19.優しい凶器 「……どういうことですか」 心の底からの質問だった。私を見ていたとはどういうことなのだろう。彼は常時現世にいられるほど暇ではない。五番隊の隊長なのだから。彼が座り直したのかベッドが軋む音がした。そして彼の深い溜息が聞こえた。 「俺がお前の正体知って色々考えとる内に、お前勝手にいなくなったやろ。その後、二番隊の隊長さんと話す機会があったから聞いてん。お前の任務のことも、お前のことも」 「砕蜂隊長に、ですか」 「おう、それでお前が現世にいるって知ったんや」 砕蜂隊長がどう説明したのかは推し量れないが、ほとんど事実を伝えたのだろう。しかし、それでここまで叱りに来たのだったらこの一年を待たなくてもいくらでもチャンスはあったはずなのに。 「それで気になってこっちでの任務の度にお前のこと探して見ててん」 「……」 「そしたらお前、任務外で何や危なっかしいことしとるやろ」 そう言って自嘲するような薄笑いを浮かべた。彼は私ではなく、私の義骸を見ているようで、視線は合わない。そしてどうして彼がそんな表情をするのか、私にはわからなかった。 「まあええわ。現世任務もう終わるんやろ」 「……はい」 「あっち戻ってゆっくりしたらええわ」 そう言って彼は立ち上がった。あまりにも彼は“普通”に接してくる。確かに過去に関係のあった女が襲われていたら助けなければ夢見は悪いかもしれない。でも私を救護室に運んだ後、私が起きるのを待たずに瀞霊廷に戻ることだって可能だった。けれども、彼は私が目を覚ますまで付き添ってくれていた。 「あの、」 「ん?なんや」 目が、あった。 一瞬、どうやって酸素を取り込んだらいいのか分からなくなり息が詰まる。でもどうしても、私は彼の真意を知りたかった。 「……怒ってないんですか」 色々聞きたいことはあるのに、私の口から出たのはその言葉だった。それを聞いた瞬間、彼は少し驚いたように目を見開いた。しかし、直ぐに元の表情に戻る。 「…お前のことを、か」 「はい」 私はこの後に続くどんな罵声も全て受け入れる覚悟があった。私は今から自分の想い人に面と向かって嫌いだと言われるのだろう。 私は、彼にわからないくらい小さく深呼吸をした。受け止めなくては。 「あの時は、自分でも引くほど頭に血ィ上っとった」 それはそうだろう。あの時の彼の表情を思い出したら、そう思うのが当たり前だと思う。唇を噛む力が自然と強くなった。 「でもなあ」 急に彼の声が優しくなった。私はその優しい声色に、思わず彼の顔を見る。そこには、何か言いずらそうに立ち尽くす彼がいた。私を見て、言葉を迷っているみたいだ。 少しだけ、二人の間に沈黙が続いた。 「お前のこと憎みきれん自分がおったし、それに事情を知ってもうたらなァ…お前も仕事やったわけやし」 そう言いながら自分の後頭部に手を当てる彼は、私がそばにいた時と同じ顔をしていた。どうして。どうして今、貴方がそんな顔をするの。 なにか言おうとしても声が出なかった。それを彼も分かったのだろう。喉の奥が痛い。まだ、助けてもらったお礼も言えていないのに。 「俺はもう戻るわ」 そう言って部屋を出ていく彼を呼び止めることも出来ず、私は布団をすっぽりと頭まで被った。 優しい凶器 刺されたみたいに 心臓が、痛い ×
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