05.人はこんなにも目出度い



「お前、なんでこないだ来ォへんかったんや」

お昼時。お弁当を売っている屋台の前で平子隊長と出くわした。今回は、偶然に。だって平子隊長めったにお弁当買いに来ないし。外か食堂で食べることが多い人だ。挨拶もせず、そう問いかけてきた彼に月並みな返事をした。

「え?」
「先週末の飲み会や。雛森に誘われたやろ」

少し不機嫌そうな顔で、というかいつもこの人はかったるそうな雰囲気を出しているけれど、いつも以上にそういう雰囲気が出ていた。あまり不機嫌な時に絡みたくない。相手の調子によっては、上手くいくものもいかなくなる。諜報の鉄則は、相手の気分を良くして喋らせる。これに尽きる。のだけれど、雛森副隊長、上手いこと断ってくれるんじゃなかったのか、と思いつつ申し訳なさそうな顔を作った。心の隅では、お願いだから唐揚げ弁当売り切れないで、と念じながら。

「ああ!ありがとうございました!でも、折角のお誘いだったのに断ってしまって…、すみません」
「ホンマやで」
「確かその日は遅くまで会議が入ってしまっていて」

適当な嘘をつく。仕事以外の理由で断れそうな雰囲気でもなかったし、これで分かってくれるだろう。流石に仕事を放ってまで飲み会に来いとは言わないだろう。乱菊さんはよく言うけれど。すると、眉をひそめこちらを見つめる瞳と目が合った。

「ほーお。雛森に聞いた理由と違うんやけど」
「え?…あー、えっと……」

雛森副隊長何を言ったんだ。あんな可愛い顔して約束を破るだなんて。

「なんや言い訳があるなら言うてみィ。聞いたるわ」
「えっと、言い訳、と言いますか…本当は、行きます!ってすぐに返事したかったんですけど…雛森副隊長に参加される方を聞いたら、ちょっと私は場違いかなって思ったので…その、」
「おうおう、雛森もそないなこと言うとったわ」

やっぱり雛森副隊長は全部伝えてしまったっぽい。くそう。

「…いくら平子隊長と仲良くさせていただいているとは言え、私は他隊の十二席、ですし…」

これ以上言い訳というか、伝えようがない。直接的に、「平子隊長が上級席官の飲み会に他隊の下級席官を連れてきた」なんて噂がたったら困りますよね?などと言ってしまったら、私の気が利くキャラ設定が揺らぐ。それに、そもそもここはお弁当の屋台の前で、往来がある。どうしても目立つこの人と長時間いるのは良くない。この人は金髪で、関西弁で、隊長なのだ。
それに、彼と接触を始めたこの短い間で最初に分かったことは、この人はモテるという事だ。色んな隊の特に若い子たちが、噂しているのをよく聞く。変に自分が的になるのは望ましくない。それに関係を勘ぐられるのも諜報においては邪魔にしかならない。さてどうしようか、と次の言葉を考えていた。すると、平子隊長がはあ、と大きく溜息を吐いた。

「お前は、」

そう言って私の頭に手を乗せた。突然のことにその手を受け入れるしかなかった。

「そないに俺に気ィ遣わんでええねん」
「す、すみません……」

頭をポンポンするその手を振り払うことも出来ず、咄嗟に顔を上げ目を合わせてしまった。目の奥が、濃い、気がする。

「次」
「へ?」
「次誘ったら、絶対に来ィや」

絶対やぞ、そう言って私を見る彼の目は、いつもより“好意”や“欲”に満ちていて、ああこれは、と思った。
それを向けられているのは私だ。

はこんなに目出度い
なんにも知らないで
こんなにも真っ直ぐに人を好きになれるのだから
 
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