04.廉直な不道徳

「春原さーん!」
「雛森副隊長?」

お昼休みから、少しずらしてお昼をとっていた。ガラガラにすいた食堂でB定食を食べていた。ほうれん草のおひたしが美味しい。すると雛森副隊長が声をかけてきた。

「春原さんもこの時間にお昼?」
「ええ」

雛森副隊長はもう食べ終わったところみたいだ。

「何かありましたか?」
「あ、業務とかでは無いんだけどね」

そう言って私の前の席に座り、詳細を話し始めた。どうやら飲み会のお誘いらしい。

「平子隊長が、春原さんも誘ってこいって」

くすくす笑う雛森副隊長は可愛い。飲み会か。またいいチャンス、と思ったが飲み会が有利に働くのは時と場合による。

「是非、と言いたいところなんですが、どんな飲み会なんですか?」
「えっと、参加者はね……」

そう言って名前を挙げだした雛森副隊長に面食らった。隊長副隊長や、上位席官の名前ばかりが挙がる。

「どうかな?」
「えっと、せっかくのお誘いですが、今回は遠慮しておきます。すみません」
「どうして?平子隊長も、乱菊さんとかも残念がると思うよ?」

お仕事忙しい?と雛森副隊長が食い下がる。私を知っている人は不審に思わないだろうが、知らない人からしたら、一人だけ下級席官がいることに違和感を感じるだろう。下手に探り入れられても困る。

「んー、お話聞いた限りでは、五席以下の方はいらっしゃらないですよね?」
「え?ああ、言われてみればそうだね」
「そこに十二席の私が参加するのは場にそぐわないかと…それに平子隊長から誘ったとなれば、良くない噂も立っても困りますから」

にこ、と差し障りのない笑みを浮かべてそう返事をした。雛森副隊長は少しきょとんとした顔をしていた。

「……春原さんて、…すごいね」
「え?」
「平子隊長と一緒にいるところしか見てないから知らなかったんだけど、本当はすごくしっかりした人なんだね」

ごめんね、こんな失礼な言い方で、という雛森副隊長を見つめながら私は笑みを返した。

「そんなことないですよ、抜けてるってよく言われますし」
「私ならそこまで配慮できないもん」
「いやいや」

雛森副隊長は少し考えた素振りをしてから口を開いた。

「春原さんが、みんなに好かれてる理由が分かった気がするなあ」
「そんなことないですよ〜」

そんなことあるに決まっている。“そういう”人間を演じているのだから。少しお調子者で、でも謙虚でいい人。それが、私。

「ううん。乱菊さんの話聞いててもすごくいい子なんだなって思ってたし」
「そんなに褒められることないので恥ずかしいです」

へへ、と笑いながらそう返した。

「平子隊長には上手いこと言ってもらえますか?乱菊さんには…次必ず行きますって伝えてください」
「うん、わかった。ごめんね、変に気を遣わせちゃって」
「いえいえ!お誘いいただいたことは本当に嬉しかったので!」
「また、春原さんが来やすそうな飲み会とか食事会があったら声掛けるね」
「はい、助かります」
「じゃあ、またね」
「はい、また」

雛森副隊長が、席を立ち食堂を後にする。
冷めてしまった味噌汁に箸をつけた。


直な不道徳
経験と知識に基づく
計算された距離感
 
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