたい。けど、伝えるには勇気がいる。

「……その、私、男の人、苦手やねん」

北が首を傾げるのが分かった。

「は……?何言うてるん?それやったら男バレのマネなんてできひんやん」
「ちゃう!北は何にもわかってへん!!」

私の大きな声に北が目を丸くした。私やってこんなに大きな声が出るとは思わへんかった。
北が動かないのをいいことに、私は逃げ出した。走り出してから考える。私は男の人に触れられそうになったら、気づかれないようにかわしていた。何かを手渡すときは、どんなに仲のいいメンバーにだって絶対に指が触れないよう気をつけていた。
そこまでして、どうして男バレのマネになったかと言えば「変わらなければ」と思ったからで。
“あんなこと”があったって、生きていく上で男性と関わらない、ということは到底無理なわけで。
でも、恋愛云々が無ければ問題ない。触れられなければ問題ない。
高校で心機一転、と思った時に勧誘を受けたのが男バレだった。慣れというものは自分でも驚くもので、中学の時は男の子と話すことも目を合わせることも難しかったのに、今では問題なくこなせる。“友人として”接する分には、なんの問題もない。私のボーイッシュな見た目もあって、男友達ができラフな関係になれた。そう、思っていた。

思っていたのは、私だけだった。

早く家に帰ってシャワーを浴びて、全て流してしまいたい。
体を伝う汗も、この濁った気持ちも。


伝えたいのに伝わらない
なんで私ばっか
こんな思せなあかんの
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