関係の更新延長






「ねえねえ!若利くんと栞ちゃんって幼馴染じゃん!」
「ああ」
「いつから一緒なの?」

夕食を食堂で食べようとしている時だった。天童がいつもの如く、牛島に急に話を振った。

「三歳だ」
「三歳!?へー!十五年も一緒ってこと?」
「ああ」
「それは凄いな」

夕食を乗せたトレイを持って牛島の隣に座った山形がそう言った。

「出会いは?どんな感じだったのー?」
「栞が隣の家に越してきた」
「へー!ドラマみたいだねー!」

食堂だと自然とバレー部の三年で固まることが多い。山形に続き、瀬見もトレイを持って天童の横に座った。

「隣の家に住む女の幼馴染って、男からしたら憧れだよな」
「英太くんもそう思う〜?しかもあんなに尽くしてくれるんだもんねえ」

茶化すようにそう言った天童に牛島は箸を置いて、コップに手を伸ばした。

「確かに応援してくれているとは思う」
「あれを応援って言っちゃうのね、若利くんは」
「? ああ、ありがたいと思っている」

みな苦笑いを浮かべながら箸を取った。

「若利くんさあ、好きじゃないの?」

天童のその言葉に、大平含め全員が吹き出した。

「おまっ、覚!今まで誰も聞いてこなかったことを…!」

山形のその言葉に天童が口を開いた。

「さすがに三年目だよ〜気になるデショ?」

目配せされた大平も苦笑いした。

「それは、……まあな」
「獅音くんでそうならみんな気になってるじゃーん!」

んふふーと笑う天童に瀬見がため息をついた。

「でー?若利くんどうなの?」
「何がだ」
「栞ちゃんのこと、好きなの?」
「ああ」
「「「おお〜!!」」」

天童、山形、瀬見が声を合わせた。しかし、大平だけが首を振った。

「待て、覚」
「なに?獅音くん」
「この感じは、多分違うぞ」
「え?」
「意味を捉え間違えてる気がする」
「んー?」

大平が牛島に向き直った。

「若利、春原のこと、好きなんだな」
「? ああ」
「それはどういう意味だ?」
「どういう……?」

箸を持ちながら思案する牛島に大平は笑った。

「ほらな」
「……大切だと思っている」

今度は天童が牛島の目をじーっと見て口を開いた。

「若利くん、俺のことは?」
「天童?勿論大切だ」
「「「あー…そういう……」」」

また三人の声が重なった。

「若利くんさ、栞ちゃんのこと恋愛的な意味でどう思ってる?」
「恋愛的……」
「そう、チューしたいとかエッチしたいとか」
「…………」
「あれ?若利くん?」
「……そういう風に思ったことは無い」
「そっかー」

天童が少しつまらなそうにそう言うと、山形と瀬見が口を開いた。

「隣にいるのが普通になればそんなもんなのか?」
「三歳からって言ってたしな」

あ!と天童がなにか思いついたように声を上げた。

「若利くんの結婚式とか、栞ちゃん泣いちゃいそうだよね〜」
「号泣する姿が目に浮かぶな」

そう苦笑した大平に皆頷いた。

「……」
「若利?」
「栞が泣く姿は見たくない」

その言葉に、四人はぽかんとした。そして自然と牛島に背を向け、四人でヒソヒソと話し始めた。

「ねえ今のってさ、」
「自覚がないだけな気がしてきた」
「でも若利だぞ」
「そこだよな」
「でもま、栞ちゃんが積極的な進展を望まない以上、このままかもね」

急に背を向けた四人に牛島は怪訝な顔をした。

「……何を話している」
「なんでもないよ若利くん!こっちの話!」
「そうか」

素直なのか気にしない性格なのか、天童の言葉を聞いてまた箸を動かし始めた。

「でもさ、栞ちゃん卒業したらどうすんのかな」
「春原頭いいから進学だろ?」
「それは分かってるけどどこの大学行くのかなって。若利くん聞いてる?」

そう話を振れば牛島は箸を止めた。

「……栞の進学先、」
「そう!」
「知らない」
「え、そうなの」

天童は意外そうな目を向けた。

「まあまだ決まってなくてもおかしくはないよな」
「でも春原は学年トップ10だぞ。決まってそうだけどな」

すると横からあの、と声がした。そちらを向けばいつの間にか隣に座っていたバレー部の後輩たちがいた。先程の声は白布のものだった。

「なにー?賢二郎」
「春原さん、第一志望は県内の国立大です」

その言葉に三年の面々は目を丸くした。

「えっなんで賢二郎が知ってるの」
「時々勉強教えてもらうんですけど、その時にちらっと聞きました」
「へえ、栞ちゃん県内なんだ。意外〜」
「俺!春原さんは東京かと思ってました!」
「工ゥ、声が大きいよ」

箸でビシッと五色を指さす天童に瀬見は笑いながら口を開いた。

「でもまあ、少なくとも関東圏だと思ってはいたよな」
「てっきり若利について行くとばかり」
「賢二郎、理由聞いてないの〜?」

白布は三年からの視線に少し緊張しつつも口を開いた。

「俺も気になって聞いたんですけど、上手くはぐらかされました」
「ふーん」
「でもまだ考え中って言っていたので確定ではないと思いますけど」

まあまだこの時期だしな、と山形が呟いた。

「十五年来の付き合いが希薄になっちゃうね、若利くん」
「今生の別れというわけではない」

天童の言葉に牛島はキョトン、とした顔をしてそう言った。

「そうだけどさ、ほぼ毎日会ってたのに何年もも会わなくなるかもしれないんだよ?」
「何故だ」
「何故って、……栞ちゃん宮城(こっちで若利くん東京とかなら物理的に会えないよ?」

もしこの二人が交際したとして、それがたとえ遠距離でも上手くいくだろうな、と思いながら皆箸を進めた。そういう関係になる日が来るとは限らないが。


「栞は俺に会いに来るだろう?」


その言葉に、全員が止まった。白布に至っては掴んでいた白身魚のフライが皿に落ちた。ぽかんと口を開けて自分を見るチームメイトに牛島は少し居心地が悪くなった。

「……なにかおかしな事を言ったか」
「いや、当たり前みたいに言われたからびっくりして」
「ある意味春原の調教だな」
「当たり前を十五年刷り込むとこうなるんだねえ」
「春原が自分に会いに来るって言い切れるあたり凄いよな」

瀬見、大平、天童、山形と視線を移した牛島は首を傾げた。


関係の延長更新
「栞が会いに来ないと思うのか?」
「「「「……思わない」」」」
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