02.仕事と日常のさかいめ

「隊長たちが戻ってきたことやその他諸々おめでたい事に〜?カンパーイ!」
「「「乾杯!」」」

相変わらずゆるゆるな乱菊さんの音頭で歓迎会は始まった。私は宴会場の隅で様子を伺う。司会進行の雛森副隊長が、皆さん酔う前にご挨拶を!と大きな声で言っている。三番隊隊長に復帰した鳳橋隊長から挨拶が始まった。鳳橋隊長の情報も少しは見聞きしていた。“対象”と百年以上前一緒にいる人だ。油断はできない。そして、平子隊長の順番が回ってきた。

「え〜、ご紹介に預かりました。平子真子ですう。若いモンは知らんと思うけど、これでも元々隊長やから敬ってや〜」

ワハハ、とひと笑い起きて挨拶は次の六車隊長に移った。それを見ながら、私は彼にどう近づくかをひたすらに考えていた。





「栞飲んでるゥ〜?」
「乱菊さん…って酒臭いです〜」

肩に手を回し、撓垂れかかってくる乱菊さんをあしらう。

「冷たいわね〜こんな端っこにいないでこっちに来なさい!」
「ああっ、乱菊さん!お酒がこぼれますから!」

腕を掴まれ無理矢理立たされる。そのまま賑やかな方に連れて行かれた。

「ほら!アンタも挨拶しなさい!」

そこには復隊した隊長たちが顔を連ねていて面食らったが、これもチャンスと捉えるしかない。

「えっと、初めまして。二番隊十二席の春原です」
「この子も結構飲むんで可愛がってあげてくださいね〜」

あはは、と笑いその場をやり過ごす。お酒の力があるとは言え、隊長三人を前に探りを入れるのはキツい。

「へえ、二番隊」
「あ、はい」

六車隊長が私を見つめてきた。居心地が悪い。

「そんなひょろひょろな体で二番隊の任務が務まるのか?」
「あはは、これでもなんとかなってます」
「この子は体力っていうより頭脳派なんですよ〜ちょーっと抜けてるとこありますけど」
「ら、乱菊さん!」
「あはは、ごめんって」

乱菊さんに絡まれながらも隊長たちと何気ない会話を続けた。隊長たちと話したい人は沢山いるだろう。また色んな人に絡んでいる乱菊さんに目を奪われていた。今日の接触はこんなものかなと思っていると、いつの間にか平子隊長が隣に座っていた。ぎょっとして横を見ると目が合った。

「便所から戻ったら席取られてん」

平子隊長の座っていたところを見ると乱菊さんが鳳橋隊長に絡んでいた。

「ふふ、何飲まれます?」
「んー、麦がええなあ」
「ダブルですよね」
「お、よう見とんなあ」
「えへへ」

店員さんを呼び、注文をする。すぐに運ばれて来たそれは平子隊長の手に収まった。

「ほら、乾杯」
「えっ、…はい、乾杯、です」

平子隊長が傾けてくれたグラスにコツンと自分のグラスをぶつける。麦焼酎が平子隊長の喉を通っていく。

「お前も飲みっぷりええなあ」
「いや、乱菊さんに比べたら」
「ほら、あれ見てみイ」

指さされた方を見ると乱菊さんが潰れかかっていた。一升瓶を抱えながら何か叫んでいる。

「ああ、またあんなになって…」
「お前飲んでる量あんま変わらんやろ」
「そんなことないですよ、嗜む程度です」
「お前おもろいやっちゃなァ」
「そうですか?」
「十二席やのに、隊長相手にそんだけ喋れるってええ度胸しとるで」

そう言って笑う平子隊長に笑顔で返事をした。

「あー、わたし楽天的だってよく言われます」

あんまり物事深く考えられないんですよ、と付け足す。

「栞〜〜〜」
「ぐえっ、ら、乱菊さん〜」
「平子隊長ぉ〜、この子めちゃめちゃいい子でしょお〜?」
「おうおう、気に入ったわ」
「ですよね〜!二番隊に置いとくのが勿体無いくらいでえ」
「そやなあ、五番隊ならいつでも来イや〜」
「日番谷隊長もいつでもおいでって言ってるんですけどお」
「ふふ、私には勿体無いお言葉です〜」

本当にこの子は、と酔っ払いながら言う乱菊さんだが、見た感じ限界が近そうだ。

「ほら、乱菊さん、そろそろお開きですし、もうお酒やめましょ」
「いやよ〜まだまだ飲むわよ〜!」
「乱菊さんってば……」
「平子隊長たちも二次会行きますよねー!」
「そう言われたら断れへんやんか」
「やったー!栞も行くでしょ!?」
「んー、」
「お前も来イや、じゃなきゃ誰が面倒見んねん」
「え、わたし乱菊さんの子守りですか」

そう言いながら二人で乱菊さんを見つめる。本人はフラフラと千鳥足で歩き、今度は六車隊長に絡んでいた。

「ええやん、もう少し飲もうや」

そう言う平子隊長に微笑み返した。


事と日常のさかいめ
滲みすぎたそれは
自分ではもう、わからない
 
×